水の敵意と風の抱擁 止まった運命
「だったら・・翠鈴というのは
どうでしょうか?」
彼は戸惑いながらもそれを口にした。
「スイ、リン・・ですか?」
私はその呼び名に驚いた。
よりにもよって・・精霊達と同じ・・。
『なんだって!?あいつ人間の分際で
僕等と同じ呼び名を・・・!!』
『適当な理由をつけたら承知しないぞ!!』
『風使いでも僕等には勝てないぞ!!』
自分の周りの水の精霊達の殺気がぐんと高まるのを感じた。
「駄目・・でしょうか?」
彼は風使いだ。
どんなコトだって、感じ取れてしまうはずだ。
水の精霊達の言葉は通じなくとも殺気なら・・肌に刺さるのを感じるはず。
それなのに彼は私だけを見つめて答えを待っている。
この泉で主導権を握っているのは私だから。
でも、精霊達は、舞を邪魔された挙句に呼び名が同じときた
我慢ならない者だって多いはず。私の言葉だからって聴いてくれるだろうか。
【・・お願い。殺気を諌めて。・・彼に悪意はないはずだから。
あなたたちも感じるはずでしょう?】
心の中でそう諌め問いながら私は考えた。
彼は水の精霊達の殺気を、風の精霊達の抱擁で包んでいるのだと思った。
風の精霊が彼の周りと、水の精霊達の周りを包むようにゆったりと回っている。
水の精霊達の殺気や敵意が攻撃に移り変わらぬよう抑えているのかもしれない。
『・・スイリンがそう思うならそうしよう。
でも僕たちは気に入らないんだ。スイリンだって苦手なんだろう?』
『そうだよ、スイリンがそいつのこと気に食わないんなら追い払っちゃおうよ!!』
【・・彼が苦手ってわけじゃないけど・・。でも今は手出ししないで、お願い。】
精霊達にそう私は願った。
願ったことで少し、彼等の気は静まった。
だが、風と空兎様に対する敵意はあいかわらずだ。
そして・・
「い、いえ、駄目ではありません。
どのようにおよびしてもかまわないと私は言いました。
名前をいえない私のほうに責任がありますから」
と、彼に答えた。
「ありがとうございます・・。
翡翠の瞳を持った貴方が・・鈴がきれいに音を出すように舞われてたので
翡翠の翠と鈴という字を組み合わせたのです」
彼は水の精霊達に言い訳するようなどこか取り繕った言葉を発した。
「そんな・・あの舞はそんなきれいなものでは・・」
私は首を振った。
そんなきれいな名前をもらえるなんて恐れ多かった。
あの舞は楽しいけれど、義務でしかなかったのに。
水源様の眠りを、封印を解く、ただそれだけのための舞なのだから。
私が生まれたときから持つ、深緑の・・髪と瞳では、水の精霊達と関われない。
深緑は、水ではなく自然を現すのだから。
ざわざわと森が揺れた。
自然は私が水を扱うことに反対はしない。静かに見守ってくれている。
一拍おいてから彼は問いかけてきた。
「いえ・・とてもきれいで目を奪われました。
スイリンさん、あの舞は・・、何故舞っていらしたんですか?」
彼にはいささか興味があるようだった。
それを聞いてどうするのだろう?という思いが私の脳によぎる。
それは水の精霊達も同じだったらしい。
『ハンッ所詮、風は風だな。水源様を呼び戻すために決まってるじゃんか!』
『そうだそうだ、風には関係ないことだ。』
『第一関係ないのに聞いてどうするつもりだコノヤロウ!!』
あちこちでざわめき、風に対する疑惑は募るばかり。
サワサワサワァアーーー
風は風で気まぐれ気まぐれとでもいうようにさわやかな風を流してる。
「・・水の精霊達の主を呼び戻すためです。
こうして泉で水の舞をすれば、泉に魔力が宿り、奥底で眠る主に送られるからーー」
正直に答えた。
そうすれば、この後舞を再び始められると思ったから。
「貴方は・・精霊ではないのですね・・?」
しかし、彼は思いもよらぬ言葉をかけてきた。
妙に確信めいた聞き方だった。
彼の表情はとても真剣ででも、優しかった。
「え・・、あ、あの・・そうです。
精霊では・・ありません。」
思わずそう答えてしまった。
「そうですか、そうですよね・・貴方はしっかりとした実体だ・・。」
彼は妙に不敵なというか、確信めいた笑みを浮かべていた。
「・・・?」
私にとってそれは不思議なことだった。
精霊じゃない、それが・・彼にとって益するところなのか私には分からないのだ。
「あの・・、またここへきてもいいですか?
また、貴方と会って、話がしたい」
「え・・?」
彼はまっすぐに私を見つめた。
不安げにそれでいて私に懇願するような眼差しで。
私はすぐに応えられなかった。
本当に今の彼は、学園での彼ではない。
こんなの彼らしくない。一体どういう心境なのだろう。
・・それともこれが真の彼なのか。
学園での私が本当の私なのに・・こんな水の民の私とこのまま関係を持つのは・・
私には一つの矛盾が生じていた。
彼を思うがゆえに、今の自分にやさしく接してくれる彼といるのが辛い。
でも、話したい、会って親しくしたい。
こんな小さいようで私にとっては大きい矛盾だった。
そして恐怖もあった。
水の民である私を優しくしてくれる分、
学園での私は正体を知られない限り、ないがしろにされるということだった。
彼に拒絶されるのは本当に辛いのだ。そして苦しい。
「これも・・何かの運命だと俺は思うんです。
俺は、この出会いを大切にしたいと思うんです。これっきりというのは少し寂しくて」
悶々と考え、返事をしない私にじれたのか、そう説得されてしまった。
“寂しくて”
その言葉に私はハッとした。
彼は切なそうな表情でその言葉を口にしていた。
・・学園での彼はいつ孤高で、凛とした方で強い方だと思ったけど、
でも、彼も人間なのだ。感情がある。
彼にも寂しいという感情はあるのだ。
そう思うと彼が可哀想で私は思わず頷いてしまった。
「・・はい、水の主の封印が解かれるまでの間なら会うことができましょう。
・・そこまで言われたら私も運命を信じたくなりました。」
私は微笑んだ。
でも、もう学園での私と貴方の関係の歯車は運命は止まってしまった。
そう心に重い事実を思いながら。
空兎・・恐るべし!こんなヤツだったのか!!
何気に甘い空兎様でした(笑)
もうお気に入り登録されていて非常に驚きました。
感激です!!
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