ep.3 お茶の香りと白き巫女
はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!
焙じ茶の香りが、静かに、でも確かに茶屋の奥へと満ちていた。 湯気は細くて、空気の層をなぞるみたいに漂ってる。 障子の隙間から漏れる光に溶けていくその様子が、なんだか夢の入口みたいだった。
その先に、木で組まれた鳥居がひっそりと立っていた。 誰にも呼ばれてないのに、足が自然とそっちへ向かってた。 まるで、何かに引かれるように。
鳥居をくぐった瞬間、空気が変わった。 音が消えて、風も止んで、世界が一枚の絵になったみたいな静けさ。 社は小さくて、苔むした石段の上に、慎ましく佇んでいた。 でも、その空間には確かに“何か”があった。 目に見えないけど、肌に触れるような、胸の奥に届くような気配。
社の前に、白い装束の巫女がいた。 背筋をまっすぐに伸ばして、両の手を重ねて、静かに祈ってる。 黒髪は風もないのにふわりと揺れてて、まるで時間そのものが彼女の周りだけ止まってるみたいだった。
俺は、ただ立ち尽くしてた。 声も出せず、足も動かせず、ただその姿を見ていた。 そして、胸の奥に波紋みたいな揺らぎが広がっていくのを感じた。
【素養《Oralis理解》が微かに反応しました】
それは、言葉じゃなかった。 でも、確かに“意味”があった。 猫のひげが風に揺れる瞬間みたいに、かすかで、でも確かな感覚。 俺の中に、何かが触れた。
やがて巫女は祈りを終えて、ゆっくりと振り返った。 その動きは、水面に落ちた一滴みたいに静かで、でも空気を確実に変えた。 瞳は深くて澄んでいて、どこか冷たい。 でも、その奥には、言葉じゃ届かない何かが宿っていた。
「あなたの素養は、まだ揺らいでいます」
その声は、鈴の音みたいに澄んでいた。 でも、俺にはその言葉の意味が掴めなかった。 ただ、胸の奥の揺らぎが、また波紋を描いた。
「猫神様は、見ておられます。今は、ただ感じなさい」
それだけ言うと、巫女は社の奥へと静かに消えていった。 その背中は、霧の中に溶けていくみたいで、現実と夢の境が曖昧になっていく。
俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。 何も考えられず、ただ胸の奥の“響き”に耳を澄ませていた。
そのときだった。 社の奥から、かすかな鈴の音が聞こえた。 風もないのに、どこかで風鈴が揺れたような、そんな音。 思わず振り返ったけど、誰もいなかった。 ただ、空気が少しだけ甘くて、温かくなった気がした。
【素養《Oralis理解》が微かに進行しました】
言葉じゃない“響き”が、俺の中で形を持ち始めていた。 音でも光でもないけど、確かに“意味”を持っていた。 まるで、猫神様がそっと通り過ぎたような、そんな気配。
「……見たんだね、千夜さん」
焙じ茶の香りと一緒に、ミナが茶屋の入口から顔を出した。 その声は、どこか遠くから届いたように感じられた。
「千夜?」
「猫神様に仕える巫女。あの人、人間の感覚じゃ測れないよ。 でも、猫神様の声を“聞ける”って言われてる」
ミナはそう言って、湯呑を差し出した。 その湯気の向こうで、俺は胸の奥の揺らぎを思い出していた。 それは言葉じゃなくて、響きだった。 そして今、その響きが、猫神様の“気配”と重なった気がした。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました!
鈴の音がいいなと思ったのが今話になります。
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