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Galaxy Trail  作者: 紀之
始まり

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第三話 地球最後の日(前編)




 「はっ!?」


誰かの怒鳴り声と焦げ臭い匂いで北条翔は跳ね起きた。自分の左右に寝かされていた相羽優歌と牧野琴音も目を覚ました。


怒鳴り声の主の少女と目が合う。言っている事は分からないが円盤を指さしている。


「乗れって言っているのか?」


ジェスチャーで示すと目の前の紫色の髪の少女(に見える)は呆れたような、蔑むような視線を送ると、左手をポケットに突っ込むと直ぐに引っ張り出し、その手で翔の耳に触れた。


「な・・何を!?」


自分よりも優歌の方が動揺している事に内心首を傾げながら翔は右耳に何かが付いているのを確かめる。


「翻訳機を付けただけ。何で後ろの奴がギャアギャア騒いでんの?」


「アンタね・・・!」


「そ・・・そうか。悪いんだけどこれ後2つないか?」


「だってさ。ルツ、翻訳機2つない?」


「いいけど。ま、言葉が通じないと色々不便だしね。特に脱出の為に人手は欲しい。レン、あんたもタラスを運び込んだらアニマの修理に手を貸してくれ」


ルツと呼ばれた白衣を黄色いオーバーオールの上から羽織った青髪のショートボブの少女は優歌と琴音に青い飴玉のような物を手渡すと耳に着けるように身振りで示す。


「脱出だって!?」


「そう。今私達が生きてるのがその証拠。タラス共が止めを刺さずに撤退したのはこの星を爆破する為の惑星破壊弾を使う為さ」


多分、と恐ろしい事を淡々と述べるルツに寒気を覚える3人。


「多分って事は使わないかもしれないんですよね?」


「使うよ。奴らはそういう連中さ」


目覚めてからずっと怯えるように小さくなっている琴音にレンは苦虫を嚙み潰したように吐き捨てるように言う。


「そんなこと言ってあたし達を攫おうって魂胆じゃないの!?あんたらがさっきのロボットに乗ってるのとグルじゃないって言い切れないもの!」


瞬間レンが優歌の頬を張り飛ばした。


「な・・何するのよ!?」


「アタシたちをあいつらと一緒にするな!!あんな奴らと・・・!」


「・・・・優歌、牧野さん。ここは彼らと協力しよう」


「翔はこいつらを信じるの!?」


「俺だって100%信用した訳じゃない。だけど俺達をどうかしたいなら腰の銃を突き付けて脅す事も出来るのにそれをしないってのは協力する理由にはなる」


「アンタは少しは話が分かるようだね。じゃ、早速あっちに行って手伝ってよ」


「わかった」


「馴れ馴れしい奴・・・!」


話は終わりだと踵を返して墜落したタラスの方へ駆けて行くレンと彼女の指示された通りに円盤に歩いていく翔に頬を嫉妬の目を向ける優歌


「でも、北条君のいう事も分かる気がします。その、優歌ちゃんを叩いた時あのレンって人泣いていたような・・・」


「ン~ウーン、もう、判ったわよ!琴音がそう言うんなら手伝うわよ」


「あ、待って優歌ちゃん!?」


2人は翔を追って円盤へ向かった。


「エンジンとバリア!それだけでいい!!タラスは放っておけ!艦の修理に全力挙げろ!!」


突如地球にやって来た楕円形型のアニマ級円盤エイジア号の格納庫内。整備員達が片手片足のタラスをハンガーへ固定するのを見届けた、ゴーグルをかけた老人が白髪の蓬髪と伸び放題の髭を逆立てて怒声を周りに飛ばす。彼はキョロキョロ周りを見回す翔達地球人を目ざとく見つける。


「お前達、この星の住人だな?俺はハリオ。この艦の整備主任だ。何か得意な事はあるか?」


「え・・・・っとあたし柔道!」


「おい、宇宙人にその単語伝わるのか?」


胸を張って応える優歌に意味するところが伝わったのか、ハリオは頭を抱える。


「・・・・・素人か。だが溶接くらいできるだろ?向こう行って手伝ってくれや」


「やってみます」


翔は溶接など生れて初めての事だがルツの言う通りなら命が掛かっている以上出来る事はやっておきたかった。


「あの・・・・その惑星破壊弾を撃ち落とす事って出来ないんですか?」


「無理だな。周りは強固なバリアーで囲ってある。この船とタラスの全火力でも抜けねえよ。なんたって


あれは星の内部のマグマを通って行くんだからな」


ハリオの言葉に琴音は目を伏せる。


「・・・・行こう。今は出来る事を精一杯するべきだと思う」


「だな。頼むぜ兄ちゃん」


「あたしも行くよ」


後ろからタラスのパイロット、レンが頭を押さえふらつきながら翔達の方へ歩いてくる。


「レン、お前は休んでろ。お前さんにはカデシュに乗ってもらうつもりなんだから、頭休めとけ」


「だけど、整備の事教えとかないと。絶対溶接とかした事無いよ」


琴音を見てレンは言う。


「まあ・・見てくれで判断しちゃいけねえがな。適当な所で寝とけよ?」


「わかってる」


ぶっきらぼうな口調でレンは新来者3人に声を掛け、整備箇所へと案内するのだった。


同時刻・地球軌道上


「ペイガン各艦、奴隷収容しました」


「40億か・・・ま、何割か生き残れないのを織り込み済みでも十分な量だな。それよりタラスの収容はどうだ?」


「全機収容まで後10分ほどです。それよりも・・・」


土気色の士官に部下は言葉を切って戦艦ストラデゴス艦橋の正面モニターにあるデータを映しだす。そこに映し出された地球の中心核。それがこの宇宙からの侵略者達の目的だった。


「索敵データの照合では目標は惑星の中心核付近にあると思われます。惑星破壊弾を使用する場合、カデシュを傷つけない軌道はありません。無傷で回収するのが指令ですが・・・・!?」


「んなこたァ分かってんだよ!だがな・・・カデシュはあの『最初の5柱』だ。自己修復機能はタラスなんか目じゃないほど早い。手足の1本くらいそれこそ数秒で再生する」


「グロク隊長は見た事があるんですか?」


「5柱の情報に関しては極秘中の極秘だからアーカイブにはないがな、俺はずっと昔レッドアジフ戦役でカルバラーの戦いぶりを見たことがある」


「ナールライト司令官の今回の太陽系派遣はその功績だと?」


「功績ねぇ・・・・左遷(させん)だろ、こんなクソ面白くもない銀河の端っこの星系に超の付く旧式の機体や艦艇の在庫整理がてら派遣されて嬉しがる奴なんざいねえよ。おかげでここから端にあるディ=ウ星までワープ3回は掛かる」


「・・・・確かに。古すぎて習熟に時間が掛かりましたよ。機体の操縦系統の方は20億年前からあまり変わって無いみたいですがね」


「その旧式に一方的に嬲られる住民共の様子は・・・・」

グロクと呼ばれた艦隊指揮官は40億もの地球人を地上から吸い上げたペイガン級各艦へ通信を入れる。


「何・・・!?暴れていて見せしめに数名殺した?それでも収まらねえのか?よし、奴らに母星の最期をしっかり見物させてやれ。帰る所が無くなれば抵抗する意味も無くなるだろう」


通信を切ると今度はストラデゴスの兵器担当者に通信を繋ぐ。


「惑星破壊弾の調整はどうだ?」


『後20分ほど下さい。宝物をなるべく傷つけたくないですからね』


「分かった。発射角度は追って通達する」


通信を切るとグロクは眼前の地球を見てうすら笑いを浮かべる。


「せめて言い散り際を見せてくれよ?でないと退屈で死にそうだ」



『調整完了!いつでも行けます』


「よし、さっき教えた座標は間違いなく打ち込んだな?」


『勿論です』


「発射しろ!」


グロクの指示で全長3kmのミサイル状の物体が戦艦ストラデゴスのカタパルトから打ち出される。


この惑星破壊弾は3つのブロックに分かれており先端のパイルバンカーと高出力レーザーナパームで惑星の岩盤を粉砕した後、爆発しながら、2段目のドリル爆弾を3段目の発射装置で惑星内部へ射出し惑星の核を粉砕する超兵器である。更に全作業を完遂すべく強力なバリアー(内部のマグマから爆弾本体を守る役割を果たす)で外部からの攻撃を遮断する、侵略者ヘーレムの傑作兵器の1つでもある。


「惑星破壊弾飛来確認!総員作業止め!(ただ)ちに発艦準備にかかれ!」


エイジア号内に警報とルツの怒声が響く。


エンジンの修理作業を手伝っていた翔達は作業を上げてヘルメットのバイザーを上げる。


「惑星破壊弾ってのがもう来たのか!?」


「あいつらは何事も早い。俺達が負け続けているのはその為さ」


一緒に作業をしていた若い男がため息つく。


「でも逆転の切り札があるんでしょ!?」


男の声は優歌に期待するな、と言って3人に艦内へ入るよう促した。


「着弾予想地点・・・・これは、艦の50km先です!」


「ミサイルの後方に艦を回せ!穴が開いたらそこに飛び込む!バリアを忘れるなよ!!」


艦橋のオペレーターの報告を受けたルツの指示で音も無く垂直に浮き上がったエイジア号は天空から垂直に落ちてくる惑星破壊弾の後方に回り込む。


「正面にバリア最大出力で展開!!全員衝撃に備えろ!!」


惑星破壊弾が着弾し、凄まじい衝撃と共に巨大なクレーターが発生し、大量の土砂が巻き上がる。バリア越しの振動でエイジア号のスピードが鈍り、船体が大きく左に煽られる。


「進路軌道修正!」


「行きます!」


真っ逆さまに穴に飛び込むエイジア号は惑星破壊弾のブースターの炎を頼りにその後を追う。


「第1段階はクリアか・・・」


ルツは艦長席にドッと座り込むと周囲の兵に悟られない様に額の汗を拭う。まだ崩壊する地球内部でカデシュを回収するという最後の壁が残っているが例え数分でも気持ちを落ち着ける時間が取れるのは幸いだった。だがそんな彼女の思いを裏切るように警報が艦内に響き渡る。


「オートノミーから砲撃!」


「見破られていたのか・・・・!?後方にバリアーを張れ!!」


オペレーターからの悲鳴に近い報告にルツは極力抑揚を抑えた声で指示を出す。その彼女の努力は手元の通話機からのコールで無駄になった。


「今度は何があった!!」


通話口の相手は艦長の怒声に一瞬(ひる)むが用件を切り出さない訳にはいかなかった。


「それが・・・保護した原住民の1人がカデシュ回収チームに入れろと言って聞かないので・・・」


「ハァ・・・・あの彼だな。その友達も近くにいるだろう?ブリッジに越させろ。状況を知れば」


そこで猛烈な衝撃が艦を揺さぶり、彼女の声は途切れる。オートノミー級の艦砲射撃が直撃したのだ。


「被害は!?」


「航行に影響なし!」


「しかし、後方バリアー破られました!」


操舵士とオペレーターの報告に小さくため息をつくルツ。


「減衰率に助けられたか・・・それより彼らをブリッジに上げろ。嫌だと言っても艦長命令だと言え。それとバリアーの再展開急げ!」


揺れる艦内を(つまづ)き、ふらつきながら翔はブリッジへの道を走る。


「ちょっと、正気なの!?ナントかっていうロボットを持ってくるチームに志願するって!」


「そうだよ。俺達が、地球人が何もしないできないっておかしいじゃないか!友達も家族も全部奪っていったあいつらを俺は許せない。大事な人達を取り戻すにはカデシュの力が必要なんだ」

翔は振り向いて胸の内に押し込めていた思いを優歌と琴音に伝えるとブリッジの扉を叩く。


「北条君・・・・」


「それは・・・・そうかもしれないけど・・・・でも、私は・・・」


優歌と琴音も内心は同じだ。だがそれはあのロボット軍団と戦うという意味でもある。そんな危険な事を優歌は幼馴染として琴音は友人として欲しくないのだ。


ドアが開く。艦長席のルツがこちらへ来いと手招きに応じる3人。突如船体が大きく揺れ、正面モニターがマグマで真っ赤に染まる。


「「ひっ・・・・!?」」


2人の少女はその光景に恐怖するが翔は顔色一つ変える事無く真っ直ぐルツを見据える。


「今、マントルの中だ。もうじき外殻に入る。何故志願したのか?私はそれを聞きたい。君達の星の科学も君達自身もヘーレムに対抗するだけの水準には無いように見える」


「例え地球が無くなっても、地球人が同じ星の人間を助ける努力しちゃいけないんですか?例え敵わなくても?俺達にはあなた方だって絶望的な戦いをしているように見えます」


「そうだな。だから一発逆転のチャンスを狙ってこの星に来た。まさか目当ての物が星の核の中にあるなんて想像してなかったけどね。確かに君の言い分は正しいよ。だがカデシュに乗れなかった時、今と同じ思いを抱いていられるか?私達と共に戦ってくれるか?」


「俺は(さら)われた家族や友達を助けたい。その為に協力するんです。その為なら何だってやります」


「翔!?」


「北条君・・・」


「・・・・・良いだろう。志願を受け容れよう。しかし帰ってこられる保証は無い。それに運よく取り付いても君がカデシュに乗れるか、すなわち『彼』が君を受け容れるかもわからない。レンは手強いよ?あの子は純粋だから」


「それでも行きます。選ばれるって意味は分かりませんけど・・・・」


翔の言葉にブリッジ内が笑いに包まれる。


「底抜けの馬鹿だね、君は。だがそういう奴が最後まで生き残るんだろうねえ。ええっと君の名は」


「翔です。北条翔」


「ホージョーカケル。長いな。よしカケル、後5分で内核に到達する。この場所に行って待機。出来れば無事に帰って来てほしい。こっちも新しい仲間をすぐに失いたくないからね」


「ありがとうございます、ルツ・・・さんで良かったんでしたっけ?」


「艦長と呼んで欲しいな」


「はい、艦長」



翔が指定されたガンルーム(下士官室)に入るとレンが一足早く専用の耐圧服に着替えてベンチに腰かけていた。


「休んでる所悪いんだが。着替えるんだ」


翔の言葉にレンは全く感情を動かされない。


「どうぞ。合う奴を服の上から着替えて」


「そ・・・そうなのか」


「全く、ルツもお人好しだよ」


「艦長と知り合いなのか?」


アニメに出てくるような驚くほど薄っぺらい耐圧服に不安を感じながら翔はレンの隣に腰を下ろす。


「この艦に乗ってるのは全員同じ星、エイジアの生き残りだよ。ルツは指導者の娘なんだ」


「そうだったのか・・・」


「レンは選ばれると思うのか?そのカデシュに」


「さあね。最初の5柱っていうらしいけど殆ど何も分かってないからね。元々この星に居たってならあんたの方が選ばれる確率は高いかもね」


「教えてくれ。乗り込んだらどう動かすのか」


「それは・・・きゃ!」


「なっ!?」


突如響く爆音と衝撃に2人は部屋の床を転がる。


「凄い衝撃だ!大丈夫なのか!?」


『全員直ちに耐圧服に着替えて格納庫へ集合せよ!繰り返す・・・・』


スピーカーから響くルツの声の調子からレンは最悪の事態を想定せざるを得ない。


「覚悟しなきゃならない、か」


「それって・・・!?」


「行くよ。死ぬにしろ何が起こってどうなるのかは知っておくべきだから」


「強いんだな」


「これを普通にしなきゃ生きて行けないんだ。アタシ達の敵はそういう相手だよ。あんたも肝が据わっているように見えるけど」


「俺は北条翔だ。そう言えば名乗って無かった」


「そういうトコだよ。さ、こっちだカケル」


呆れたような薄い笑みを浮かべて2人は通路へ出た。


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