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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
第一幕~序章

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ep.9 風の尾

はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!

「……昨日の猫、クロノだったのかな」


縁側に腰を下ろしながら、俺はぽつりとつぶやいた。 朝の光が障子越しに差し込んで、焙じ茶の香りがふわりと鼻をくすぐる。 茶屋の屋根には、まだ夜露が残っていて、瓦の隙間から小さな雫がぽたぽたと落ちていた。


「さあね」 ミナが団子をかじりながら、空を見上げる。 「でも、猫って“見た”って思った瞬間には、もういないもんだよ。風と同じ」


「風か……」


俺も空を見上げた。 雲がゆっくりと流れていく。屋根の上の布が、風に揺れていた。 その中に、一枚だけ、他と違う動きをしている布があった。 風に逆らうように、ふわり、ふわりと、まるで何かに引かれるように。


「……あれ、変じゃないか?」


「ん?」


ミナが団子を口に入れたまま、視線を追う。


「ああ、あれね。たまにあるよ。風が通る道が、ちょっとだけ違うとき」


「違う風?」


「猫神様の“尾”が通ったあとかもね」


俺は、思わず立ち上がって布の方へ歩いた。 屋根の下、布の端に手を伸ばすと、そこに――


「……毛?」


黒くて細い毛が、布に絡まっていた。 風に乗ってきたのか、それとも……。


「それ、クロノのかもね」 ミナが後ろから声をかける。 「猫って、気配を残すんだよ。姿じゃなくて、空気の揺れとか、匂いとか、音の余韻とか」


「……昨日の夜、屋根にいたんだよな。クロノ」


「うん。あんたが見たってことは、たぶん“見せた”んだろうね」


「見せた?」


「猫神様の使いは、気まぐれだけど、意味なく現れたりはしない。あんた、選ばれてるんだよ」


俺は、手のひらに乗せた黒い毛を見つめた。 風が吹いて、毛がふわりと舞い上がる。 その軌跡が、まるで“尾”のように見えた。


「……風の尾、か」


「いい表現だね」 ミナが笑った。 「猫神様の“尾”は、見える人にしか見えない。感じる人にしか、感じられない」


「俺、感じてるのかな……?」


「感じてるよ。じゃなきゃ、あの布に気づかない」


俺は、胸の奥に手を当てた。 そこに、かすかな“響き”があった。 言葉じゃない。音でもない。 でも、確かに“何か”が、そこにあった。


「……ミナ」


「ん?」


「猫神様って、何なんだろうな」


「さあね」 ミナは、空を見上げたまま言った。 「でも、あたしは信じてるよ。猫神様は、風の中にいる。  誰かの願いが、風に乗って届いたとき、ひげが揺れる。  それが“夜明け”なんだって」


「……ひげが揺れるとき、それが夜明けだ」


俺は、思わず口にしていた。 あのとき、白い猫が言った言葉。 転生の瞬間に聞いた、最初の“響き”。


「覚えてたんだ」 ミナが、少し驚いたように言った。 「それ、猫神様の言葉だよ。あんた、ちゃんと聞いてたんだね」


「……意味は、まだよくわかんないけど」


「意味なんて、あとからついてくるもんさ。  でも、あんたの中に“響き”があるなら、それで十分」


そのときだった。 胸の奥が、ふっと温かくなった。 修徒帳の爪痕が、ほんのりと光っていた。


【素養《Oralis理解》が共鳴しました】


「……また、進んだ」


「うん。風の尾を感じたからだよ。  猫神様は、言葉じゃなくて“気配”で語る。  あんたは、それを聞く耳を持ち始めてる」


俺は、空を見上げた。 雲が流れていく。 風が通り過ぎる。 その中に、確かに“尾”があった。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました! 感想やアドバイスなど、いただけたらとても励みになります。 これからも、のんびり続けていきますので、よろしくお願いします!

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