第六話 死闘!火星近海(前編)
カルブンクルスが火星へ来る5時間前
火星上空へと後退した機械帝国ヘーレム太陽系侵攻艦隊先遣部隊はカデシュのゲヘナバスターを受けて破損したストラデゴス級機動戦艦の右翼の修理を整備兵、そしてタラスまで用いた急ピッチで行っていた。
そのストラデゴスの三角形の船体の中心部の通信室の巨大なモニターの前に艦隊指揮官グログは立っていた。目の前には彼が今最も会いたくない人物を前にして。
『なるほど・・・・奴隷40億人を確保。それにタラス2機とオートノミー1隻を失った価値があると思っているのだな?』
モニターの中の人物、艦隊司令官ナールライトは逆三角形型の頭部の3つの切れ長のカメラアイをギラつかせて詰問する。
彼らが古代に絶滅させた創造主『セラの民』。彼らが生み出したカデシュ含む『最初の5柱』には有機生命体である事が絶対条件だった。だから機体を欺瞞する為の人工皮膚を着けるヘーレムの風習から考えても全身機械のボディーを露出させたまま生活するナールライトは機械生命体ヘーレムの体現者として全ヘーレムの母にして支配者AT01からの絶対的な信頼を得て、5柱探索任務を拝命したのだった。
そんな人物を前にしては狂暴で知られるグログもすくみ上って頭の中に際限なく沸いて出てくる言い訳を考えない様にするのに精一杯だった。
『言い訳があるなら口に出せ。思考されると余計なデータが頭の中に入って来て敵わん』
ナールライトの言わんと知る事はグログも分かる。ヘーレムの頭脳ユニットは金・銀・銅に等級分けされていて、左に行くほど階級が高い。そして高位の階級は下の階級の思考を一方的に読み取る事が出来るのだ。忌憚のない不平不満を聞いて気分を害するのはこの点有機体も無機物も同じだった。
「さ・・・作戦があります・・・今その為の準備を艦の修理と並行させて行っております。その為に直ちに現用タラスを規定数配備されたオートノミー級1隻とペイガン級3隻をお送りして頂きたく・・・・」
『それだけで良いのか?』
「ハ」
『よろしい。今後の作戦の幅を広げる為にもペイガン級1隻にはマンジケルト35機を付けてやる。以後お前からの補給の申し出は無条件に受けよう。ただし、カデシュの奪還もしくは完全破壊を成し遂げるまでディ=ウ星の前線基地への帰還を禁ずる。この戦いで私が貴様達思考にバグのあるはみだし者を集めた特務隊を編成した意義を証明して見せろ。有機知的生命体と違ってヘーレムには不良品はいても廃品はいない事を見せてやるのだ』
「あ・・・ありがとうございます!!必ずや・・・」
『世辞は良い。戦果を期待する』
それで通信は切れた。グロクの脳の神経は辛うじて繋がった。
(これでフィジオーム・カルバラーが出張ってくる事態は避けられたか)
自身と部下全員の死を意味するナールライトの出陣を抑えられたのは大きかった。
しかし、グログの銀の思考ユニットはナールライトから事実上斬り捨てられた事を想像できない。そんな思考は出来ない様になっているのだ。
『グログ指揮官、例の武装のデータと実機が仕上がりました』
「直ちに配備されている現用タラスにデータ入力と装備にかかれ!連中はすぐにでも来るぞ!!」
『ハッ!』
後はストラデゴスの修理を間に合わせるだけだ。だがそううまくいかないのが戦場だ。
『前方30km先に巨大な物体の転移確認!!』
「修理中止!待機組のタラス部隊は発進にかかれ!エサの準備も忘れるなよ!」
1艦だけペイガン級輸送艦を前に出すとその左右をオートノミー級とストラデゴスで固めると残り3艦を隕石地帯へ向けて発進させる。
ストラデゴスのオペレーターからの報告にグロクは修理要員を引き上げさせる。入れ替わりに整備の終わったタラスの喉元に鈍い銅色の脳が入った円筒形のカプセルが設置されると臨戦態勢の整った現用タラスが次々とオートノミー級とストラデゴスから発進し、彼らと少し距離をおいてタラス最初期型も発信していく。現用機と最初期型の外見上の違いは頭部に『口』がある事と大型化した脚部パーツでこの脚部の膝とふくらはぎに追加の武装コネクタが設けられている。今出撃している機体は全てふくらはぎに追加スラスター、膝に可動式短射程フォトンガンを装備している。
「来た!」
現用タラスのパイロットの1人が巨大物体カルブンクルスから出撃してきたカデシュを捉える。
「速い!?」
「距離を取れ!接近はまだ・・・」
現用タラスのフォトンライフルのトリガーが引かれるより先にカデシュは敵編隊のど真ん中に突っ込んで来た。カデシュの爪が手近なタラスを引き裂くよりも前にタラス隊は放射状に散開し、急速に旋回すると手持ちのフォトンライフルを四方から浴びせる。
「しまった!?」
「包囲される前に突っ切って!!」
「わかった!!」
レンの助言に翔は操縦補助用に組み込まれたフットペダルを踏みこみ、再度加速をかける。
(これでようやく、ロボットを操縦してるって実感が湧くな)
目の前の2本の操縦桿を引いて最初期型タラスのライフルを上昇しつつ躱すと同時にそのタラスの後頭部を蹴り飛ばして更に加速する。後ろで爆光が閃いたが気にする余裕は無い。目の前に100近い数のホーミングレーザーナパームの嵐が迫って来たからだ。
「出来るだけジグザグに動いて!バリアーの出力を上げる!」
「う・・・イメージ通り動いてくれ・・・よ!?」
カデシュの動きはしかし、翔の無意識の防衛反応を受けて背中の翼を盾替わりに機体前方へ可動させた。その為推力が鈍りジグザグ移動は瞬時にナパーム弾の嵐に追いつかれ、カデシュは巨大な火の玉に包まれる。
「やったか!?」
「あれだけのナパームだ。高温で機体はともかくパイロットが生きていられる訳が・・・ッ!?」
色の薄くなった火球の中から緑の光弾と遅れて飛び出す機影。正面のタラスがカデシュのフォトンライフルに撃ち抜かれ、巻き添えを避けるために左右に広がる最初期型タラス部隊。だがそれよりも早く、広げた両手にプラズマソードを持ったカデシュがすれ違いざまに2機の胴を両断した。
「奴め、化け物か!?」
「俺達の任務は終わっていない。行くぞ」
防衛戦を突破したカデシュを追う現用タラス部隊を見送ると旧式部隊は両断された僚機に目もくれず、対艦装備のままカルブンクルス攻撃へ向かった。
「輸送艦は1つだけか?」
「罠よ。引き返すのも手だと思うけど・・・」
そう言いつつ、レンも短い付き合いながら翔がその選択をするとは思っていない。だが注意を促す必要があると思うからの言葉である。
「どの道短時間で決着を着けるつもりだろ?なら予定通りに行く!」
「了解。ストラデゴスの砲撃には気を付けて!撃たれたらカデシュでも一瞬であの世行きだよ」
「予定通り食いついたな!砲撃開始!!味方に当てるなよ!!」
グログの合図と共にストラデゴスとオートノミーの艦砲が一斉に火を噴く。
(そうだ・・・・そのまま奴隷船に取り付いて来い。その為に火線を薄くしてあるのだからな)
グログの策略に気が付くほど翔もレンも実戦経験豊富ではない。カデシュは傍目には猛烈な、しかし戦巧者が見れば敵を誘導するような2艦の砲撃を掻い潜ってペイガン級輸送船へ接近すると船の中程のブロックに両手を掛け、押し出した。これらのブロックは巨大なリングを積み重ねた形になっており、航行中も容易に切り離しが可能な構造になっている。
そのリング2つが火花を上げて船体から分離していく。
「後は・・・」
「カケル、上!」
レンは急に砲撃が止んだ事を訝しみ、索敵をかけたが遅かった。砲撃を隠れ蓑に現用タラス部隊に包囲されていたのだ。それらの機体は右手にレンも見たことがない武装、ショックアンカーを生成し、一斉に打ち出す。
「そんな物、吸収してやる!」
翔はカデシュの両腕の装甲を跳ね上げるが、アンカーは装甲に引っかかるとその重みで元の位置に押し付けた。
「吸収封じか!?グゥッ!?」
両腕だけでなく両脚にもアンカーが絡まり、カデシュの四肢を拘束する。
『やれ!!』
指揮官の合図と共にアンカーに電流が流れる。
「うわああアアッ!
「キャアアアッ!!」
電流はカデシュの内装部品そしてパイロットに大きなダメージを与える。
「完璧だ・・・カデシュもフィジオームである以上パイロットの脳波で動いているはず・・・つまりパイロットを脳死させて機体だけ入手できるってわけだ!」
グログの読み通り、完全に沈黙したカデシュは四肢をアンカーに繋がれたままストラデゴスへ牽引されていった。




