ep.158 展示会へ向けて
北通りを抜けると、街の喧騒がふっと遠のいた。 石畳は朝露に濡れ、足音が静かに響く。 昨日の鍛冶場で染みついた火の匂いが、まだ服に残っていた。
「なんか、空気が違うね」 リンダが立ち止まり、朝の光を浴びながらつぶやく。 「静かで、澄んでる……」
「昨日の鍛冶場とは、まるで別世界だな」 ジョナサンが手帳を抱えながら、周囲を見渡す。
「展示会って、どんなもの出すんだろう」 セシルが小声で言うと、ルークが笑った。 「割れ物とか、細かいのとか? 俺、落とさないように気をつけないと……」
やがて、白壁と木の格子が印象的な建物が見えてきた。 玄関先には、月の形を模した看板が静かに揺れている。
「ここが……“月灯”か」 ラディがつぶやいた。
扉を開けると、柔らかな光が満ちていた。 窓から差し込む朝日が、棚に並ぶガラス細工や染め布を淡く照らしている。 空気には、木の香りと染料の匂いが混じっていた。
「……いらっしゃい」 奥から現れたのは、銀髪の女性――十六夜だった。
「ギルドから来ました、ラディ隊です!」 ラディが元気よく頭を下げる。
「ふふ、元気ね。……じゃあ、こちらへどうぞ」 十六夜は微笑み、奥の作業場へと案内した。
そこには、すでに数人の職人たちが作業をしていた。
繊細な筆で絵付けをしている琴詠、 木の実のようなビーズを糸に通している美甘、 布に刺繍を施す可憐、 ガラス細工を磨くフィーナとリン。
「わあ……」 セシルが思わず声を漏らす。
「きれい……」 リンダも、目を奪われていた。
「今日は、展示会に出す作品の搬入と、 そのための梱包作業をお願いしたいの。 どれも繊細だから、丁寧にね」 十六夜が静かに言った。
「はい、任せてください!」 ラディが胸を張る。
「……ふふ、頼もしいわね」 琴詠が筆を止め、微笑んだ。




