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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

入れ替わらされた悪役令嬢は生き残る為に戦う

作者: 紅玉林檎
掲載日:2026/07/27

百合は嫌い、大嫌い。

ピンクの髪に薄緑の瞳の、やたらキラキラした娘に仲良くして下さい。

差し出された百合を叩き落とした。


「何をするんだ。マリールゥ、大丈夫かい?」


百合を叩き落とす勢いで、百合を差し出して来た少女も薙ぎ倒していたみたいだった。


百合の香りがうるさい、マリールゥを気遣う男達がうるさい、わたくしを責める婚約者がうるさい。


うるさい、うるさい、うるさい。

前世の記憶がうるさい、幼い頃の記憶がうるさい、全てがうるさい。


「逃げるのか、マリールゥに謝れ」


足早にその場から逃げ出す私に、婚約者のカイン殿下が叫んでいるが、そんなの知らない、知りたくもない。


そんなの知った事か、戦わなくては。

誰から?

ブランシュを殺したあいつから。


私の名前はブランシュ・フォン・リードル。

伯爵家の令嬢である、第二殿下カインの婚約者。

蜂蜜色の髪に蜂蜜色の瞳の平凡な外見の娘。

混乱する国内を落ち着かせる為に、現在、国内を二分している公爵家と侯爵家の権力争いの和解の為に第二殿下との婚約を結んでいる。


私はブランシュ。

の偽物である。


幼い頃から私は私が転生者だと知っていた。

ここが乙女ゲームの世界だとも。

だが、スラムに産まれ、汚水をすする生活をしていた私に何が出来ようか。


ある日、周りが騒がしかった。

スラムが騒がしいのはいつもの事。

石の様になったパンを噛んで飲み込む作業を繰り返していた私は、路地裏の暗闇から揺れる白い百合に目が惹かれた。


ゆーら、ゆら。

ゆーら、ゆら。


谷間に揺れる花の様。

仰向けに倒れている幼い少女は胸に大きな大剣を生やしながら、必死にこちらに手を向けていた。


大剣の柄を握る少年は私に気づくと優しいとしか言い様の無い微笑みで、両手で柄を握るとグイっと押し込んだ。


ぐふっ


少女はそう一言吐き出すと、ただの死体になった。


私も殺されるんだなぁ。

殺されるんだろうなぁ。


鞘を振るい、血と脂を飛ばすと少年は私の前まで優雅に歩きながら、私の前に膝をついた。


見たね。

見たね。

見たね。

人に見られたのは初めてだよ。

君はなんなの?

魂がおかしいね、この世界の物じゃないみたいだ。

面白いね、楽しいね。


少年は私の髪の毛を掴むと、抵抗する私を意に返す事もなく、倒れ伏すブランシュの元に引きずって行く。

あの頃の私は枯れ木みたいだったから、引きずるのは容易だったろう。


「神様が言うんだよ。僕の望みは何でも叶えてくれるって。本当に何でも叶うんだよ」


第二王子の婚約者、この国が揉めない様にと結ばれた婚約。

この国で一番警備されている伯爵家からこの少女を簡単に誘拐して殺すなんて簡単だったよ。


白い手が少年の首に巻きついている。

半透明の白い腕、長い白い髪。

全裸の女が少年を抱きしめ、こちらに顔を向けると深淵の穴の様な黒い瞳を向け笑った。


何かを彼に耳打ちすると、感心する様に少年は頷いた。


「ブランシュを殺したのは駄目だったらしい。ブランシュは悪役令嬢で乙女ゲームのキーマンでお話が終わるまで死んだら駄目だったんだって」


意味がわからないね。

でも、罰として僕の力は7年間封印されるらしいよ。

7って何なんだろうね。

悪役令嬢って何なんだろうね。

意味がわからないね。

面白いね。


少年は私の頭を鷲掴みにすると、死んでいるブランシュの顔に押し付けた。


くるん。


目眩と共に私は仰向けにされ、スラムの家の隙間から見える青空を見ていた。

少年の手には枯れ木の様な私の体がぶら下がっていた。


入れ替えたんだ。

今日から君がブランシュだよ。

神様達、許してくれるかな?


首を傾げる少年に、白い女は嬉しそうに抱きついている。


辻褄が合えば良いんだね。


変なの。

おかしいね。


地面に横たわるブランシュ、私を見て少年は言った。


7年後

殺しに来るね。

君は面白い、またね、また、またね。


またね。


1人になりたくて、校舎裏まで逃げ込んでその言葉を呟いた。


またね。


どうしてこんな事忘れていたのだろうか。

異世界転生の事も乙女ゲームの事もブランシュの事も。


これが彼の言う神様の力だったのかしら。


可哀想なブランシュ。

伯爵家の娘でありながら、あんな風に殺されて、どこに打ち捨てられ土に還ってしまったのか。


「ブランシュ様、こちらにいらっしゃいましたか!」


「ダニエル!」


視界の横から1人の騎士が走り寄って来てくれた。


伯爵家の護衛騎士のダニエルだ。


「ミリエル嬢からブランシュ様が第二王子と揉めたらしいから探しに行く様に言われました」


ああ、さっきのあれを誰か伯爵家の派閥の者が見ていたのね。

味方がいる。

その事に握りしめていた拳が緩む。


「ありがとう。ダニエル。校舎に」


そこまで言いかけて、ブランシュはダニエルの服が返り血に塗れている事に気づいた。


「お前。その血」


「ああ。ミリエル嬢がうるさいから殺しておきました」


は?


遠くから女生徒の悲鳴が響き、空気が慌ただしくなって行く。


夕日に校舎が赤く染め上げられていく。


「7年間、君を見ていたよ。君は美しく誇り高く薔薇の花の様に育った」


白く長い指がこちらに伸びる、まるで夕闇に咲く白い百合。


ダニエルは。

いつから伯爵家にいたのだろう。

いつも側にいたから、ずっと昔からいたんだと思っていた。


長い指が首に巻きつき、夕闇がブランシュとダニエルの顔を隠す。


乙女ゲームの事はたくさんの神々から聞き、勉強したんですよ


「婚約破棄されて斬首、火炙り、毒殺に娼館落ち。どんな貴方も見てみたいが、私が育てた貴方が他の男の手で死ぬのは悔しい」


いつからいたのだろう。

気がつけばダニエルは側にいて、伯爵家の皆と笑っていた。

ブランシュが悪さをすれば、困った顔で笑っていた。


長く細い指がブランシュの首を締め上げて行く。


「勝負をしましょう、ブランシュ様。乙女ゲームの破滅を回避して、そして私を止めるゲームです」


薄れゆく意識の中、ブランシュはそんなの無理だと思った。


既に第二王子の心はヒロインにある。

それを覆して、ダニエルとも戦えと?


戦いましょう、ブランシュ様。

貴方は面白い。


そんな言葉を聞きながら、ブランシュは意識を失った


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