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ひげがゆれるとき  作者: 島田一平(ねこちぁん)
2章~冒険者たち~

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ep.148 風の向かう方へ

風が通り抜けるたび、軋む音を立てて揺れる木の柵。  かつては牛や馬が行き交った広場も、今では雑草が石畳を割っている。  この村には、もう何年も新しい命が生まれていない。


朝の光の中、美空みそらは鍬を手に、痩せた畑の土を返していた。  けれど、土は乾ききっていて、鍬の刃が跳ね返るたびに、ため息が漏れる。  「……やっぱり、もうダメかな」  誰に言うでもなく、ぽつりとつぶやく。


村の外れでは、ドンが薪を割っていた。  無言で、黙々と。  その背中は大きく、どこか寂しげで、誰も近づこうとはしない。  けれど、彼の手元には、いつも手入れの行き届いた剣があった。


雨音あまねは、空き家の窓を拭いていた。  誰が住むわけでもない家。  それでも、彼女は毎朝、そこに通っては掃除をしていた。  「いつか、誰かが戻ってくるかもしれませんから」  そう言って、静かに笑った。


村は、止まっていた。  時間も、心も、未来も。  けれどその日、ひとつの荷車が、軋む音を立てて村に入ってきた。



(雨音の視点・焚き火の夜)


その夜、村の広場に小さな焚き火が灯った。  旅商人が持ち込んだ干し肉と、村人が分け合った芋の煮込み。  久しぶりに人が集まり、火を囲んでいた。


雨音は、少し離れた石段に腰を下ろしていた。  火の明かりが届くぎりぎりの場所。  誰かと話すわけでもなく、ただ、湯気の立つ鍋を見つめていた。


「……エルシンポリアって街、知ってるかい?」  旅商人の声が、ふいに夜気を裂いた。


誰かが笑った。「またそういう夢みたいな話を……」  「いや、本当さ。南の方で聞いたんだ。   山を越えた先に、誰でも受け入れてくれる街があるって。   職も、土地も、名前すらなくても、そこでは始められるってな」


雨音は、目を伏せたまま、そっと耳を澄ませた。  “誰でも受け入れてくれる”――  その言葉が、胸の奥に静かに沈んでいく。


彼女は思い出していた。  かつて仕えていた屋敷のこと。  主が倒れ、屋敷が売られ、行き場を失ったあの日のこと。  「いつか、誰かが戻ってくるかもしれませんから」  そう言って掃除を続けていたのは、誰のためだったのだろう。


焚き火の火が、ぱちりと弾けた。  雨音は立ち上がり、そっとその場を離れた。  誰にも気づかれないように。


その夜、彼女は荷物をひとつ、まとめた。

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