第1話・父と母に捨てられた庶子のメルリア(本人は全然気にしていない)
数ある中から作品を選んでいただきありがとうございます!
“しょこたの”の連載版を作りました!
「ギルベルト様、正気ですか? どこの誰かも分からない方を家に迎えて、しかも赤子もいるなんて」
「アリアルテで一番有名な踊り子のミケーラだよ。メルリアも可愛いだろう?」
踊り子らしい母の腕に抱かれたメルリアは、生まれてすぐに前世の記憶を持っていることに気がついた。
話しぶりからするとミケーラと呼ばれた踊り子の母と不貞でできた子どものようだ。
「それでいつお出になりますか」
「え、マーラ何を言って──」
「なぜ屋敷にミケーラさんとその赤子を迎えなければいけないのですか。ありえませんわ」
問題となっているメルリア本人も心の中で大いに頷いた。
(マーラさんは常識人だわ。この父親はどうなっているのかしら)
まだ前世の記憶が色濃く残る頭では、メルリアの目の前で起こっていることは他人事のようだった。
「い、いや、家族だろう?」
「そんなに一緒に暮らしたいのなら私は出ていきます。離婚書は後日お持ちしますわ。それから離婚の公証人はこちらで指名させていただきます。日にちは追って連絡しますわ」
それから、マーラとその使用人たちは最低限の荷物をまとめて出ていった。
それから、屋敷には入れ代わり立ち代わり色んな人がやってきた。
マーラとその両親も来て正式な離婚書を作成。
メルリアの父の親戚と思われる人からも冷たい言葉を浴びせられていた。
メルリアの母は同席しなかったようで、皆が帰ると上機嫌でメルリアの父に話しかけた。
「ギルベルト様ぁ、今度の舞踏会はいつになりますの? それとも夜会かしら?」
「そんなのあるわけ無いだろう。皆、他人事だと思って手のひら返しやがって!」
父は吐き捨てるように言った。
だが、そのひと言で母の雰囲気はがらりと変わった。
顔を真っ赤にしているが、あれは憤怒の顔だ。
「貴方がここに住めるといったから貴方との子どもを産んでやったのよ! 屋敷だけ残っても皆に見放されたらどうしようもないじゃない。こんな没落貴族、平民よりも条件が悪いわ」
母は手鞄に身の回りの物を詰めると乱暴に扉を開けて出ていく。
「お、おい、ミケーラ! 待ってくれ、ミケーラ!」
メルリアは乳母・シエルに抱かれたまま、去っていく母の背中を見ているしかなかった。
「ばぶぶ〜、ばぶばぶ〜(私の父は母に見捨てられちゃったのね)」
まるで物語を読んでいるくらい他人事のようにメルリアは感じていた。
シエルは涙を浮かべ、メルリアを強く抱きしめる。
「お嬢様、大丈夫ですよ。私が守りますから」
「ばぶぶ〜(うちの父がすみません)」
* * *
そして父はほそぼそと暮らし始めた。
メルリアはシエルがお世話してくれるので、生活は何も変わらなかった。
ただシエルが毎日せっせと散歩をしてくれるので屋敷内や屋敷の周りのことが少しずつ分かってくる。
玄関ホールから使用人室、物置の質素な扉その奥には豪奢な装飾の扉──応接室だった。
父の奥さんだった人──元夫人のマーラは何度かに分けて自分の荷物を持っていったので、部屋の調度品からの小物まで綺麗になくなっている。
父の部屋にはクローゼットがあり、中には正装のタキシードや小物、アクセサリーなどがあった。
壁にかけていた名前も知らない画家の高そうな絵は、何の絵なのか最後まで分からなかった。
最後までというのは、売ったのか壁からなくなったからだ。
その頃にはちょくちょく人の出入りがあった。
今思えば、家財の買取業者か荷物の運び出しに雇った業者だったのだろう。
散歩をするたびに物がなくなっていく。
綺麗に装飾を施したドレッサーや父の正装まで。
ドレッサーには宝石も入っていたからそれごと売ったのだろう。
その頃には父は誰とも話さず、屋敷の中の調度品を見て回ることが多かった。
その日はいつもとは違っていた。
なんとあの応接室の扉も荷馬車に積まれていた。
中は何もなくなっていた。
あの日、見た父の背中が最後なのだろうとメルリアは直感した。
父が出ていった夜、それはそれは静かな夜だった。
「旦那様もいなくなったわ。私たちも実質解雇ということね」
乳母のシエル、シエルに抱かれた彼女の息子のカイル、料理人のグルドフ、家の家財を直したり大工が得意なニックが質素なテーブルを囲んだ。
誰もが肩を落としていた。
いや、メルリアとカイルはいつもの日常だった。
没落した父が家を出た頃にはメルリアは三歳になっていた。
さて、メルリアはと言うと、非常に冷静だった。
自分が問題の種のことは知っていたし、両親に捨てられたことも分かった。
でも二十九年間前世で生きてきた記憶からすれば、三年ちょっとしか経っていない。
新しい身体にはまだ心が馴染んでいなかった。
メルリアはシエルのことが大好きだったし、カイルやグルドフ、ニックのことも気に入っていた。
それに生んでくれたのかもしれないが、笑顔も向けなかった父と母がいなくなろうと心は痛まなかった。
いつもメルリアの代わりにシエルが泣いてくれる。メルリアはシエルのことを母だとずっと思ってきた。
だから今度はメルリアが皆を支えたい。
一人だけ息を巻いていた。
「よぉし、やるぞ〜」
次回の二角的イチオシシーンは
(しまった、前世で野草を食べる趣味を持っておくべきだったわ!)
ゆるゆる屋敷を立て直します。




