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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
1章

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ep.17 倉庫の影と猫の気配

倉庫の前に立った瞬間、風が止まった。 咲姫も、紗綾も、果林も、自然と足を止める。 空気が、少しだけ重たくなる。


「……ここなのですか?」


咲姫がぽそっと言う。 さっきまでの勢いは少しだけ控えめで、 目だけが、倉庫の扉をじっと見ていた。


「札に書いてあった場所、合ってると思う」


紗綾が札帳を開きながら、周囲を見渡す。 木の壁は古くて、ところどころ板が浮いている。 隙間から、倉庫の中の暗がりがのぞいていた。


果林は団子の串を持ったまま、壁に手を当てる。 「……風、吸い込まれてる」


「吸い込まれてる?」


「うん。中に、何かいる感じ」


咲姫が一歩前に出て、扉に手をかけた。 ぎぃ、と音を立てて、扉が少しだけ開く。


中は暗い。 埃っぽくて、木の匂いがする。 でも、その奥に――何か、いる。


「……入るのです」


「ちょっと待って、咲姫ちゃん。足元、気をつけて」


「でも、猫神様が待っているのです!」


「待ってるかどうかは……」


「待ってるのです!」


果林は、団子の串をくるくる回しながら、 「じゃあ、入ろっか」と言った。


「果林さん、団子はもう……」


「あと一本あるよ。非常用」


「非常用……?」


倉庫の中は、思ったより広かった。 古い木箱が積まれていて、 その隙間から、風がすうっと抜けていく。


「……音が吸い込まれてる感じがする」


紗綾が小声で言う。 咲姫は猫耳飾りを押さえながら、 「気配が濃いのです」とつぶやいた。


「猫神様、どこにいるのですか?」


返事はない。 けれど、風が一瞬止まった。


その瞬間――


「……見えた」


果林がぽつりとつぶやいた。


「えっ、どこなのです!?」


「……あそこ。木箱の上」


三人がそろって目を向ける。 けれど、そこには何もいない。 ただ、埃をかぶった木箱と、 その上に、うっすらと残る足跡のような跡。


「……猫?」


「たぶん。さっき、しっぽが見えた気がした」


「気がした、じゃなくて、見たのですか?」


「うん。見た、と思う」


紗綾は筆を構えたまま、じっとその場所を見つめる。 風がまた、すうっと動いた。


「……札、反応してる」


「反応?」


「うん。札帳が、少しだけ熱い」


咲姫は札帳を取り出して、そっと開いた。 そこには、まだ何も書かれていない札が一枚。 けれど、その紙の端が、かすかに揺れていた。


「……猫神様が、何かを伝えようとしてるのです」


「でも、言葉じゃない。気配だけ」


「気配で伝えるのです。猫神様は、そういう方なのです」


果林は、最後の団子をかじりながら、 「じゃあ、こっちも気配で返す?」とつぶやいた。


「気配で……返す?」


「うん。言葉じゃなくて、気持ちで」


咲姫は、札帳を胸に抱えた。 紗綾は、筆を下ろした。 果林は、団子の串をそっと床に置いた。


風が、また動いた。 今度は、倉庫の奥から、ふわりと。


その風の中に、 小さな足音が混じっていた。


「……今の、聞こえたのですか?」


「うん。たぶん、猫の足音」


「でも、姿は見えなかった」


「気配だけ、残していったのかも」


咲姫は、木箱の上にそっと手を置いた。 そこには、ほんのりと温もりが残っていた。


「……ありがとう、猫神様」


「もう、行っちゃったのかな」


「ううん。まだ、近くにいるのです。  でも、今は“見えない”だけなのです」


紗綾は、札帳にそっと筆を走らせた。 今日の札――「猫の気配あり」――は、 確かに“応え”を返してくれた。


「じゃあ、これで札は完了?」


「ううん。まだ“終わり”じゃないのです。  これは、始まりの札なのです」


「始まり?」


「うん。猫神様が、何かを始めようとしてる。  そのために、私たちを呼んだのです」


果林は、串を拾い上げて、くるくる回した。


「じゃあ、次はどこ行くの?」


「風が、教えてくれるのです」


倉庫を出ると、風が少しだけ強くなっていた。 空はまだ明るく、町の音が遠くに聞こえる。


「……団子、買い足しておこうか」


「今度は三人分、ちゃんと買うのです!」


「非常用も?」


「もちろんです!」


三人の声が、風に乗って広がっていく。 猫神様の気配は、もう見えない。 けれど、風の中に、何かが残っていた。


それは、始まりの匂い。 札が動き出した、最初の一歩。

最後まで読んでくださって、ありがとうなのです〜 感想やアドバイス、そっといただけたら嬉しいのです。 ★やリアクションで応援してもらえると、咲姫のしっぽがぽわぽわ揺れるのです〜 のんびり更新ですが、これからもよろしくお願いしますのですっ!

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