ep.188 工房の記録
ep.176「火と秩序、街の奥で」
(後半・工房と記録、そして夜)
昼下がり、旅団の若手たちはネイヴの工房を訪れていた。 鉄と油の匂いが混ざる空間に、金属を打つ音が響いている。
「……これ、見てもらえますか?」 ラディが剣を差し出すと、ネイヴは無言で受け取った。
手袋越しに重さを確かめ、刃を傾け、柄を外す。 その動きは荒っぽく見えて、どこか繊細だった。
「……グリップ、もう限界。芯がずれてる。 あと、鍔の内側に砂が詰まってる。……戦闘中、よく抜けなかったな」
「うっ……やっぱり……」
「ま、直しといてやるよ。金はあとで。 ……あんたの手の癖、ちょっと変わってるな。左に重心寄ってる」
「えっ、なんでわかるの!?」
「道具は持ち主の言葉を覚えるんだよ。……黙ってりゃいいのに、全部出てる」
ネイヴはにやりと笑い、火床に炭をくべた。 その火花が、工房の奥を一瞬だけ赤く染めた。
夕方、宿の一角では、ルミナが帳面を開いていた。 その筆は止まることなく、淡々と記録を続けている。
「午後:武具修理依頼(対象:ラディ) 職人との接触、会話内容記録済み。 秩序への影響:軽微。観察継続」
セシルがそっと近づき、声をかけた。
「……それ、全部報告されるの?」
「当然です」 ルミナは顔を上げずに答えた。
「あなたたちの行動は、秩序の境界を測るための材料です。 ……感情的な反応も、記録対象です」
セシルは何も言えず、ただ静かにその場を離れた。




