第8話・雨漏りぃ!?
それは夜にやってきた。
ぴっちょん、ぴっちょん──。
規則的な音を立てながら水が跳ねるような音が聞こえる。
メルリアはシエルを起こすと音がどこから来ているのか確かめようと提案した。
シエルはニックを起こした。
グルドフとカイルも起きた。
結局、皆でアーノルドの元へと向かった。
「アーノルド様」
「どうした?」
暗がりだったが、メルリアの声にすぐに反応したアーノルド。
メルリアはやっぱり軍人なんだなと改めて感じた。
「雨漏りみたいな音がします」
「雨漏りぃ!?」
アーノルドは飛び起きた。
「なぜ屋敷で雨漏りをするんだ? 物置じゃないだろう」
「だから住環境は鶏小屋と変わらないんですって」
そこに不満そうなニックが口を挟んだ。
「いや、外の鶏小屋は私が建てたばっかりなんで、あっちは新築ですよ」
「それなら私たちの方が悪い⋯⋯?」
「そんなことはどっちでもいい! 状況確認だ。行くぞ」
一階で確認されたのは一カ所のみ。
雨漏りなら屋根に近い方が雨漏りしやすい。メルリアたちは真っ先に二階へ向かった。
二階部分は半分ほど雨漏りをしていることが判明した。
そのうち父が使っていた部屋の雨漏りがひどく、その下の階にも被害が及んでいた。
時折、突風が吹くようで、屋敷が軋む。
今までこのような大雨がなかったために屋敷がこんなに老朽化しているとは思っていなかった。
特に父の部屋に入った時にアーノルドは悲鳴を上げた。
「こんなの貴族の屋敷じゃない!」
「じゃあお化け屋敷かもしれないですね。ニックに小屋を建ててもらいましょうか?」
「半分現実になりそうで怖い⋯⋯」
暗いので蝋燭を持って行くが、天井までは確認できない。
一応、雨漏りをしているところだけ確認して戻ることにした。
アーノルドとニックは外が明るくなったら、雨漏りの細かい場所を確認するようだ。
メルリアはここまで屋敷が古くなっているとは思わなかった。
* * *
朝になって食堂に行くとグルドフが朝食を用意してくれた。
アーノルドとニックの姿はない。
少しするとふらふらになりながらアーノルドが食堂に入ってきた。
ニックは何かをメモしている。
グルドフが二人にポタージュを出すと、アーノルドは温かいカップを大事そうに手で包んで口へと流し込んだ。
二人は空が白んでくると梯子を持って二階へと向かった。
雨で変色しているところは雨漏りだとすぐに分かったが、分かりにくいところは梯子を登って手で濡れているか確認した。
ニックはその隣で屋敷の地図を取り出すと丸をつけはじめた。
たぶん雨漏りの場所だろう。
アーノルドは一人ひとりの顔を確認した。
何かが始まると感じたのか、皆の視線がアーノルドに集まった。
「この屋敷の老朽化は甚大だ。直さなきゃいけないところがありすぎる。一旦、俺の屋敷に来て、ここは立て直すか」
メルリアは他のところに行くことは考えていなかった。
今までも平民よりも悪い暮らしをしてきたらしいので、今さら気にしていなかった。
「やっぱり私たちもニックに小屋を作って貰いましょうよ」
「少しは贅沢を覚えろ」
メルリアとアーノルドのやり取りの隣でニックは静かに図面とにらめっこしていた。何か思いを巡らせているようだ。
「屋敷の雨漏りは状態がよくなかったです。しかし梁が大丈夫なのであれば、補修するところは限られています」
ニックは直す道を提示した。
メルリアは屋敷にこだわっているわけではなかった。
でもこの生活は気に入っている。
環境が変われば考え方も変わる。
一時的に変えたものは、戻ることはあまりない。
メルリアはアーノルドの屋敷に行ったら、こんな何もないところに戻ってきたいとは誰も言わないと強く感じていた。
せっかく直せるチャンスがあるのに⋯⋯。
何もないけれど、庭もまだ残っているし、牛だって飼えると思う。
時間をかけたらここで暮らしていけると思う。
メルリアは思いのままに伝えることにした。
「私はここに住みたいわ。それに私たちならこの屋敷も直せそうじゃないかしら? 雨漏りはニックが直してくれるし、美味しいご飯を作ってくれるグルドフがいて、身の回りのお世話をやってくれるシエルがいて、いつも癒してくれるカイルもいる。そこにこんなに頼りがいがあるアーノルド様もいるわ」
メルリアの言葉が途切れると静寂が広がる。
するとメルリアの胸は変な音を立てて鳴り始めた。
自分の吐息もよく聞こえてくる。
「そこは頼りがいのある愉快な髭のおじさんも変えてもらおうか。俺も貴族と言っても軍人。力仕事は得意だ」
皆は頷いた。
食事が終わるとアーノルドとニックは梁を調べに行く。
「ニック、屋根の確認に行く」
「承知しました」
冷たくなったメルリアの手を温かいカイルの手が包んでくれる。
「どこに行こうとメルリア様の隣にいますよ」
その言葉に背中を押されて、メルリアは立ち上がった。
「私たちも確認しに行きましょう!」
次回の二角的イチオシシーンは
「あの、寝る支度が出来たら皆でここで寝ませんか?」
皆は目を見開いてメルリアを見た。
皆、なんと言ってよいか分からないようで、誰も声を上げない。
「たぶん、こんなこと二度とないと思うんです。なんにも持っていない私たちが屋敷の屋根までなくしているんですよ。夜空を見ながら寝るなんてこと、この先二度とないかもしれない。ここが始まりなら、皆で胸に刻みつけないな⋯⋯なんて思って」




