ep.180 特使
ep.174「波の音、旅立ちの背中」
(冒頭・ルミナ&氷雨登場)
朝の港は、昨日と同じように潮の香りに包まれていた。 けれど、旅団の若手たちはどこか落ち着かない様子で荷をまとめていた。
「……ほんとに来るのかな、今日」 ラディが小声でつぶやく。 セシルは地図をたたみながら、静かにうなずいた。
「ギルドからの通達は本物だった。『特使が合流する』って」
「“特使”って、どんな人なんだろうね……」 リンダが不安げに言ったそのときだった。
港の空気が、ふっと変わった。 風が止み、空気が張りつめる。 まるで、冬の気配が一歩だけ季節を越えて入り込んできたような――
足音がひとつ、石畳に響いた。
「……あなたたちが、旅団の者ですね」
振り返った先に立っていたのは、白銀の髪を持つ少女だった。 淡い青の法衣に身を包み、瞳は氷のように澄んでいる。 その背後には、黒髪の剣士――氷雨が、無言で控えていた。
「私はルミナ。北方聖堂より派遣された巡察官です」 その声は静かで、感情の起伏がまるでなかった。
「以後、あなたたちの行動を監視・記録します。……神の秩序に反する行為があれば、即時報告します」
「えっ……監視!?」 ラディが思わず声を上げるが、ルミナは一瞥もくれずに言った。
「……話しかけないでください。必要なとき以外は、沈黙を」
氷雨が一歩前に出る。 その動きに、ラディが思わず後ずさる。
「……問題ない。護衛、開始する」 それだけ言って、氷雨は再び沈黙した。
港の灯が、静かに揺れている。 波留とカヤが少し離れた場所からその様子を見ていたが、何も言わなかった。
ルミナは旅団に背を向け、港の外れへと歩き出す。
「……ついてきてください。遅れるなら、置いていきます」
その背中に、誰も言葉を返せなかった。




