ep.190 祝漁祭
春の風が広場を抜け、潮の香りと薪の煙が混ざり合った。冬を越えた街に、ようやく訪れた季節の匂いが満ちる。桶から取り出された「サワリア」がまな板に置かれると、漁師の手際が光った。包丁が骨に当たるたび、カリッと乾いた音が響き、皮を剥ぐときの抵抗が指先に伝わる。三枚に卸された身は白く艶やかで、炙られるとパチパチと音を立て、香ばしい匂いが広場に広がった。
隣の屋台では大鍋がぐつぐつと煮え、根菜と「マディア」の切り身が湯気の中で踊っている。甘い香りと魚の旨みが混ざり合い、寒さを越えた街に温かさを届ける。鍋の縁から溢れる湯気に、子どもたちが顔を近づけて「いい匂い!」と声を上げた。
さらに別の屋台では「カツオラ」がフライパンで炙られていた。仕上げにユス果汁とポンザをかけると、ジュッと音がして柑橘の香りが立ち上る。爽やかな酸味が広場いっぱいに広がり、人々は思わず足を止め、春の訪れを胸いっぱいに吸い込んだ。
漁師は汗を拭いながら笑った。「これが春の味だ。冬を越えた証だな」 職人は鍋をかき混ぜながら頷く。「街が育ったからこそ、こうして祭りが開ける」 冒険者は炙り魚を頬張り、杯を掲げた。「この街も、ずいぶん賑やかになった」
子どもたちは魚を頬張り、巫女は祈りの言葉を添える。広場は笑い声と香りで満ち、街の人々の手仕事が重なり合って春祭りを形作っていた。
その光景を見て、旅商人が呟いた。「この街は、まだ始まりにすぎない」 その言葉が夜に溶け、次の物語への橋渡しとなった。




