ep.19 団子屋裏と気まぐれ札
はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!
「……風の匂い、変わったね」
主人公がぽつりとつぶやいた。 倉庫を出てから、風の向きが少しずつ変わっている。 焙じ茶と炭の香りが混ざって、甘く、少し焦げた匂い。
「団子屋の裏通りだよ。昼下がりはいつもこんな感じ」
ミナが地図を見ながら言う。 その声は静かだけど、どこか楽しそうだった。
前を歩く三人娘は、すでに団子屋の前で騒いでいた。
「団子の匂い、強すぎるのです!」
咲姫が鼻を押さえながら言う。 猫耳飾りが、風に揺れていた。
「気配が、ちょっとわかりづらいね」
紗綾が札帳を開きながら、周囲を見渡す。 団子屋の隣には、古い蕎麦屋がある。 縁側には、誰かが昼寝していた。
「……あれ、猫?」
果林がぽつりとつぶやく。 三人がそろって目を向ける。
そこには、ふわふわの毛並みをした猫が、 丸くなって眠っていた。 耳がぴくりと動いて、しっぽがゆっくり揺れる。
「猫神様なのです!」
咲姫が一歩前に出る。 けれど、紗綾がそっと袖を引いた。
「待って。札帳が反応してるけど、これは“札”じゃない」
「でも、気配が濃いのです!」
「うん。濃いけど、違う種類の気配」
果林は、団子の串を持ったまま、そっと距離を取る。
「……団子落としそう」
猫は、ゆっくりと目を開けた。 金色の瞳が、三人を見つめる。 そして、ひとこと。
「にゃ」
それだけ言って、また目を閉じた。
主人公は、ふと足を止めた。 風が、頬をなでるように吹いた。
「……この猫、どこかで……いや、気のせいか」
ミナが、少しだけ目を細める。
「……あの猫、昔、うちの近くにいた気がする。 名前は知らないけど、しっぽの揺れ方、覚えてる」
主人公は、モカ・ラテの瞳を見つめながら、 その記憶が風越しに伝わってきたような気がした。
「……モカ・ラテなのです」
咲姫がぽそっと言う。 紗夜は札帳を閉じて、筆を下ろした。
「猫神様の使い、かもね」
「使いなのです!」
「でも、札帳は反応してない。 これは“札”じゃなくて、“気まぐれ”」
果林は、串を見つめながらつぶやく。
「じゃあ、団子は供えなくていい?」
「供えるのです!」
「でも、食べかけだよ?」
「それでも、気持ちが大事なのです!」
咲姫がそっと串を縁側に置くと、 モカ・ラテは一度だけ目を開けて、 しっぽをふわりと揺らした。
その瞬間、主人公はふと足を止めた。 風が、頬をなでるように吹いた。
「……この猫、前にも見たことある気がする」
ミナがぽつりと言う。 主人公は、モカ・ラテの瞳を思い出そうとする。 でも、記憶は曖昧で、風の中に溶けていく。
「気まぐれ札、ってこういうことかもね」
ミナの言葉に、主人公は小さくうなずいた。
三人娘は、蕎麦屋の縁側を離れて、 団子屋の裏通りを抜けていく。 風が、背中を押すように吹いていた。
「札帳は反応しなかったけど、 あれは“札じゃない札”だったのです」
「気まぐれ札?」
「そうなのです!」
「じゃあ、次の札はどこ?」
「風が、教えてくれるのです」
果林は、串をくるくる回しながら歩いていた。 紗綾は地図を広げ、風の向きを確認する。 咲姫は猫耳飾りを押さえながら、前を見つめていた。
少し後ろを、主人公とミナが静かに歩いていた。 風の中に、猫神様の残り香がまだ漂っている。
「……次は、北の坂道なのです」
「坂道?」
「うん。猫神様は、高いところが好きなのです!」
「でも、団子屋から坂道って、ちょっと遠いよ?」
「遠くても、行くのです!」
三人の足音が、石畳に重なる。 風が、少しだけ甘くなっていた。
最後まで読んでくださって、ありがとうなのです〜 感想やアドバイス、そっといただけたら嬉しいのです。 ★やリアクションで応援してもらえると、咲姫のしっぽがぽわぽわ揺れるのです〜 のんびり更新ですが、これからもよろしくお願いしますのですっ!




