ep.168 第五幕:響きの儀
踊り子たちの舞が終わると、広場にふたたび静けさが訪れた。 けれどそれは、終わりの静けさではない。 まるで、何かが始まる前の、深い息づかいのような──そんな静寂だった。
その中に、ひとつの音が響く。
──りん……りん……
澄んだ鈴の音。 それは、空気の奥にまで染みわたるような、やさしくも芯のある響きだった。
音の方へ視線を向けると、そこに立っていたのは、美琴。 白銀の装束に、淡い紫の帯を結び、手には小さな鈴と、細身の琴を抱えている。
彼女は一礼し、静かに座すと、琴の弦にそっと指を添えた。 そして──
ぽろん。
ひとつの音が、広場に広がる。 それはまるで、空に浮かぶ光の粒をひとつずつ撫でていくような、 やさしく、あたたかく、そしてどこか懐かしい音色だった。
「この音は、あなたの心の奥にある、忘れかけた願いを呼び覚ますもの──」 美琴の声が、音とともに流れる。
「どうか、思い出してください。 あなたが最初に笑った日を。 誰かと手をつないで、心がほどけた瞬間を──」
琴の音が重なり、鈴の音が舞い、 踊り子たちが再び舞台に戻ってくる。 今度は、美琴の音に合わせて、ゆったりと、まるで夢の中を歩くように舞い始めた。
音と舞が重なり、空間がひとつの「響き」となる。 観客の誰もが、言葉を忘れ、ただその音に身を委ねていた。
そして、美琴が最後の音を奏でたとき── 広場の灯が、いっせいにふわりと揺れた。 まるで、音に応えるように。




