ep.11 ささやき
はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!
茶屋の奥にある社は、今日も静かだった。 障子越しに差し込む光が、畳の上に淡く広がっている。 焙じ茶の香りが、空気の層をなぞるように漂っていた。
俺は、縁側に座っていた。 胸の奥に残る“冷たい響き”が、まだ消えずに残っている。 それは祠で感じたもの。 猫神様の“記憶”に触れたときの、あの感覚。
「……まだ、揺れてるな」
「それは、悪いことではありません」
ふいに、背後から声がした。 振り返ると、白い装束の巫女――千夜が、静かに立っていた。
「揺らぎは、素養が育つ前触れです。 水面が波立つとき、そこに月が映るのです」
「……月?」
「意味は、あとでわかります」 千夜は、俺の隣に座った。 その動きは、風が座るように静かだった。
「昨日、クロノが……何かを“囁いた”気がしたんです」 俺は、胸の奥に残る感覚を言葉にしようとした。 「言葉じゃない。でも、意味があったような……」
「それは、“猫語”の始まりです」
「猫語……」
「猫神様の言葉は、音ではなく“響き”で伝わります。 それを感じ取る素養が、あなたの中で芽吹いている」
千夜の声は、まるで鈴の音のようだった。 静かで、でも耳の奥に残る。
「……聞こえるようになるんですか?」
「いいえ。“感じる”ようになるのです。 猫語は、意味を伝えるのではなく、“気配”を届ける言葉。 あなたがそれを受け取る準備ができたとき、自然と“意味”が浮かびます」
俺は、昨日の夜を思い出していた。 クロノが屋根に座っていた。 目が合った瞬間、胸の奥に“響き”が広がった。
「……あれが、猫語?」
「ええ。あの子は、あなたに“何か”を伝えたのです。 でも、それをどう受け取るかは、あなた次第」
「……俺、ちゃんと受け取れてるのかな」
「まだ、半分だけ。でも、それで十分です」
千夜は、そっと手を伸ばして、俺の胸の上に触れた。 その指先が、ほんのりと温かかった。
「ここに、“響き”がある限り、あなたは迷いません。 猫神様は、いつも風の中にいます。 そして、あなたの中にも」
そのときだった。 茶屋の奥から、黒い影が走り抜けた。 誰も声を出さなかった。 でも、空気が確かに揺れた。
「……今の、クロノ?」
「ええ。あの子は、あなたを見に来たのです」
「……なんで?」
「“囁き”が届いたからです。 あなたが“聞いた”から、あの子は応えた」
胸の奥が、ふっと温かくなった。 修徒帳の爪痕が、静かに光っていた。
【素養《Oralis理解》が進化しました】 【新素養《Nekomuris感応》が芽吹きました】
「……今、何かが……」
「“猫語の囁き”を感じ取る力が、あなたの中に芽吹いたのです。 それは、言葉ではなく、気配と響きで語られる神の言葉」
「……俺、聞こえるようになってきてるのか」
「いいえ。“感じる”ようになってきているのです」
千夜は、立ち上がった。 その背中は、まるで霧の中に溶けていくようだった。
「猫神様は、言葉を持ちません。 でも、風の中に“意志”を残します。 あなたがそれを感じたとき、世界は少しだけ変わります」
「……変わる?」
「ええ。あなた自身も、きっと」
千夜が障子の向こうへ消えたあと、俺はしばらく動けなかった。 胸の奥に残る“囁き”が、まだ静かに響いていた。
それは、言葉ではない。 でも、確かに“意味”を持っていた。
猫神様が、俺の中に“何か”を残していった。 それは、風のように静かで、でも確かな“始まり”だった。
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