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「絶対に開かないはずの引き出しが、1センチだけ開いていた」

 爺さんが死んだ。100歳だったから大往生と言っていいだろう。亡くなる前日まで割と元気に話していていたというから人間というのは不思議なものだ。


 田舎の古びた和風の平屋。爺さんが住んでいた家の整理の手伝いに駆り出された俺は、真っ先に書斎へと足を運んだ。

 本好きな俺は爺さんの書斎にあしげく通っていたので、どこに何があるのかだいたい把握している。

 爺さんは中々の読書家で、蔵書量はかなりある。生前からそれらを受け継ぐよう常々言われていたのだ。


 本の整理をしつつ、ふと爺さんの机に目をやる。


「開いてる……」


 机の一番上の引き出しが1センチくらい開いていた。


 この机は、爺さんが父親(俺から見ると曽祖父)から受け継いだもので、古いくせにやたらとしっかりした作り。

 ただどうやっても一番上の引き出しが開かない、と聞かされていたし。実際、試してみたが微動だにしなかった。そんな開かずの引き出しが――開いている。


 長い間、閉ざされていた引き出し。爺さんが開けたのだろうか? それなら嬉々としてその話を俺にしたはずだ。疑問は尽きない。

 俺は吸い寄せられるように机の前に立ち、引き出しに手を伸ばしていた。


 だが、本当にいいのか?


 何が入っているのか、あるいはいないのか。それはあと数センチで明らかになる、なってしまう。

 一世紀近く秘されていたものを、俺が暴いてしまっても良いのだろうか?


 迷っていると、居間の方から母の声がした。昼飯が出来たようだ。

 俺はそっと引き出しを閉じると、書斎を後にした。

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