ep.12 兆し
はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!
夜。 町の灯りがまばらになって、風の音が少しだけ強くなる頃。 空は雲ひとつなく、月が静かに浮かんでいた。 その光は冷たくもなく、温かくもなく、ただ“見守っている”ようだった。
俺は、猫影茶屋の縁側に座っていた。 焙じ茶の香りはもう消えていて、代わりに夜の空気が静かに満ちている。 胸の奥には、昼間の“囁き”がまだ残っていた。
「……クロノ、いるのか?」
誰に聞かせるでもなく、ぽつりとつぶやいた。 風が頬を撫でて、障子の隙間がわずかに揺れる。 その向こうに、屋根の影が見えた。
そこに――いた。
黒猫が、静かに座っていた。 月明かりの中で、その姿はまるで“神の使い”のようだった。 毛並みは黒く、でも深い藍のような光をまとっている。 目は閉じていたけれど、確かに“見られている”感覚があった。
俺は、声を出せなかった。 ただ、胸の奥がふっと震えた。
クロノが、ゆっくりと立ち上がる。 足音はなかった。 でも、空気が少しだけ揺れた。
そして、こちらを見た。
目が合った瞬間、胸の奥に“響き”が広がった。 それは言葉ではなく、意味でもなく、ただ“感じる”もの。 昼間の祠で感じたものに、少しだけ似ていた。
「……クロノ」
猫は、何も言わなかった。 でも、その瞳が語っていた。 風の中に、月の下に、猫神様の“意志”が宿っていた。
そして――
「ひげがゆれるとき、それが夜明けだ」
その言葉が、頭の中に響いた。 声ではない。 でも、確かに“届いた”。
【素養《Oralis理解》が成長しました】
胸の奥に、光が走った。 それは、言葉ではない。 でも、確かに“意味”があった。
クロノは、しばらく俺を見つめていた。 そして、何も言わずに、また座った。 他の猫たちも、それに合わせるように、静かに目を閉じた。
風が吹いた。 鈴の音が、遠くで鳴った。 それは、誰かが“扉を開けた”ような音だった。
俺は、その場に立ち尽くしていた。 でも、胸の奥には、確かに“何か”が残っていた。 それは、猫神様がそっと通り過ぎたような、そんな気配だった。
修徒帳の表紙に刻まれた爪痕が、ほんのわずかに温かくなった。 そのぬくもりは、猫神様の気配が“近くにある”ことを教えてくれる。
でも、それは“始まり”ではない。 まだ、誰とも繋がっていない。
俺は、静かに屋根の上の猫を見つめた。
「……いつか、誰かと一緒に歩けるかな」
その言葉は、夜の空気に溶けていった。
猫は、月明かりの中で、ただ静かに座っていた。 まるで“夜明け”を待っているように。
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