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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
4章~巫女の祝祭~

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ep.199 風の供物 ――三つの風が通りすぎるまでの話――

咲姫は、風を待っているのです。

町の北端、風の通り道にある小さな祠。

咲姫は、今日も団子を三本、そっと供えていた。


「今日は、ちょっとだけ塩を足してみたのです」

そう言って、にこにこと笑う咲姫。

「風が、しょっぱいのも好きかもしれないのです」


団子の湯気が、ふわりと空へと昇っていく。

その香りに誘われて、どこからともなく、ふわりと白い耳が現れた。


「うさちぁん!」

「やっほ~、咲姫ちゃん。今日の団子、なんか……お酒の香りがする~!」


「えっ、ばれたのです!? ちょっとだけ、果林さんの梅酒を……」

「やっぱり~!風も酔っぱらっちゃうかもね~」


ふたりはくすくす笑いながら、団子を囲んで座った。

風が、またひとつ、木の葉を揺らしていく。



うさちぁんは、風の音を聴いている。

その日、町には朝から不思議な風が吹いていた。

くるくる、ふわふわ、まるで誰かが笑っているような音。


「うさちぁん、今日はどこに行ってたの?」

咲姫が尋ねると、うさちぁんは耳をぴょこぴょこ揺らして答えた。


「風の道を、ちょっとだけ逆走してたの~。

 そしたらね、昔の“ありがとう”が、まだ空に残ってたの」


「ありがとう、なのですか?」

「うん。誰かが誰かを思って、でも言えなかった“ありがとう”。

 風って、そういうの、ちゃんと覚えてるんだよ~」


咲姫は、そっと空を見上げた。

「じゃあ、私の“ありがとう”も、いつか誰かに届くのですか?」


「もちろんっ。風はね、忘れないの。

 だから、咲姫ちゃんの団子も、ちゃんと届いてるよ~」



果林とうさちぁんは、風の宴をひらく。

夜。町の灯りがぽつぽつと灯り、祠の前に小さな卓が置かれた。

その上には、果林が持ってきた酒と、咲姫がこっそり作った“風団子”。


「……で、咲姫ちゃんは?」

「おうちで寝ちゃった~。風の音、子守唄にしてたよ~」

「ふふ、あの子らしいな」


果林は、杯を傾けながら、うさちぁんに目を向ける。

「……あんた、風の正体って、ほんとは何だと思う?」


「うーん……“誰かの気持ち”かなぁ。

 言葉にならなかった想いとか、忘れたくない記憶とか。

 そういうのが、風になって、町をまわってるの」


「……なるほどね。じゃあ、これはどう?」

果林が酒を注ぎながら、そっと言った。

「“ありがとう”って、言えなかった人に、乾杯」


「うん、かんぱーいっ!」

うさちぁんが耳を揺らしながら、杯を合わせる。


その瞬間、風がふわりと吹いた。

団子の香りが空へと舞い、どこか遠くへと届いていく。


そして、祠の奥から、またひとつ、風の札が現れた。


『祝・402の風通し。

 風は今日も、誰かの想いを運びました。

 次の宴も、風まかせ。』


夜空に、鈴の音がひとつ。

それは、未来へと続く風のはじまりだった。

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