ep.186 空気が違う
?ep.175「灰と火花、街角のふたり」
(後半・旅団との初対面)
午後、旅団はようやく街の門をくぐった。 長い峠道を越え、足取りは重く、顔には疲れがにじんでいた。
「やっと着いた……」 ラディがへたり込みそうになりながらつぶやく。
「この街、思ったより大きいね」 リンダが見上げた先には、古びた時計塔と、煙を上げる工房の煙突が見えた。
そのときだった。
「……遅いですね。予定より、二刻遅れです」
冷たい声が、石畳に落ちた。 振り返ると、そこには白いエプロン姿の少女――白露が立っていた。
「あなたたちが、旅団の方々ですね。……まあ、見た目通りの雑な集団のようで」
「えっ……」 ラディがぽかんとする。
「まずは足元を拭いてください。埃を持ち込まれるのは迷惑です」 白露は手にした布を差し出しながら、微塵も笑わなかった。
「え、あ、はい……」 ラディが受け取ろうとしたそのとき、背後から別の声が割り込んだ。
「おーい、白露。あんま固くすんなって。客なんだからさ」
工房の奥から現れたのは、革の前掛けをつけた青年――ネイヴだった。 肩に工具袋を下げ、片手にはまだ熱の残る鉄片を持っている。
「……あんたが柔らかすぎるのよ」 白露が冷たく言い返す。
「で、あんたらが例の旅団か。……ま、見た目はともかく、道具くらいは見てやるよ」 ネイヴはラディの剣をちらりと見て、にやりと笑った。
「……そのグリップ、もう限界だろ。よく手ぇ滑らなかったな」
「えっ、あ、やっぱり!?」 ラディが慌てて剣を引っ込める。
「……とにかく、案内します。無駄口は控えてください」 白露がくるりと背を向け、歩き出す。
その背中を追いながら、旅団の面々は思った。
(……この街、なんか空気が違う)
そして、誰も気づいていなかった。 その背後で、ルミナが静かに帳面を開き、さらさらと何かを書きつけていたことに。




