ep.172 潮騒の町、旅団の朝
ep.172「潮騒の町、旅団の朝」
朝の光が、潮の香りとともに差し込んでくる。 港町の宿の一室で、旅団の若手たちはそれぞれの朝を迎えていた。
「……うーん、もう朝?」 ラディが寝ぼけ眼で起き上がると、隣ではリンダがすでに身支度を整えていた。
「今日は出発準備の日でしょ。荷物、まとめておいてって言われてたじゃない」
「うわっ、忘れてた!」
慌てて荷物をかき集めるラディの横で、セシルは静かに地図を広げていた。 その目は、次の目的地――峠を越えた先の街を見据えている。
「……あの街、灰色の屋根が多いんだって。火山灰のせいで」
「へぇ、なんか渋いね。お菓子とかあるかな」
「そこかよ」
そんなやりとりの中、扉の外からノックの音がした。
「朝食の準備ができました。食堂へどうぞ」
宿の主人の声に、三人は顔を見合わせてうなずいた。
「よし、行こう!」
食堂では、波留とカヤがすでに席についていた。 テーブルには焼き魚と温かいスープ、そしてふわふわのパンが並んでいる。
「……今日でこの町ともお別れか」 波留がパンをちぎりながらつぶやく。
「うん。でも、また来ようよ。あの灯台、好きだったな」 リンダが微笑む。
「次の街には、どんな人がいるんだろうね」 ラディがわくわくした様子で言うと、セシルが静かに答えた。
「……“外から来る人”がいるらしい。ギルドからの通達があった」
「えっ、誰?」
「わからない。でも、“特使”って書いてあった」
その言葉に、食堂の空気が少しだけ張りつめた。
「……ま、誰が来ても、俺たちは俺たちだろ」 波留がスープをすすりながら言った。
「うん。ちゃんと、迎えよう」 カヤが小さくうなずいた。
こうして、旅団の朝は静かに始まった。 けれどその背後で、潮風は少しずつ向きを変え始めていた。
ep.172「潮の香、朝の市」続き(波留とラディたちの会話)
「手を貸していただけませんか?」 波留の言葉に、ラディが即座に手を挙げた。
「やります! 漁師体験、めっちゃ面白そうじゃないですか!」 「……体験って言っても、遊びじゃないぞ」 セシルが小声で釘を刺すが、ラディは気にした様子もなく、波留に向き直る。
「俺たち、新米冒険者なんです。こういう依頼、どんどん受けて経験積みたいんですよ!」
波留は一瞬だけ目を細め、ラディの顔を見つめた。 その視線に、ラディが少しだけ背筋を伸ばす。
「……いい心がけですね。では、明朝五つ刻に、港の第二桟橋へ。動きやすい服装で、濡れてもいい靴を履いてきてください」
「了解ですっ!」
「それと」 波留はふと視線を横に流し、セシルとリンダにも目を向けた。
「あなた方も、同行されますか? 網を引くには、三人以上いた方が助かります」
「……ええ、もちろん」 セシルがうなずき、リンダも静かに頷いた。
「ありがとうございます。では、明日を楽しみにしていますね」 波留は軽く頭を下げると、カヤと共に屋台の奥へと戻っていった。 その背中には、海風に揺れる魚の匂いと、確かな信頼が宿っていた。
場面転換:商業ギルド前・依頼掲示板前
「よし、今日の依頼はこれだ! 漁師の手伝い、石貨50NkQ! パン50個分だぞ!」 豪快な声が、朝市の喧騒に混じって響いた。
商業ギルドの掲示板前。ギルドマスターのオグマが、依頼札を掲げて冒険者たちに呼びかけている。
「港の第二桟橋、五つ刻集合! 初心者歓迎、体力に自信のあるやつ、集まれ!」
その隣で、ギルド職員のアリスが、落ち着いた口調で補足する。
「依頼主は波留さん。漁師の中でも信頼の厚い方です。報酬は石貨50NkQ、当日払い。参加希望者は、こちらで受付をお願いしますね」
アリスの手元には、肉球の刻印が入った木貨と石貨が並んでいた。 旅団の若手たちがその前に並び、順番に名前を記入していく。




