ep.16 猫札と三人娘
はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!
「猫の札なのです!これは絶対に私の運命なのです!」
札所の掲示板に貼られた三枚の札。 その真ん中、「市場裏の倉庫にて、猫の気配あり」を見つけた瞬間、 咲姫はぴょんと跳ねて、指を突き出した。
「咲姫ちゃん、落ち着いて。まだ誰も選んでないよ」
紗綾がそっと袖を引く。 けれど咲姫は、すでに半歩前に出ていた。
「猫神様が呼んでいるのです!これはもう、選ばれるべき札なのです!」
「……選ぶんじゃなくて、選ばれるの?」
「そうなのです!」
果林は団子をかじりながら、掲示板を見上げる。 その手には、なぜか二人前の団子。 串の先がほんのり焦げていて、香ばしい匂いが風に混ざる。
「……猫の気配って、どんな感じなんだろうね。 団子の匂いに混ざってたら、わたし気づけないかも」
「果林さん、それは気配じゃなくて食欲なのです!」
「うん。だいたい同じくらい大事」
紗綾は小さく笑って、筆と札帳を取り出す。 咲姫はすでに猫札の前に立ち、目を閉じていた。
「……風が、少しだけ動いたのです」
「それ、気のせいじゃない?」
「気のせいじゃないのです!」
果林は団子をもう一串取り出し、 「じゃあ、行こっか」と軽く言った。
「えっ、もう出発なのですか?」
「うん。猫札って、気配が濃いとすぐ消えるって聞いたし。 団子も冷めるし」
「……団子が先じゃないのです!」
「でも、団子は持ってるよ」
紗綾は地図を広げ、倉庫の位置を確認する。 市場裏の路地は、町はずれに近い。 風の通り道でもある。
「じゃあ、猫神様に会いに行くのです!」
「はいはい、落ち着いて。筆、忘れてない?」
「持ってるのです!」
「果林さん、札帳は?」
「持ってないけど、団子はあるよ」
「……団子は札帳じゃないのです!」
三人の足音が、石畳に重なる。 札所の空気が、少しだけ揺れた。
出発の準備は、いつも咲姫が一番早い。 早いというより、勢いで始まってしまう。
「紗綾、地図は?果林、団子は?」
「地図はあるけど、団子は果林さんが持ってるよ」
「団子は三人分あるのですか?」
「うーん……二人分と、ちょっと」
「ちょっとって何なのです!」
「咲姫ちゃんの分は、途中で買えばいいんじゃない?」
「それでは猫神様に失礼なのです!」
「……猫神様、団子にこだわるかな」
「こだわるのです!きっと!」
果林は団子をかじりながら、 「じゃあ、咲姫ちゃんの分も買っておこうか」と言った。
「それなら許すのです!」
札所の門をくぐると、町のざわめきが少し遠くなる。 石畳の道を抜けて、市場の裏手へ向かう。 風が、細い路地をすり抜けていく。
「猫の気配って、どこから来るのですか?」
「札には“倉庫”って書いてあったよね。 市場の裏にある、古い木造の建物」
「……あそこ、前に一度だけ行ったことある。 団子の仕入れ先が近くて」
「果林さん、団子の記憶しかないのですか?」
「うん。猫はいなかったけど、風は吹いてたよ」
「それは、猫神様の予兆なのです!」
紗綾は歩きながら、札帳にメモを取る。 咲姫は前を歩きながら、時々振り返っては「急ぐのです!」と叫ぶ。 果林は団子をかじりながら、のんびりついていく。
市場の裏手に近づくと、空気が少し変わった。 人の声が遠くなり、風の音が耳に残る。 倉庫の壁は古く、木の板がところどころ浮いている。
「ここなのですか?」
「うん。札に書かれてた場所、間違いないと思う」
「猫神様の気配、感じるのですか?」
「……風が、少しだけ冷たい」
果林は団子の串を見つめながら、 「猫って、こういう場所好きそうだよね」とつぶやいた。
「それは、隠れやすいからなのです!」
「それもあるけど……静かだから、落ち着くのかも」
咲姫は倉庫の前に立ち、そっと目を閉じた。 紗綾は筆を構え、札帳を開く。 果林は、最後の団子をかじり終えた。
「じゃあ、札を選ぶのです」
「……もう選んでるよね、咲姫ちゃん」
「うん。選ばれてるのです!」
風が、倉庫の屋根をなでる。 猫の気配は、まだ見えない。 でも、三人娘の声は、もう届いている。
最後まで読んでくださって、ありがとうなのです〜 感想やアドバイス、そっといただけたら嬉しいのです。 ★やリアクションで応援してもらえると、咲姫のしっぽがぽわぽわ揺れるのです〜 のんびり更新ですが、これからもよろしくお願いしますのですっ!




