ep.177 網と灯と、夕餉の支度
ep.173「網と灯と、夕餉の支度」
(帰港・アベルとのやりとり)
港に戻る頃には、陽はすっかり高く昇っていた。 船を桟橋に繋ぎ終えたラディは、ぐったりと腰を下ろした。
「つ、疲れた……腕がもう……」 「でも、よくやったよ」 セシルが水筒を差し出すと、ラディは感謝の声もそこそこにごくごくと飲み干す。
波留とカヤは、すでに魚の仕分けと記録に入っていた。 その手際は朝と変わらず、正確で、静かだった。
ふと、港の端に目をやると、灯台の下で誰かが作業をしているのが見えた。 脚立に登り、灯の覆いを外しているのは――警備隊のアベルだった。
「お疲れさまです、アベルさん」 波留が声をかけると、アベルは手を止めて振り返った。
「波留さんも、いい漁だったようですね」 「ええ。若い方々がよく動いてくれました。……灯の調子は?」
「昨日の風で、少し芯がずれてました。今、調整中です」 アベルは灯台の中を指差しながら、旅団の方を見た。
「あなた方が出ていた船、あの灯を見て戻ってきたんでしょう?」
「……ああ、そうか」 ラディがぽつりとつぶやいた。 海の上では気づかなかったが、確かに、港の灯はずっとそこにあった。
「灯が消えると、帰る場所がわからなくなるんです」 アベルの声は静かだった。 「だから、これはただの明かりじゃない。命を守るものです」
波留がうなずく。
「だからこそ、絶やせないんです。……ね、カヤ」
カヤは無言でうなずき、灯台を見上げた。 その横顔に、リンダがそっと目を向ける。




