ep.182 野営地にて
ep.174「波の音、旅立ちの背中」
(夜・野営地)
日が沈み、森の中に静けさが満ちていく。 旅団は小さな野営地を整え、焚き火の準備を始めていた。
「よし、火つけるよー……って、あれ?」 ラディが火打石を構えた瞬間、ルミナの声が飛んだ。
「待ってください」
その声に、ラディの手が止まる。 ルミナは焚き火の前に立ち、淡々と告げた。
「火は不要です。……私の信仰では、“無秩序な炎”は禁忌とされています」
「えっ……でも、夜は寒いし、食事も……」 リンダが戸惑いながら言うと、ルミナは一歩前に出た。
「寒さは耐えれば済みます。食事は冷たいままで構いません。 ……あなたたちがどうするかは自由ですが、私はこの場を離れます」
そう言って、ルミナは焚き火の輪から数歩離れ、木の根元に静かに腰を下ろした。 その姿は、まるで夜の中に溶け込む氷像のようだった。
氷雨は何も言わず、焚き火の外側に立ち、周囲を見張っている。 その背筋はまっすぐで、風の音すら通さない。
「……あの人たち、ほんとに一緒に旅するの?」 ラディが小声でつぶやく。
「一緒に“いる”けど、“旅してる”って感じじゃないね」 セシルが火をつけながら答える。
ぱち、と火がはぜる。 その音が、やけに大きく響いた。
誰も、ルミナの方を見ようとはしなかった。 ただ、火の明かりの外で、彼女の瞳だけが静かに光っていた。




