ep.155 地味だけど欠かせない仕事
工房の中は、まるで別世界だった。 鉄を打つ音、火のはぜる音、汗のにおい。 空気が熱を帯び、息をするたびに喉が焼けるようだった。
ラディたちは、工房の隅で黙々と作業をこなしていた。 鉄材の運搬、使い終わった道具の整理、煤けた床の掃除。 どれも地味で、けれど欠かせない仕事だった。
「……よし、次はこの束を奥の棚に」 ジョナサンがノートを脇に置き、手袋をはめ直す。
「セシル、そっちの箱、持てる?」 「うん、大丈夫。……って、重っ!」
「無理すんなよ。俺が手伝う」 ルークがすかさず手を貸す。
「……ありがとう」 セシルが小さく笑った。
その様子を、工房の奥からフェルムとシュルツがちらりと見ていた。
「……なんか、思ったよりちゃんとしてるな」 「うん。最初は“足手まといかも”って思ってたけど……」
「おーい、弟子ども! 休憩だ!」 バルリックの声が響いた。
「やったー! 休憩だって!」 フェルムが嬉しそうに声を上げる。
「君たちも、こっち来なよ!」 シュルツがラディたちを手招きした。
工房の裏手、小さな中庭にて。 木陰に腰を下ろし、それぞれが持参したパンをかじる。
「このパン、うまいな。どこで買ったの?」 フェルムが興味津々で尋ねる。
「南門の近くのパン屋さん。朝早く行くと、焼きたてがあるよ」 セシルが嬉しそうに答える。
「へぇ~、今度行ってみようかな」 シュルツが頷く。
「ところでさ、あの親方……ブラゴールさんって、いつもあんな感じなの?」 ルークがこっそり尋ねる。
「うん、まあね。でも、腕は本物だよ。 あの人が打った剣は、どんな魔物でも一太刀で――って、うちの親方が言ってた」 フェルムが誇らしげに語る。
「へぇ……」 リンダが感心したように聞き入る。
「でも、怒るとめっちゃ怖いから、気をつけてね」 シュルツが小声で付け加えた。
「……気をつけます」 ラディが真顔でうなずいた。
夕暮れが近づく頃、作業はようやく終わりを迎えた。
「ふぅ……終わった……」 セシルが額の汗をぬぐう。
「おつかれさん」 バルリックが、珍しく笑顔で声をかけた。 「よくやってくれたな。助かったよ」
「いえ、こちらこそ……貴重な体験でした」 ジョナサンが丁寧に頭を下げる。
「……また、来てもいいですか?」 リンダがぽつりと尋ねた。
バルリックは少し驚いたように彼女を見たが、 やがて、ゆっくりとうなずいた。
「……ああ。次は、もう少し中まで入れてやるよ」
その言葉に、ラディたちは顔を見合わせ、 小さく、でも確かな笑みを交わした。




