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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
第一幕~序章

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ep.10 記憶の足音

はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!

北の丘は、町の喧騒から少し離れた場所にあった。 石畳の道を抜けて、草の生い茂る坂を登ると、空気が変わる。 風が止まり、音が遠ざかる。まるで、時間が一枚の布の下に隠されたような静けさ。


「ここ、誰もいないのに……空気が重いな」


俺は、足を止めて周囲を見渡した。 木々の間に、苔むした石段が見える。 その先に、小さな祠がぽつんと佇んでいた。


「猫神様の古い祠だよ」 ミナが、石段の下で立ち止まる。 「もう誰も祈ってないけど、猫は時々戻ってくる」


「……戻ってくる?」


「猫って、過去を探す生き物なんだよ。  この祠には、昔の“気配”が残ってる。猫神様が通った跡がね」


俺は、石段をゆっくり登った。 祠の前には、古びた鈴が吊るされていた。 風はないのに、鈴がほんの少しだけ揺れている。


「……鳴らないな」


「音じゃないんだよ。ここで聞こえるのは、“記憶の足音”」


祠の前に立つと、足元に猫の足跡が残っていた。 乾いた土に、ぽつんと押された跡。 それは、昨日のものじゃない。もっと昔の、時間の奥に沈んだような跡だった。


「……これ、クロノの?」


「かもね。でも、あたしが初めてここに来たときも、同じ跡があったよ」


「ミナも?」


「うん。あたしが修徒士になったばかりの頃。  猫神様の“尾”を追ってたら、ここにたどり着いた。  そのときも、鈴は鳴らなかったけど……胸の奥が、ふっと震えた」


俺は、祠に向かって手を合わせた。 何かを祈るわけじゃない。 ただ、そこにある“気配”に触れたくて。


その瞬間、胸の奥に冷たい“響き”が走った。 痛みじゃない。 でも、心の奥に、静かに染み込んでくるような感覚。


【素養《Veritas共鳴》が進行しました】


「……今、何かが……」


「それ、“記憶”に触れたんだよ」 ミナが、祠の前に立って言った。 「猫神様は、過去を残す。言葉じゃなくて、足音で。  それを感じられるようになったってこと」


俺は、祠の鈴を見上げた。 風はないのに、鈴がもう一度だけ揺れた。 音は鳴らない。 でも、その揺れが、胸の奥に“響き”を残した。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました! 感想やアドバイスなど、いただけたらとても励みになります。 これからも、のんびり続けていきますので、よろしくお願いします!

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