玲司と弓月
(玲司と弓月)
「あ、れーじ何それー」
ぱたぱたと駆け寄ってきた弓月の頭に、わけはないけどチョップしてみる。なんとなくだ。いつもオレの名前を間延びして呼ぶことに軽くイラっとしたかもしれないし、腹が減ったときにだけ寄ってくる猫のような性格が気に食わなかったからかもしれない。
いったぁ…とこっちを睨む弓月に、個包装のチョコレートを投げ渡す。持ち前の反射神経でそれをキャッチした弓月は、珍しく顔を輝かせた。
「チョコ! ありがとれーじ」
「おー」
ついでに、手に持っていた袋の中身を全て机にぶちまける。チョコにクッキーに飴…どんだけ買ってきたんだあの人。
口をむぐむぐさせながらオレの隣に立った弓月は、感心したように「ほー」と言った。
「これ全部れーじが買ってきたの?」
「いや、母親が。あの人よく寮来るんだよ」
へえ、と気があるのかないのか分からない返事をして、弓月はさっきと同じチョコに手を伸ばす。オレは特に甘いものは好きじゃないから、ただそれを見ていた。
「気に入ったのか?」
「うん。おいしい」
あまり感情の起伏の見えない表情で、弓月は淡々と述べた。その様子に、なぜだかまたイライラした。
椅子に座ってから、その包装紙のチョコを幾つか選び出し、弓月の前まで滑らせる。ん?と首を傾げた弓月に、投げやりに呟いた。
「やるよ。オレ別にいらねーし」
「え、いいの? やったー」
初めて、笑顔のようなものを見せた。じり、心の奥の方が焦れる感覚。なんっだこれ…わけわかんねぇ。
早く誰か来ねえかなあ、ていうか佐々木来いよ今すぐ。携帯を開くと、佐々木からメールが来ていた。
『ちょっと遅れるかも☆~(ゝ。∂) 女子に呼び出されたwww』
とりあえずお前は死んどけ。その女子に謝れ。なんであんな奴がモテるのか、未だに謎である。
森山が来たら…またオレの胃がダメージを受けるな。あーくそ。
黙々とチョコを食らっていた弓月が、同じく携帯を見て、本当に、嬉しそうに笑った。
オレが弓月にイラつくのは、いつもオレの名前を間延びして呼ぶことにかもしれないし、腹が減ったときにだけ寄ってくる猫のような性格が気に食わなかったからかもしれない。それか、あんな笑顔を、一人にしか見せないからかもしれない。
玲司は弓月が恋愛の意味で好きなわけじゃないんです。ただ、笑った顔を愁さんにしか見せないのが気に食わないだけなんです。(わかりづらい)