第二十四話 殲滅へのカウントダウン
警報とクルーらの怒号が響く廊下を抜け北条翔と牧野琴音の2人は同じく整備員の怒号と機材の駆動音溢れる格納庫へたどり着いた。
2人は機体の至る箇所に灰色の粘土のような物が付着しているのに気が付いた。そこは先程の戦いでサンバルテルミⅡの分解溶液を浴びた箇所だったのを琴音は思い出した。
「カデシュのあれ、何ですか?」
「それを説明したかったんだ。骨製のカサブタみてえなもんが徐々に広がってやがる。だから機体は万全じゃねえが1回くらい変身して戦う位は出来るはずだ!!」
コクピット前に設置してあるリフトに乗りつつ尋ねる翔に整備士長のハリオが大声で返した。
「ありがとうございます!!」
琴音の礼にハリオはグッと右手を上げる。
2人は手慣れた動きで正面ハッチを閉じ、計器のスイッチを入れる。
(カサブタか・・・いよいよ生物じみてきたな)
翔は手足を動かしてみる。特に問題はなさそうだった。だが翼にある剣の取り出し口にそのカサブタが覆っていた。
「飛び出したらすぐにType・Dに変わる」
「了解です」
Type・Dはカデシュの全形態の中で防御力に優れる。同時に主兵装のフォトンアローによる精密射撃の為に索敵能力も随一だった。もっともそれで見えない敵の位置を暴き出せるかは別の問題である。
「敵は見つかりましたか?」
翔は旗艦ガランのFOカタパルトに機体を固定しつつ、ブリッジに尋ねた。
『現在の所艦周辺には発見されていない』
「艦の外壁はどうです?逃げたと見せかけて再侵入のタイミングを図っているのかも」
『そっちもやっているが、何分人手が足りんので時間が掛かるんだ。だがカデシュは外の森林地帯を中心に探してくれ。海中に落下した物はないらしいから、逃げたとすれば森の中だ』
「了解です。カデシュ出ます!」
外に飛び出したカデシュはType・Dへ『変身』すると周囲の地表を索敵しつつ飛ぶ。
「足跡が!」
三本爪の薄い2つの足跡が砂浜の木陰から森の中に続いていた。
「結構重そうだったのにな・・・歩幅からしてかなりの速さだ」
「グラビティ・リフターを搭載しているんでしょうか?」
「かもな。だとしたら結構遠くに行っちまったかも」
翔は足跡発見の報告を艦へ入れると索敵を再開した。
「高度を下げてみます。木々を飛び移っているかもしれませんから」
「そうだな」
翔は琴音の頭の回転の速さに内心舌を巻きつつ、計器とモニターに目を走らせる。
さらに足跡の方向と周辺図を照らし合わせる事も忘れない。
「どんどんリマジハに近づいてるぞ?もしかして行方不明の犯人もあのカメレオンモドキなのか?」
翔の独り言に琴音は機体を制止させると外の景色を見回す。
「リマジハ・・・あっ!?太陽の位置を計算して・・・もしかしたらこっちに」
再度発進したカデシュの移動ルートは翔には覚えがあった。
「牧野さん!?そっちは」
「そうです!例の空飛ぶサメの縄張りです。そこなら迂闊に人間は近づいてこないはずです!」
「アジトを作るにはもってこいってことか・・!?」
「いました!?」
程なく光学迷彩を解いて杉に似た大木の梢を抱くように丸まっている怪物を見つけることが出来た。
「こちらカデシュ。敵を・・・!?」
通信を入れた翔も琴音も目の前で起きている状況が理解できない。サメが自分達の追手を丸呑みにしてしまったのだ。
『どうした?こちらガラン。敵をどうした?』
「敵は・・・下手人は空飛ぶサメに食べられた・・・!サメがこっちに来る!交戦する!」
空飛ぶサメは話に聞く以上の異形だった。全長がカデシュの3倍、背中の翼はよく見ればエイの躰そのもので、羽毛が生えている。その『翼』が羽ばたくと同時にその巨体が急上昇する。
「速い!?」
サメの動きは人間の知覚を完全に超えていた。Type・Dの防御プレートの展開は間に合わない。
カデシュが防御も回避も整える間もなくサメは急降下し右肩に噛み付いた。
「う!?」
バキリという振動がコクピット内に反響する。
見ればサメの歯が灰色のカサブタに文字通り歯が立たず、折れていた。
戦意を挫かれたのか、情けない鳴き声を発しながらサメは猛スピードで逃げ去って行った。
「助かった・・・の?」
「多分・・・引っ返してこない内に俺達も帰ろう。敵が艦に来ているかもしれない」
引っかかる物を感じながらも翔は琴音に帰還を促す。
「はい」
(野生動物は無駄な戦いをしないって話本当なのね・・・この戦争もこうだと良いのに)
琴音は翔に気づかれない様にため息をついてカデシュを帰還させるのだった。
この一連の騒動でゲダム近海を漂うカルブンクルスの監視は緩んでいた。そのせいで惑星ゲダムに10個の隕石が落下した事は見逃されていた。隕石群の正体はサークレイス麾下の偵察型FOガビエネである。
ガビエネ各機はゲダムの公転速度や大気組成を調べた後地表に降り立ち、大陸の地形の詳しい分析にかかる。その過程でサメの怪物とカデシュの遭遇も記録されていた。
それらのデータはゲダムから遠く離れた逐一旗艦ペイリオコン級大型偵察艦に送られる。
「どうやら地上は慌ただしいようだ。そのおかげでこちらの仕事が捗る訳だが・・・」
サークレイスはブリッジの専用席の秘密通信を開く。相手はDrファゼルである。
「ご自慢のメカニオームもサンバルテルミの改良も今一つのようですね」
『なに、バンマリは優秀な成果を残してくれた。次はこうはいかんよ。サンバルテルミは貴公の言う通りではあるがな』
皮肉に全く意に介さないDrファゼル。椅子に座り、コードに埋もれた右手でカメレオン型のあの機械の怪物、メカニオーム・スマラグディナを撫でる。
彼が今いる場所とは惑星ゲダムの森林地帯の上空で、あのサメに似た怪物はDrファゼルの生み出したメカニオーム・ランビキだった。つまり獲物を捕食したと見せかけてスマラグティナを回収していたのだ。
「あまり役に立たないオモチャをこれ以上造り続けるようならばこちらも考えがありますよ」
『クククッ・・・!貴公は最強の兵器とは何か考えた事はあるかね?』
「勿論、陛下のFOメギドですよ」
『違う。それを今回証明するための実験なのだ。そのデータは着々と整いつつある・・・このスマラグティナも今私が操っているメカニオーム・ランビキもな』
「ではそのデータを是非とも送って頂きたいものです。私は自分の仕事がありますので失礼」
その言葉はDrファゼルにとっての最後通牒のつもりだ。だがサークレイスのあらゆるセンサーには通信の切れる瞬間まで偏屈な科学者に特段の変化を見つける事は出来なかった。
先程の言葉で女帝への叛意あり、とするには証拠が足らなすぎるがもはや言質は取ったも同然と彼は考えていた。
「カンナエを艦の甲板に上げろ!機体と各種データリンク開始!」
格納庫へ指示を出すとサークレイスはブリッジを出た。
人間の『皮』を被ったサークレイスを甲板に立つ三角柱型の頭部を持つグレーの機体、5柱の1体であるカンナエが掴み上げ喉奥のコクピットへ誘う。
蛇腹状の装甲で構成された機体の全身に火器が搭載されている。その中で特に目を引くのは背部の翼の間に装備された2門の主兵装フォトンスマッシャーである。
この兵装の射程と威力は冥王星から地球の東京をピンポイント射撃で消滅させられるデタラメなもので、当然これを為そうとすればサークレイスの頭脳回路も耐えられない。
そこでガビエネやペイリオコンといった偵察・観測に優れたマシンの補助を受ける事で精密狙撃を行うのである。この艦隊はカンナエの特性を十二分に生かす為の構成なのである。
『惑星ゲダムのデータが揃うまでに2日は掛かります』
「観測を続けろ。それとDrファゼルのアジトを割り出せ」
『ハ』
抑揚のないオペレーターの報告を聞きながらサークレイスは遥か彼方にあるゲダムのコンピューターグラフィックスを苦々し気に見つめていた。
(老いぼれも汚らわしい人間共もきれいさっぱり浄化してくれる!!カンナエはその為のFOなのだからな!)
サークレイスの昏い感情に呼応するように広域殲滅用FOカンナエの黄色のデュアルアイは闇の彼方を見つめていた。




