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Galaxy Trail  作者: 紀之
始まり

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第四話 地球最後の日(後編)




「諸君らに悪い知らせといい知らせがある。悪い知らせはエンジンをやられたこの艦を放棄する。良い知らせは我々が全員助かる見込みがある事だ。例のカデシュは専用の巨大な球状ポッドのような物に入っているらしい。先程レーダーを分析して分かったことだ。今から全員で乗り移る」

格納庫内でただ1人、青色の耐圧服を着たルツが乗組員を前に作戦を説明する。

「どうやって中に入るんです?」


「先行する惑星破壊弾がポッド上部を掠める。衝撃で亀裂が出来るだろうからそこに飛び込む。あれはヘーレムの最強兵器だ。弾かれることは無いから安心して良い」


ルツの回答は想定された『弾が弾かれたり逸れて行ったらどうするのか』という質問を先取りした形だったが、その内容にそこかしこから笑いが漏れる。ヘーレムが嫌な意味で信頼のおける相手なのは3名を除いて誰もが知っている事だった。


「分かったら総員退艦準備!もう時間が無いぞ!!」


(ゆる)んだ空気を纏め上げたルツはハリオを呼ぶ。


「ハリオ爺さん、現場指揮を頼む。私はブリッジに残る」


「・・・・・順番が逆と言いたいがこればっかりは、な」


「理解が早くて助かる」


ルツは騒然とする格納庫をそっと抜けだす。


艦長は最後まで残る者。ハリオは年長者だけにそれを理解し受け容れている。大半の自分と同い年くらいの若いクルーではこうはいかないのだ。


「順番に並んで飛び移れ!穴はデカい!落ち着いて行け!!」


ハリオの声が響く中格納庫が開かれ、目の前に巨大な赤い球状ポッドがエイジア号クルーの前に姿を現すとクルーらは先頭から順にポット上部の長い亀裂へダイブしていく。


「綺麗・・・こんなのが地球の中心にあったなんて・・・・不謹慎(ふきんしん)かもしれないけどちょっと感動です」


「そうだね。翔、大丈夫?」


牧野琴音の言葉に同調する優歌と鼻を鳴らすレン


「ああ・・・・そうだな。この中に・・・・」


ある。それが見えない糸で自分を引っ張っている。


異様な確信が前代未聞のダイブを前にして翔の心を落ち着かせていた。


「あれ見て!!」


「お、おい!?急げよ!?」


レンの目が異変をいち早く捉え、クルー達に動揺が広がる。ポッドの穴が徐々に狭まって、つまり修復され出したのだ。


是が非でも助かりたいという本能から残ったクルーはてんでバラバラに飛び出していく。


「皆落ち着けって!うわっ!」


振動と共に艦の装甲が赤熱化する。ヘーレムからの対艦攻撃を受けたのだ。衝撃でクルーの一部が悲鳴を上げて奈落の底へ落ちていく。その先は高重力の闇だけだ。翔は友人の少女2人を抱きとめるので精一杯でその様をただ見ている事しかできない。


「くっ・・・・」


「艦の軌道が変わった!行くよ!!」


「あ、ああ、わかってる!!」


レンの言葉に我に返った翔は優歌と琴音を抱えてレンの後に続いて飛び降りた。エイジア号のバリアー圏内なら周囲の高重力の影響は受けない。遠目には針の穴の様にしか見えないポッドの亀裂が徐々に迫って、トラック1台分くらいの穴を潜り無事4人はポッドの中に入り込めた。


「もうあんなに小さく・・?」


頭上の穴は4人が通り抜ける間にもはや人1人分の大きさになっていた。その穴が閉じる直前ハリオが滑り込んで来た。


「やれやれ・・・・まさかこんなに修復が早いとは、計算違いだったぜ」


「そうだ!艦長は!?」


「あいつはあそこだよ」


ポッドの内壁はマジックミラーの様に外の様子を映しだす。翔達の目の前の壁を炎に包まれるエイジア号がゆっくりと通り過ぎていく


「知ってたのか!?知っていて何も・・・!?」


「ああ」


(うつむい)いて唇を噛む翔はハッと顔を上げると駈け出した。


「翔!?どこへ!」


優歌の声に振り向かずに答える。レンも後に続く。


「カデシュだ!今ならまだ間に合う!あんな死に方人間のしていい死に方じゃない!」


「カケル、判るの!?」


「ああ!呼んでいる!きっとこの先だ」



螺旋(らせん)状の廊下を駆け抜け球の中心にそれはいた。


「これが・・・・カデシュ!?」


やや角ばった形状の群青色に赤いラインの入った18mの猫背気味の巨体。


頭頂部に後ろを向いた大きな角と側頭部左右に同じ方向を向いた一回り小さな角に巨大なクワガタ虫のような特徴的な(あご)を持つ頭部


背部の1対の天使を思わせる羽。


それが近づいてくると2人を数秒眺め、翔とレンを右手で掴むと首が上にスライド、喉の部分のシャッターが開いて2人を中へと誘う。


「これ・・・・どうやって動かすんだ!?」


内部にはシートが4つ、円を形作る様に配置されていて、それぞれの頭上にヘルメットがある。それ以外は何もない。


「フィジオームは思考、頭で動かすのよ。そのヘルメットを通してね」


レンは右側のシートに座ると自動的にヘルメットが降りてくる。それに倣って翔も正面のシートに座る。同時にシャッターが閉じて2人は浮遊感を感じる。首が元の位置に戻ったのだ。


「行くぞカデシュ!ルツを、俺の、俺達の恩人を助けるんだ!」


ルルル・・・という電子音と共にモニターが点灯。間を置かずポッド正面の隔壁が開くとカデシュは屈伸し、翼を広げて飛び出した。


「グ・・ウッ!?」


機体の武装。地球内部の高重力とカデシュのグラビティ・リフターの強度。惑星破壊弾の位置。地球崩壊までの時間。エイジア号がどれだけ持つか。外に飛び出した瞬間、ありとあらゆる情報が翔の脳を直撃する。


「カケルはルツを助ける事だけに集中して!!他の情報はアタシが何とかする!」


「わかった!!」



吹き上るマグマと(おびただし)しい巨大な岩塊が洪水の様に流れる中をカデシュのセンサーはいとも簡単にエイジア号を捕捉する。


「ここまでか・・・」


エイジア号の艦橋に1人佇んでいたルツは真っ二つに割れて崩壊していく地球の岩塊を眺めながら鉱物採掘惑星と化した自分の故郷エイジアとどちらがマシな最期だろうと物思いに(ふけ)っていた。


この艦を決して故郷の名で彼女が呼ばないのはおぼろげながら緑豊かな惑星だった頃の記憶があったからだ。それが今回の任務の途上立ち寄ったエイジアはマグマと鉱物資源むき出しの死の星となっていたのだ。その衝撃が強すぎて『エイジア』の名は彼女にとって不可侵ともいえる名になっていた。


「その思い出と共に死ぬのも悪くない、か」


丁度目の前から岩塊が来る。だが衝撃と共に彼女は何かに包まれるのを感じ、恐る恐る目を開けるとそこは羽を生やしたフィジオームの掌の中だった。


「まさか、これが・・・!?」


『艦長、よかった!』


「カケルか!?」


『レンも一緒です。ポッドに戻ります!』


カデシュは火と岩の嵐の中を悠々と飛んでいる。それを可能にしているのは機体の周囲に張り巡らされた異常な出力で展開されるグラビティ・リフターのおかげである。これがマグマの熱や飛んでくる岩塊を弾き返しフィールド内の環境を(宇宙服必須とはいえ)一定に保っているのだ。


波乱1つなく巨大ポッドへ戻って来たカデシュに格納庫のそこかしこから歓声が上がる。


「レン、まだいけるか?」


「勿論。奴らを叩くよ!」


頭痛に顔をしかめながらも翔はカデシュを格納庫の出入り口へと歩ませる。


「あれか!!」


「何を・・・・?卵型は奴隷船よ!狙いから外して!」


「分かった!!」


翔のヘルメットのバイザーが照準をロックする。同時にカデシュのクワガタに似た顎が左右に開き、赤い閃光が口部に収束していく。


ゲヘナバスター


深紅の光の奔流が地球だったモノの中心から放たれた。



「超高エネルギー体こちらに真っ直ぐ来ます!」


「全艦散開、距離を取れ!!」

(まさか、連中が生きていたというのか!?)


ヘーレム艦隊は既に安全地帯へと退避し、艦隊司令グロク以下全員が地球の断末魔とそれに絶望する地球人たちの狂乱ぶりを楽しんでいた。だがそこに入ったまさかの報告に今度は自分達が慌てる番となった。


紅い粒子光、ゲヘナバスターは2kmを超えるオートノミー級1隻をグラビティ・バリアごと瞬時に蒸発させ、旗艦ストラデゴスの右翼を掠めただけでドロドロに融解させた。


「右翼損傷度67%!!更に高熱源体接近!!」


スペース・ジャンプ(ワープ機能)は!?」


「使えます!」


「タラス小隊を出せ!その隙に全艦ジャンプせよ!!」


悲鳴に近い報告が次々と寄せられる中、グログは艦隊の後退と時間稼ぎとデータ取りの3つを同時にこなすだけの方策を考えると矢継ぎ早に指示を出す。


もう1隻のオートノミー級から3機のタラスが未だに岩塊を吐き出し続けている『宙域』へ出撃する。その間にペイガン級を先頭に艦隊は180度回頭すると月軌道へ向けて後退していく。


「あいつら!?逃げるのか!?」


翔はカッとなってカデシュを加速させる。コクピット内は耐G処置が施されているのか全く体に影響はない。


「タラス共が先だよ!ポッドを落とされたら意味がない!」


「わかってる!」


怒鳴りながらもレンの忠告に少しだけ冷静になった翔は8の字を描きながら近づいてくる3機のタラスのフォーメーションのど真ん中へ遮二無二(しゃにむに)突っ込んでいく。


巨大な岩塊を背にしたタラス小隊は3方向へ散開、中央の1体は岩塊を盾にするとフォトンライフルを構える。


だが相手のフィジオームは速度を落とすことなく右手で右翼の一番外側の羽根の中からプラズマソードを引き出し、剣を突き出したまま岩塊へ突進。


「こんな馬鹿な戦い方をする奴が・・・!」


眼前の隕石が赤熱融解する様を見て後退をかけるタラス


「うおおおおおっ!りゃあっ!!」


翔の気合と共に隕石ごと剣で機体を串刺しされ、胸から大量の銀の液体を迸らせ右の単眼が光を失いタラスは動かなくなった。だが動きを止めたカデシュに左右から緑の光弾が襲い掛かる。


「左右から狙われてる!」


カデシュの力に嫌が応にも目を奪われながらも索敵を続けるレンは索敵を続ける。だが明らかに頭の痛みと恐るべきカデシュの威力の前に彼女は集中力を欠いていた。


「うっ!?銃は・・・これか?フォトンライフル!」


翔の意志を受けカデシュの左腕のアーチ型の手甲部が前方へスライドし、トリガーと銃身が飛び出す。


「いけええっ!!」


左のタラスに向けて引き金を引く。


緑の光弾同士がぶつかり周囲が閃光に包まれる。カデシュの光弾はタラスの光弾を弾きながらバリアーを容易く破り、タラスの右腕を一撃で蒸発させた。


「がああああっ!?威力が違い過ぎる⁉」


驚愕しするヘーレム兵。後退をかけるタラスへ向けてフォトンの光が収束していく。


「これで・・・・ガッ!?」


カデシュの左前腕が切断される。


「しまった!」


翔達は3機目のタラスが接近している事に気が付かなかった。プラズマソードで逆袈裟に斬られたのだ


「素人が!!これで終わり・・・だ!?」


ヘーレム兵は目を見張る。視界の隅で漂っているカデシュの左前腕。だがカデシュの左腕は瞬く間に銀の液体が切断面から溢れ出て腕の形を成すと何事も無かったかの様にその腕でタラスの腕を掴むと右腕の爪で胸部装甲を紙の様に引き裂く。


「うっぐ・・・!?」


翔は機体に乗って初めて吐き気を覚える。装甲を失ったタラスの内部はまるで人体そのもの。火花を散らしながら心臓のような物が脈動し、全身を銀の液体が血液の様に循環している。それ以上に不気味なのは首の装甲の裂け目から円筒形のカプセルに入れられた銅色の脳のような物が見える事だった。


「カケル、止めを!」


「く、おオオオ!」


目の前の現実を振り払うように翔は雄叫びを上げる。


呼応するようにカデシュの右腕の装甲が跳ね上がり、骨格を露出させる。その中には三角柱を3つ重ねたパーツがあり、そのパーツが黒い光を放つ。


「な・・・!?」


翔は絶句してその光景を眺めているしかなかった。


目の前のタラスが分解され銀色の帯となってカデシュの腕の中に吸収されていくのを。


装甲が閉じるのとゴクリという咀嚼音が機体の奥底で響くのを翔はただ震えて聞いていた。

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