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Galaxy Trail  作者: 紀之
追撃+反撃=追跡

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第五話 カルブンクルス




 後にカルブンクルスと名付けられる、紅い巨大球体ポッドに帰還したカデシュ。メインパイロットである北条翔は歓呼(かんこ)の声に包まれる格納庫を青ざめた顔でふらつきつつ、近くの扉へ歩く。とにかく1人になりたかった。


「なんでえ、愛想のない奴」


誰かの声に反応出来る程の余裕もない。そっとしといてやれ、というハリオ爺さんの


「整備班、カデシュの握っている千切れた腕を早く還元しろ。モタモタしてるとバラバラになっちまうぞ。終わったら元素注入開始!」


という声に怖気(おぞけ)を振るって最後の力で翔は近くの部屋に駆け込むと隅に座り込んでしまった。


「翔、大丈夫?」


「北条君、どこか痛いなら医務室に・・・さっき出来たばかりでベッドしかないけど案内します」

出て行ってくれ!そう叫びたい衝動を嘔気と共に辛うじて喉に押し戻した。相手は相羽優歌と牧野琴音。


たった2人の地球人の生き残りで知り合いなのだ。だが再度扉が開き、共に戦ったレンが入ってきた。


「知っていたのか!?あいつらの正体を!?知ってて・・・!」


出来るだけ抑揚のない声を出したつもりだった。だが琴音は明らかに怯えた表情をしているし、優歌もギョッとした目をこちらに向けている。


「知ってた・・・?ああ!あいつらが機械だって事!?そう言えば何も知らないんだったね」


「機・・・械!?あれが・・・?あんな生物の・・・脳みそみたいだった、あれが機械だって言うのか!?」


「・・・ハア・・・アタシもね、歴史の先生じゃないから詳しくは知らない。だけど自分達を作った人類を滅ぼして自分達が銀河の生命全てを支配するんだって躍起になってるのは確かだよ」


そう言うとレンはため息をつき、部屋の床に寝転がった。


「ちょっと、アンタ、恥じらいってものを持ちなさいよ!」


「アンタじゃない。レンだよ。そう言うあんたもあんまり女らしく見えないけど?」


「グギギギギ・・・」


最も気にしている事を指摘され、真っ赤になる優歌。


「あ・・・あの2人とも喧嘩はやめよう?その・・・これからどうするか分からないけど暫くは一緒にいる事になるんだから・・・ね?」


「そう・・だな。牧野さんの言う通りだ。ここでいがみ合ってたらそれこそ連中の思う壺だ」


(そうだ・・・・あいつらが人間だろうと機械だろうと、奴らのやった事を許す事は出来ない。必ず皆を助け出す!)


「北条君・・・」


「ぐ・・・翔と琴音に免じて今日の所は許してあげる」


「あんたいつか本気で泣かす・・・!」


「優歌よ、相羽優歌!」


「ユーカ、いつか本気で泣かしたげる」


「な・・!?レン、言い直すなア!」


「元気そうだな。元気の有り余ってる嬢ちゃんたち、このポッドの探索に出てくれ。どうも内部にはよくわからん区画がいくつかあるんでな」


ニヤニヤ笑いながらハリオが部屋に入ってくなり優歌と琴音を手招きする。


「分からない?」


「直径15kmしかないはずなんだがな。中心部に謎の空間がある」


「謎って何?」


「分からん。だから謎なんだよ。手の空いてる奴ら全員で行ってもらう。ヤバくなったらすぐ逃げろ」


「俺も・・」


「カケル・・・だったか?お前さんはレンと一緒に艦長の所へ少し休んだら行ってくれ。ここからエスカレーターを2回りした階層に制御室がある。そこをメインブリッジにするんだと。じゃ確かに伝えたぜ」


ハリオはそう言うと格納庫へと戻って行った。


「わざわざ様子を見に来てくれたんでしょうか?」


「かもね。あの爺さんマメだから」


呆れたようにレンは首を振る。しかしその表情は少しだけ綻んでいた。


だが優歌は不満げだった。


「うう・・・また離ればなれ・・・!」


「私は優歌ちゃんと一緒だと心強いな・・」


「琴音ェー!一生一緒だよおぉ!」


宥めるように頭を撫でる琴音に頬ずりしながら、2人の少女はじゃれ合いながら出て行く。


「なにあれ?」


「友情だろ」


翔の中の嫌な気持ちはいつの間にか無くなっていた。



「さて、初戦闘の様子は見ていたが・・・改めて聞きたい。カケル、レン。君達はカデシュ1機で連中への追撃が成功すると思うか?」


(しばら)くしてメインブリッジへ上がった翔とレンにブリッジの中央に備えられた椅子に座るルツは切り出した。ブリッジ内の上面にはいくつかのモニターがあり、そこには現在半休憩を取っているクルー達が映し出されている。彼らもこの会見を視聴しているのである。


「追撃する、ではなく成功するか、ですか・・・」


「そうだ。カケル、君達2人の活躍に皆気が大きくなっていてね。なんせずっと負け続きだったから。それで実際に動かした2人の意見を聞いてみたいんだ」


「あいつらの艦隊は今どこに?」


レンの疑問に応えるようにルツがモニターの1つを操作する。


「連中のスペースジャンプ航路から導き出せる現在位置はここだ。連中はどうやらこの星の地表に大量のサイジカル合金の原料がある事を知ったらしい。そこでストラデゴスの修理を行っているだろう」


「火星にワープしたって言うんですか?あんな距離を移動するなんてどれだけの時間が・・・」


「いや、同じことがこのポッド、カルブンクルスと名付けさせて貰ったが、出来る」


ルツの言葉に翔の表情は明るくなる。


「なら・・・」


「待って。この奥は隕石地帯よね?そこに連中の補給部隊なり援軍はいないの?」


レンの疑念に我が意を得たりとルツはモニターを凝視しながら


「そこだ。連中は十中八九援軍なり補給部隊を呼んでいるはず。何と言っても奴隷船、ペイガン級は大きな足手まといだ。それを無傷で引渡す為の艦隊が遅かれ早かれ隕石地帯を超えて到着すると見るべきだろう。そしてのんびりストラデゴスの修理をしているのは何か作戦がある、とも考えられる。つまりカデシュを捕獲するか、もしくは完全に破壊する為に手ぐすね引いて待っている可能性は否定できない」


「あるいはその両方かもしれないと?」


「ン・・・中々戦術眼があるじゃないか、カケル?しかし、連れ去られた地球人を奪還するチャンスは万に一つ、この機会しかない。既に太陽系の一番外の星に連中は基地を築いているからね。そこに入り込まれたら奪還の目はなくなると言っていい」


「仕掛けるしかない・・・・」


「どうやって?」


ルツの声は途端に厳しくなる。彼女にしてみれば最悪切り札を鹵獲(ろかく)され、カルブンクルスの乗員も全滅する可能性を考えねばならないのだ。そもそもこの巨大な球体にはフィジオームの補給用金属分子カプセルはあっても人間用の食料や水がないのだ。


「それは・・・スピード勝負で・・・奴隷いや輸送船を奪う・・・とか?」


翔の声は段々と小さくなり、最後は聞き取れないほど小さくなっていった。


『話は聞かせて貰った!』


突然天井のスピーカーから怒鳴り声が響く。ハリオだった。


「盗み聞きとは良い度胸じゃない?仕事は終わったのか?」


ルツは手元のスイッチを入れ格納庫の映像を別のモニターに映す。


『色々と報告する事があってスイッチ入れたら楽しそうな話してんじゃねえか?俺達も混ぜてくれよ』


「その報告とやらから先に聞こう」


『よし、じゃ、まずイフル探検隊長殿、お前さんから報告しろ』


『じ、自分からですか?』


ハリオの後ろにいる、緑髪の線の細い、とても兵士など務まりそうにない少年が緊張した面持ちで前に出る。


「イフル?兵站(へいたん)部門の君からの報告とは?」


『ハッ!このカルブンクルスの中央部には信じられない事ですが自然環境があるのです。詳しくはこれから送る映像を見て頂きたのですが・・・実際にこの目で見た自分も未だに信じられません』


山・森・平原。それらを貫く大河と海。送られてきた映像を見た翔には地球の自然環境を繋ぎ合わせたドキュメンタリーを見せられているのかと思わせるものだった。


『この中には食用となる果実やキノコ類、野生動物もいます。水も飲料に適する物です。食糧問題はギリギリ今の乗員が太陽系を超える位には賄える量かと・・・』


「よろしい。よくやってくれた。問題が1つ解決したのだからな。それで爺さん、そちらは?」


『こっちは大問題だ。このポッドはフィジオームと同じ構造だ。ヘーレムの奴らが断念したやり方を採用してやがる』


「つまりあの金属分子カプセルは、カデシュでなくこのポッドの為の物という訳だな?」


『全部が全部ってわけじゃねえだろうがな。前向きに考えりゃ、そこの管制室の指示でいくらでも武器が出てくるって訳だし、修理に割く人員も減る』


「だが併用していく事を考えると・・・・どの位持つ?」


『そこは戦闘の頻度(ひんど)とやられ具合によるが・・・・こっちは最悪奴らの基地にたどり着くまで持ちそうにねえ』


「そうか・・・・」


ルツは艦長席で目を閉じてジッと考え込む。そして目を見開くと


「ではこれから作戦を説明する」



スペースジャンプ(ワープシステム)で火星近海にやってきたカルブンクルス内で最も慌ただしい場所である格納庫。そこにポツンと佇むカデシュの背中に突き刺さっていた4つの金属分子カプセルが次々と外されていく。『栄養剤』注射の時間は終わりという訳である。機体の前に翔とレンが立つ。


「大丈夫。アタシがフォローするから、カケルは作戦通りにカデシュを動かす事だけ考えていれば良い」


「・・・・その為には上手くならなくちゃいけないだろ」


「ならコツを教えようか?」


「頼む」


「あたしも行く!!」


突然優歌が2人の間に割って入って来た。


「ユーカ、何のつもり?」


翔が口を開くより先にレンが彼女を(とが)める。


「ハリオ爺さんから聞いたわ!カデシュは強い意志に反応するんでしょ!あたしだって皆を助けたい気持ちは翔達に負けてないんだから!」


パイロットシートは確かに残り2つある。翔としては見知った顔がいる心強さと巻き込みたくないという思いが半々の複雑な心境だった。


「だからってカデシュに選ばれるかは分からないだろ?」


内心こんな当たり(さわ)りのない言葉しか出て来ない自分が恥ずかしかった。


3人はそんな話をしている間にカデシュが近づいてその右手を近づけてくると翔とレンを握ると優歌を置いてズンズン発進口へ進んでいく。その後ろ姿を見て優歌は脱兎の如く格納庫を出て行く。


「何で・・・・なんでよ・・・!?」


赤い星へ向かっていくカデシュを優歌は涙を流して見送るしかなかった。

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