ep.179 明日の海が穏やかでありますように
ep.173「網と灯と、夕餉の支度」
(夕餉と締めの場面)
日が沈む頃、港の一角にある小さな屋台で、湯気の立つ鍋が煮えていた。 魚の出汁に、根菜と海藻をたっぷり入れた漁師鍋。 波留が手際よく味を見て、火を止める。
「お疲れさまでした。……よろしければ、少し召し上がっていきませんか?」
そう言って差し出されたのは、干物と、湯気の立つ椀。 ラディが目を輝かせて受け取り、セシルとリンダも静かに礼を言って腰を下ろした。
「これ、今日の漁で獲れたやつですか?」 リンダが尋ねると、波留はうなずいた。
「ええ。L+の銀斑も、きれいに干せました。……よく動いてくださいましたね。助かりました」
「いえ、こちらこそ……」 セシルが少し照れたように答える。
カヤは無言のまま、干物を一枚ずつ包んでいた。 それを見ていた波留が、ふと旅団の三人に向き直る。
「明日も、お願いできますか?」
その声は、いつものように丁寧で、けれどどこか、少しだけ柔らかかった。
「もちろんです!」 ラディが即答する。 セシルとリンダも、静かにうなずいた。
港の灯がともり始める。 昼間、アベルが整えていた灯台の明かりが、海の向こうを照らしていた。
「……体験って、思ってたよりずっと重いな」 ラディがぽつりとつぶやく。
「でも、ちゃんと“役に立てた”って感じがする」 セシルが応じると、リンダが小さく笑った。
「うん。……この町、好きかも」
潮風が、干物の香りを運んでいく。 その夜、旅団の若手たちは、いつもより少しだけ早く眠りについた。 明日の海が、また穏やかでありますようにと願いながら。




