ep.7 西の路地と猫の残り香
はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!
茶屋の常連が言っていた。 「昨日の夕方、西の方へ歩いていったよ。しっぽをぴんと立てて、まるで何かに呼ばれたみたいに」
それだけを頼りに、俺たちは町の西側へ向かった。 東の商店街とは違って、こっちは静かだった。 石畳はところどころ欠けていて、屋根の色も少しくすんでいる。 風が乾いていて、音が遠くに感じられた。
最初に通ったのは、古い路地だった。 人の気配は少なくて、猫の足音だけが残っているような場所。 石畳の隙間に、小さな足跡がいくつか残っていた。 それは、誰かが忘れていった“気配”みたいだった。
次に立ち寄ったのは、古道具屋の軒先。 店の中は薄暗くて、埃の匂いがした。 棚の上に積まれた箱のひとつが、少しだけ開いていた。
「黒猫? 昨日、あの箱に潜り込んでたよ」 店主はそう言って、ゆっくりと箱を開けた。 中には、古い布と、猫の毛が数本。
「猫ってのはね、過去を探す生き物なんだよ」 その言葉が、なぜか胸に残った。
さらに進むと、細い路地の奥に、小さな祠があった。 誰もいないのに、風鈴がひとつだけ揺れていた。 音は小さくて、でも耳に残る。
祠の前には、猫の足跡がぽつんと残っていた。 風が吹いて、鈴がもう一度だけ鳴った。
【素養《Oralis理解》が微かに進行しました】
俺は、そっと目を閉じた。 言葉じゃない“響き”が、また少しだけ強くなった気がした。
そのまま歩いて、水辺の石橋に出た。 夕方の光が水面に反射して、ゆらゆら揺れている。 橋の欄干に、誰かが座っていたような跡があった。
「昨日の夕方、黒猫がそこにいたよ」 通りがかりの老婆がそう言って、橋の向こうを指差した。 「水に映った影が、猫の形だったんだよ。不思議と、目が合った気がしたねぇ」
水面をのぞくと、何も映っていなかった。 でも、風が頬を撫でたとき、ほんの一瞬だけ、 胸の奥に“冷たい響き”が走った。
西の町は、静かだった。 でも、その静けさの中に、猫の“記憶”が残っていた。 クロノは、何かを探していたのかもしれない。 あるいは、何かに呼ばれていたのかもしれない。
修徒帳の爪痕が、今度はほんの少しだけ冷たく感じられた。 それは、猫神様の気配が“遠くなった”というより、 “深く潜った”ような感覚だった。
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