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第1話 魔力0の物理バカ



 私はエリート中のエリート。


 生まれてこの方、挫折を味わったことも、魔法の扱い方に困ったこともない。周りの人間は私のことをこう呼んで評価する。


 「天才」、と。


 もちろん、自分を天才だと思ったことはない。そんなのは周りが勝手につける評価であって、戦闘に於いては何の役にも立たない。生き残るためには何でもする。幼い頃から、私はそう教えられてきた。「戦争」に正義なんていうものは存在しない。ましてや、“戦い”に手段を持ち込む必要などない。


 『スケアクロウ』という暗部組織に所属していた師匠は、私に生きていくための術を教えてくれた。私は戦争孤児だった。


 親を殺され、焼き払われていく街の中で、私は行くあてもなく瓦礫の上を彷徨っていた。


 奴隷商人に捕まり、他の多くの子供達と一緒に、政府が管理する孤児院に預けられたのは、確かまだ5歳にも満たない頃だった。その当時のことを、私はよく覚えていない。焦げるような炎の熱さや、刺さるような皮膚の痛みは、頭の片隅にまだ、うっすらと残っている。


 ただ、母親の顔も、住んでいた家の間取りも、もうすっかり線を無くして、ぼんやりとした水彩画のような印象になってしまった。滲んだ色は世界の輪郭を壊して、もう、元の形が何だったのかもわからないほど、全ての匂いや音が、記憶の果てに遠ざかっていた。紐のちぎれたサンダルだけが、あの当時の中に残る唯一の“景色”だった。


 私はまだ、煤まみれのこのサンドルを捨てきれずにいた。


 大した思い出も、特別な感情もないけれど、…ただ、心のどこかでは——



 バンッ——!



 勢いよくドアが開く。セントラル・アカデミー(兵士養成学園)の敷地の中にある地上36階建のビル。その会議室に呼ばれたのは、私と、——もう1人。


 「おっす!」


 …おっす?


 ハリネズミのようなツンツン頭に、おでこについた絆創膏。日光浴にでも行くのかと思うほどラフな格好の腕には、日焼けした肌。そして、何より…


 待ち合わせ時間に遅れたことを気にも留めず、軽いテンションで「めんごめんご!」と手を合わす。


 馴れ馴れしい口調に、チャラチャラした仕草。


 今何時かわかってる?


 口を開くのも面倒で、会話をする気にもなれなかった。だから睨んだ。正直、目を合わしたくもなかった。私の嫌いなタイプの人間だったからだ。人を見た目で判断しちゃいけないというが、こういう普段から何も考えていないような人間は、見ていて鼻につく。


 …まあ、別に気にしなければいいのだけれど。


 よりにもよってこの人が“パートナー“だなんて、幸先が思いやられるというか。



 ソラ・アーケード。


 Aクラスの推薦枠で入った、セントラル・アカデミー第18期性。


 私と同じAクラスであり、同学年。



 ただし、彼は学園でも有名だった。それは彼の「能力」が、他の生徒と比べて異色だったからだ。


 セントラル・アカデミーに入るには生まれ持った魔力と、戦闘に適した特性が求められるが、彼は「魔力」を一切持ち合わせていなかった。もちろん、そんな人間は世の中にザラにいる。魔力を持っていなければ、兵士以外の職を探せばいい。


 ただ、どういうわけか、彼はこの学園に入学することができた。ただ入学しただけじゃなく、“推薦”として。


 「君はいつも忙しないな。まあ座って」


 …いや、教官?


 そんな感じなんですか?


 もっと言うことないんですか?


 10分以上待ってたんですけど。


 私。


 「…えーっと」


 彼は席に着くよう促された後、私の方を見た。困ったような顔をしていた。何か言いかけて、口を噤む。


 …何?


 そんな変な目でこっち見ないでくれる?


 文句があるなら教官にどうぞ。


 私とあなたを組み合わせたのは、他でもないこの人なんだから。


 「あんた、名前は?」


 「…は?」


 「いや、その、なんて呼べばいいかなーって思って」


 名前…?


 メールが飛んでるはずでしょ?


 っていうか、教官から何も聞いてないの?


 私は度々あなたの名前を聞かされたけど。


 「…セフィリア」


 「え?」


 「セフィリア・ハールートよ」


 彼は私の名前を聞くなり、ポンっと手を叩いて腕を組んだ。と思えば、急に胸を張ったようにドヤ顔をかまし、親指を立てながら自らの顔を指差す。ニカッと白い歯を覗かせた後、会議室全体に響き渡るくらいに騒々しく自己紹介を始めた。


 「俺の名前はソラ。よろしくな!」


 …えーっと。


 あなたのことは知っているし、そんな大きな声を出さなくてもちゃんと聞こえる。


 さっさと席に着いたら?


 とっくに時間が過ぎてるのわかってる?


 この後予定があるんだから早くしてよね。


 どうでもいいことでドヤってないで。


 「ハハハ。まあお互い初めてなんだし、挨拶くらい交わしたらどうだい?」


 「教官…?」


 「なんだい?」


 「私は反対ですよ?こんな人と組むのは」


 「なっ!?こんな人ってどう言うことだよ!」


 「声が無駄にデカいし、見た感じすごくだらしないし」


 「…はぁ?!」


 「それは一理あるかもね」


 「先生!?」


 「あと、時間にルーズな人は嫌いなの」


 「いやいや、それは確かに謝るけども。大体遅刻したのは先生のせいっていうか…」


 「アレェ?僕のせいにするんだ?」


 「どう考えても先生のせいでしょ!ずっと閉じ込めておいたくせに!」



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