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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
2章

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ep.34 道中グルメ

冬の道を歩いていると、冷たい風の中にふと香ばしい匂いが混じった。 果林が鼻をひくつかせる。 「何か焼いてる匂いがする!」

咲姫のしっぽがぴんと立つ。 「団子の町を出たばかりなのに、また団子なのです?」

紗綾は札をかざし、風の流れを読む。 「いや、これは……焼き芋だね」

道端の小さな屋台で、老人が炭火で芋を焼いていた。 「旅人さん、寒いだろう。一本どうだい?」

ユウマは思わず手を伸ばす。 「お願いします!」

熱々の芋を受け取ると、皮をむいた瞬間に湯気が立ち上る。 果林がかぶりついて、目を丸くした。 「甘い! 団子とはまた違う温かさだね」

咲姫はしっぽを揺らしながら笑う。 「焦げても美味しいのです!」

ユウマも口にしたが、熱すぎて思わず吹き出した。 「熱っ……!」 芋が転がり、灰に落ちてしまう。

老人は笑って拾い上げる。 「失敗も旅の味さ。灰を払えばまだ食べられる」

紗綾は札をかざして、灰を払う風を起こした。 「ほら、きれいになったよ」

ユウマは照れながら芋を食べ直す。 「……甘い。失敗しても、温かさは残るんだ」

――

屋台の周りには村の子どもたちが集まってきた。 「旅人さん、芋好き?」 「うちの畑で採れたんだよ!」

果林は笑顔で答える。 「すごいね。風の力で焼き加減を調整できるかも」

咲姫はしっぽで芋を持ち上げ、火に近づける。 「焦げないようにするのです!」

ユウマは再び挑戦したが、火加減を誤って芋を爆ぜさせてしまった。 子どもたちは大笑い。 「お兄ちゃん、団子のときと同じだ!」

老人は肩を揺らして笑う。 「旅は厳しい。でも、こうして笑い合えるのが一番のごちそうだ」

子どもたちは焼き芋を囲んで、ユウマたちに次々と声をかけてきた。 「旅人さん、もっと焼いてみて!」 「焦げてもいいから、いっぱい食べて!」

果林は笑いながら火のそばに座り込む。 「じゃあ、風で火加減を調整してみようかな」

彼女が風を操ると、炭火がふわりと赤くなり、芋の皮がじわじわと膨らんでいく。 咲姫はしっぽで芋を持ち上げ、子どもたちに見せる。 「ほら、きれいに焼けてきたのです!」

子どもたちは歓声を上げた。 「すごい! 魔法みたい!」

ユウマも挑戦したが、火を強めすぎて芋が爆ぜてしまう。 灰が舞い上がり、子どもたちは大笑い。 「やっぱり団子のときと同じだ!」

ユウマは顔を赤くしながらも、笑い声に救われるような気持ちになった。 「失敗しても、みんなが笑ってくれるなら……悪くないな」

老人は頷きながら言った。 「旅は厳しい。だが、こうして人と笑い合える時間がある。それが本当のごちそうだ」

紗綾は札をかざし、灰を払う風を起こした。 「問いの風は、食べ物にも宿る。焼き加減をどう工夫するか、それも試されているんだね」

果林は芋を割り、黄金色の中身を見せた。 「ほら、甘さが詰まってる。団子とは違うけど、温かさは同じだよ」

咲姫はしっぽで芋を分け、子どもたちに配った。 「みんなで食べると、もっと美味しいのです!」

子どもたちは夢中で芋を頬張り、笑顔を広げた。 ユウマはその光景を見て、胸の奥が温かくなるのを感じた。 「旅の途中で、こんな時間があるなんて……」

――

夕暮れが近づくと、屋台の周りはさらに賑やかになった。 村の大人たちも集まり、芋を焼きながら旅人たちに話しかける。 「次はどこへ行くんだい?」 「札場を巡るなら、この先の温泉町がいいぞ」

ユウマたちは頷き、次の目的地を心に描いた。 焼き芋の香りと人々の声が、確かに彼らの背中を押していた。

夕暮れの空は茜色に染まり、屋台の炭火が赤々と揺れていた。 村人たちは芋を囲みながら、旅人たちに次々と声をかける。 「この芋は、冬の寒さを越える力になるんだ」 「旅の途中で食べれば、きっと心も温まるさ」

ユウマは芋を両手で抱え、胸の奥に熱を感じていた。 「団子も芋も、失敗しても温かさをくれる。旅は厳しいけど、人の優しさがある」

果林が笑顔で頷く。 「食べ物って、ただお腹を満たすだけじゃないんだね。人の気持ちも一緒に届くんだ」

咲姫はしっぽを揺らしながら、子どもたちに芋を分ける。 「みんなで食べると、もっと美味しいのです!」

紗綾は札を胸に抱え、静かに言葉を添える。 「問いの風は、食べ物にも宿る。焼き加減をどう工夫するか、それも試されている」

――

やがて夜の帳が下り始め、屋台の灯りが一層際立った。 村人たちは旅人たちに手を振り、別れの言葉を送る。 「気をつけてな」 「次の町でも、きっと温かいものに出会えるよ」

ユウマは深く頭を下げた。 「ありがとうございました。失敗ばかりですが、必ず成長して戻ってきます」

果林も笑顔で言う。 「団子の町から芋の村へ。次は温泉町かな。楽しみだね」

咲姫はしっぽを揺らしながら、空を見上げる。 「問いの風は、まだまだ続いているのです」

紗綾は静かに札をかざし、風を感じ取った。 「旅は厳しい。でも、こうして人と笑い合える時間がある。それが本当のごちそうだ」

――

焼き芋の香りを胸に刻みながら、ユウマたちは再び歩き出した。 冷たい冬の風が頬を刺す。けれど、その風はただ冷たいだけではなく、問いを含んでいるように感じられた。 ユウマは深く息を吸い込み、前を向いた。 「行こう。次の札場へ」

三人娘はうなずき、しっぽや札を揺らした。 問いの風は、次の町へと導いている。



最後まで読んでくださって、ありがとうなのです〜 感想やアドバイス、そっといただけたら嬉しいのです。 ★やリアクションで応援してもらえると、咲姫のしっぽがぽわぽわ揺れるのです〜 のんびり更新ですが、これからもよろしくお願いしますのですっ!

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