表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/81

ep.18 西の路地と猫の残り香

倉庫を出ると、風が少しだけ強くなっていた。 さっきまでの静けさとは違って、 どこか、急かすような風。


「……風の向きが変わったのです」


咲姫が髪を押さえながら言う。 猫耳飾りが、風に揺れていた。


「西の方から吹いてるね。さっきまでは南だったのに」


紗綾が地図を広げる。 倉庫の位置、札所、そして西の路地。 風の通り道が、少しずつ見えてくる。


「猫神様は、まだ近くにいるのです。  でも、今は“見えない”だけなのです」


「見えないけど、残り香はあるかも」


果林が団子の串をくるくる回しながら言う。 もう食べ終わっているのに、まだ名残惜しそうに持っている。


「……団子の匂いと混ざってたら、気づけないかも」


「それは、気配じゃなくて食欲なのです!」


「うん。だいたい同じくらい大事」


三人は、倉庫の前の石畳を歩き出す。 風が、背中を押すように吹いていた。


西の路地は、町の中心から少し外れた場所にある。 人通りは少なく、石畳も少し古びている。 壁には蔦が絡まり、風がその葉を揺らしていた。


「……静かだね」


紗綾がつぶやく。 咲姫は前を歩きながら、時々振り返る。


「猫神様の気配、濃くなってるのです」


「でも、姿は見えない」


「気配だけで十分なのです。  猫神様は、そういう方なのです」


果林は、壁の蔦に手を伸ばす。 その指先に、風がふわりと触れた。


「……焙じ茶の匂い、まだ残ってる」


「それは猫神様の残り香なのです!」


「でも、団子屋の裏通りでもあるよね、ここ」


「それは……混ざってるのです!」


紗綾は札帳を開き、筆を構える。 風の向き、匂い、気配―― 全部を、静かに記録していく。


「……次の札、ここにあるかも」


「札所じゃなくて、気配で探すのです」


「でも、札帳は札所でしか反応しないよ」


「それは、まだ“人間の札帳”なのです!」


果林は、くすっと笑って、串をポケットにしまった。


「じゃあ、猫神様の札帳ってあるの?」


「あるのです!きっと!」


「見たことある?」


「ないのです!」


「……じゃあ、想像?」


「想像なのです!」


紗綾は笑いながら、筆を下ろした。 石畳の隙間に、小さな足跡が残っていた。


「……猫の足跡?」


「たぶん。新しい」


「猫神様が、ここを通ったのです!」


咲姫がしゃがみ込んで、そっと指でなぞる。 その指先に、風がふわりと触れた。


「……風が、応えてくれたのです」


「じゃあ、ここが次の札の場所?」


「ううん。ここは“通過点”なのです。  猫神様は、もっと先へ向かったのです」


果林は、壁の蔦を見上げる。 その先には、小さな路地が続いていた。


「じゃあ、行こっか。団子屋の裏、抜けて」


「団子屋……?」


「うん。次の札、団子の匂いに混ざってるかも」


「それは気配じゃなくて食欲なのです!」


「でも、猫神様も団子好きかもよ?」


「それは……あるのです!」


三人は、路地を抜けて、次の風を探しに歩き出す。 猫神様の姿は、まだ見えない。 けれど、風の中に、確かに“残り香”があった。

最後まで読んでくださって、ありがとうなのです〜 感想やアドバイス、そっといただけたら嬉しいのです。 ★やリアクションで応援してもらえると、咲姫のしっぽがぽわぽわ揺れるのです〜 のんびり更新ですが、これからもよろしくお願いしますのですっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ