ep.175「網と灯と、夕餉の支度」
ep.173「網と灯と、夕餉の支度」
(本文冒頭・草案)
空がまだ藍に沈んでいる。 港の第二桟橋には、潮風と波の音だけが満ちていた。
「……寒っ」 ラディが肩をすくめながら、吐いた息を手に吹きかける。 その隣で、セシルが静かにフードを整えた。
「早起きは得意じゃないって言ってたの、誰だったっけ」 「うぐ……俺だ……」
リンダはそんな二人のやりとりを聞きながら、まだ薄暗い海を見つめていた。 波間に揺れる灯が、遠くにひとつ、ふたつ。 それが漁に出た船のものだと気づくのに、少し時間がかかった。
「おはようございます」 背後から、落ち着いた声がかかった。 振り返ると、波留がすでに漁具を積み終えた小舟の前に立っていた。 カヤは無言で、網の端を点検している。
「準備は、よろしいですか?」 「はいっ!」 ラディが元気よく返事をする。 セシルとリンダも、それぞれうなずいた。
「では、出ましょうか。……今日は、いい風が吹きそうです」
波留の言葉に導かれるように、旅団の若手たちは船へと乗り込んだ。 朝焼けが、ようやく海の端を染め始めていた。




