ep.164 『祝祭の灯(ともしび)』第一幕:開幕の風
『祝祭の灯』第一幕:開幕の風
風が、静かに森を撫でた。 まだ陽も昇りきらぬ黎明の空に、ひとつ、風鈴の音が響く。
しゃらん──
その音に呼応するように、木々の葉がさわさわと揺れ、空気が澄んでいく。 社の前に立つのは、白と薄青の装束をまとった巫女・風音。 彼女の足元には、朝露に濡れた草がしっとりと光り、風の通り道を示していた。
「風よ、目覚めの時です。どうか、この地を清めてください──」
風音がそっと手を掲げると、空からひとひらの花びらが舞い降りた。 それは、どこからともなく現れた風に乗って、社の周囲をくるくると踊る。
やがて、社の奥から咲姫が姿を現す。 薄桃色の衣をまとい、手には小さな鈴を携えている。
「風音、ありがとう。あなたの風が、今日もこの場所を目覚めさせてくれたわ」
「咲姫さま……。今日も、良い風が吹いています」
二人は微笑みを交わし、社の前に並んで立つ。 その背後には、果林とうささまの姿もあった。 果林は巻物を手に、うささまは金の鈴を首に揺らしながら、にこにこと笑っている。
「さあ、始めましょう。今日という日を、皆で祝うために──」
咲姫の声が、朝の空気に溶けていく。 そして、社の奥から次々に人々が現れ、広場へと集まってくる。 祝祭の灯が、いま、ひとつずつともされようとしていた。




