愁さんと弓月
(愁さんと弓月)
「あぅ…さむい」
うえぇ、と俺の後ろでうめく弓月に、苦笑いする。
寒いの分かってるんだから、ついてこなきゃよかったのに。行き道にも言ったそれはどうにかして飲み込んで、俺は白い息を吐き出した。
ほら、と差し出したココアを、弓月は嬉しそうに受け取った。ありがとう、そう言われ、俺は黙って笑った。
弓月は手が小さい。というより全体的に小さい。身長も、手も、靴のサイズなんかも。でも目は大きくてくりくりしてて、可愛いなあ、と思う。
少しだけココアを啜り、熱いと舌を出した弓月は、冷えた指を温めるように缶を握った。
弓月の赤いチェックのマフラーは黒髪に映えて、よく似合っている。そのマフラーは、実は俺と色違いだった。
近くに停めた学校の自転車のカゴには、ビニール袋に突っ込まれた、寮でのクリスマスパーティのお菓子とかジュースとかが入っている。
本当は俺ひとりで行くはずだったのだが、弓月が一緒に行きたいと言い出したのだった。
その帰りに、公園に寄り道した。玲司怒るかな、まあいいか。アイツ、怒ってもあんまり怖くないからな。
今日は特に冷える。はあ、と手に息を吐きかけると、弓月がこっちを向いた。
ぎゅう、なぜか手を握られる。ココアの缶で温まった手の熱が、じんわりと伝わった。
「どうしたの」
「…いや、寒いのかなあって」
弓月が不思議そうに俺を見上げる。黙ったままの俺に恥ずかしさを覚えたのか、うろうろと瞳を彷徨わせた。
寒さとは違う理由で染まったその頬に、そっと唇を落とす。
「…恥ずかしいんだけど」
「誰も見てないし、いいでしょ」
照れ隠しに弓月が投げた空き缶は、すこん、とゴミ箱に入った。
ないっしゅー。拍手して見せれば、弓月は得意げに顔を上げた。
「よし、行くか」
サドルに腰掛けると、勢いよく荷台に飛び乗ってくる。どか、ついでにタックルもかまして頂いて。
ぎいっと漕ぎ出したペダルには、二人分の重さがのっかっていた。