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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
4章~巫女の祝祭~

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ep.197 風のしるし

ギルド庁舎の掲示板に、朝一番で貼られた一枚の札。 それは、いつもの依頼札とは少し違っていた。


「……これ、なんだ?」


ラディが首をかしげる。 札には、手書きの文字でこう記されていた。


『祝・400の風通し。 町の風が、今日も誰かに届きました。 小さな祭りを、静かに始めましょう。』


「……なんだこれ。依頼じゃないのか?」


「ふふっ、それは“風の札”ですよ」 香が笑いながら、塩パンの入ったかごを掲げた。 「今日は、町の風が400回、誰かの心に届いた記念日なんですって」


「誰がそんなの数えてるんだよ……」 ラディは呆れたように言いながらも、 かごの中の塩パンをひとつ手に取った。


「香ちゃんが、朝から焼いてくれたんですよ」 椛がにっこりと笑う。 「“風の味”って、こういうことかもしれませんね」


庁舎の片隅では、柚が新人冒険者たちに焼きおにぎりを配っていた。 工房ギルドからは、千が「祝いだ祝いだ」と言いながら、 焼きたてのチーズおにぎりをどっさり持ち込んでくる。


「……なんか、にぎやかだな」 ラディがぽつりとつぶやく。


「うん。でも、うるさくはない。……ちょうどいい」 紗代が、焼きリンゴをかじりながら微笑んだ。


札場の奥、美琴は静かに香草茶を淹れていた。 干し果物の甘い香りが、ふわりと漂う。


「……風は、数字ではありません。 でも、数字が風の通り道を照らすこともあります」


彼女は、誰にともなくそうつぶやくと、 そっと一枚の札を手に取った。


『次の風も、きっと届きますように。』


その日、町には特別な鐘も、旗もなかった。 けれど、誰もが少しだけ笑っていた。 それは、風の通り道が確かにあったという、 小さな、小さな、祝福のしるしだった。

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