第二十一話 脱走兵
シュトロン星系
本来は惑星ゲダムを含めた生命が存在する4つの地球型惑星を含めた8つの星と13の衛星と1つの太陽が『あった』。この星系はゲダムから3万5千㎞離れた地点に鏡のような役割を持つ隕石地帯『光の河』が存在し、これが太陽光を反射増幅して本来太陽光が届かない惑星3つに命の芽吹きを齎したのだ。
これが一変したのはヘーレムの襲来でこの星系独自の『光の河』を採取し続けた事によって地球型惑星3つは生命の住めない星となった。
その内の1つ、惑星トマ近海でヘーレム軍のナールライト率いる太陽系侵攻艦隊残存部隊とサークレイス率いるヘーレム軍第2侵攻艦隊は落ち合った。
台形を横倒しにした特徴的な外見を持つ、第2侵攻艦隊の旗艦ペイリオコン級大型偵察艦。その司令室で2人の司令官による引継ぎと今後の展望について会談が今、行われていた。
「貴公がこちらに来るとはな」
「私は敗軍の将だ。こちらから来るのは当然だ」
サークレイスは青いモノアイを瞬かせ、ガスマスクのような口部からシュシュ、とため息のような排熱を吐き出した。感心している時の癖である。
「手ひどくやられたのは例のメカニオームだと聞いている」
「根回しは完璧ということか」
自身の開発した新兵器の暴走による味方部隊の損害と作戦中断。これを利敵行為と取られて処刑されてもおかしくはない。実際ナールライトはそれを上申するつもりだった。
「で、どうだ?」
サークレイスはDrファゼル謹製の兵器の性能について聞いた。
「性能は良い。だが今後あのような暴走を引き起こすのではとても作戦に組み込めない」
「その事だがな、Drはこんな通信を送って寄こした」
丸い記録デバイスをひらひらさせてサークレイスは内部の記録を司令室のコンソールに読み込ませる。
画面一杯に全身に赤と青のコードをツタのように絡ませた、異様な人物が映る。
機械人間の身だしなみの点ではこれでも『周囲に気を配らないタイプ』という評価を下される程度のDrファゼルは、コードの束から黄色いデュアルアイをギラギラさせながらしゃべり出した。
『どうだね、私のメカニオーム・アタノールの性能は?少し闘争本能を強くし過ぎてしまったが概ね満足のいく結果が得られたよ。現在アタノールを含めた4種の有機生命体をモデルにしたメカニオームが完成し、順次投入していく予定だ。当然データはそちらにも送る。それと私は現在陛下の庇護下にある。これを見ているであろうサークレイス、ナールライト両名はその意味が当然分かるだろうな?ゲダムにいる人類連盟の部隊には一切の手出しは無用に願いたい。連中の壊滅を持ってメカニオームの優位性を証明してみせるつもりだ。宇宙の果てから人型兵器の終焉を見ているがいい』
「勝手な事を言わせておいていいのか?」
「あれでも軍の功労者だ。暫くは老人の道楽に付き合うさ。一応キチンと仕事はしているようだしな」
「・・・・なるほど。確かに」
サークレイスの電子頭脳から送られてきたサンバルテルミの改良案にナールライトは感嘆の念を漏らす。
「それはそれとして、私は自分の戦いをするつもりだ」
サークレイスは司令室のモニターから15機の偵察型FOガビエネの発進を見送る。ガビエネ各機は隕石に偽装した巡行形態でゲダムにへと向かう。
「貴公には無用の助言かもしれんが、地球人の勘の鋭さを舐めない方が良い」
「肝に銘じておこう」
「10日後かな?ゲダムの人類連盟が消え去るのは?」
司令室の扉の前で振り返ったナールライトの言葉に
「そうだな・・・・」
ゲダムがある方角の宇宙の闇を見据えてサークレイスの青いモノアイが不敵に輝いた。
「改めて見ると地球そっくりだよなあ」
惑星ゲダムへ降下していく人類連盟レガス隊の旗艦、ガランと難民となった地球人達を乗せた多数のラディックス級哨戒艇。ガランに乗船した北条翔は大気圏突入に揺れる船内で呟いた。彼と幼馴染の相羽優歌、優歌の親友の牧野琴音そして人類連盟のパイロット、レンの4人は乗機のFOカデシュと共にガランの護衛に就いていた。理由はゲダムから来た所属不明の機動兵器がどこから来たのか分からなかったからである。
ゲダムは地球とよく似た球状の惑星で星の上下にきれいに剥かれた卵の殻のような大陸が被さって、その2つの大陸を割くように中心を帯の様に海が2つの大陸を隔てている。そして北極と南極に当たる場所にはそれぞれ大きな湖のような内海と大きな島があった。
その北の大陸の帯状の海岸付近にカルブンクルス以外の艦艇が続々と着陸していく。カルブンクルスは大きすぎてゲダムからの離脱が困難との理由で衛星軌道上に留まって、ヘーレム軍の動向を探っていた。その姿は地上からでも見て取れた。
ガランの着陸と同時に翔はガランの格納庫に一目散に駆け込む。機体に上るタラップには1番乗りだ。遅れて牧野琴音、レン、相羽優歌の順にカデシュのコクピットに滑り込む。
軍人としての自覚が芽生えた訳ではない。理由はもっと単純なものだ。
大気圏突入前にここがどんな場所なのか?と尋ねた優歌に整備士長のハリオの説明では
『正直な所、この星についてはヘーレム共の受け売りの知識しかねえ。それも異常な生態系だって事と海の底に魚人が海底都市を築いてるって事の2つだけだ』
『手付かずのままなんですね・・・・地球と違って』
複雑な表情で惑星を眺める琴音に老人は続ける。
『・・・まあな。連中にとって有用な資源も無けりゃ魚人共もあの海の中と同じ環境でしか生きられない、つまり奴隷にもしづらいとなれば捨て置かれるだけよ。といってもな、こっちとしてもわざわざ基地を建設なんぞして機械野郎どもを刺激したくねえって事で、まあ緩衝地帯になっているんだけどな』
『異常な生態系ってのは?』
『良くは知らねえが頂点捕食者?みたいなのしか地上にはいないらしい。要はヤバい生物目白押しだと思ってくれればいい。この辺は専門外でな。詳しい事はワカラン』
翔の問いに頭を掻くハリオに顔を見合わせる3人。唯一琴音だけが深刻な顔をしていた。
「クマやライオンやワニみたいのがウヨウヨいるって本当?」
コンソールを立ち上げる優歌は左隣の琴音に問う。
「ハリオさんの言った事はそういう解釈。でも・・・・」
「ここの生態系が俺達のいた現代の地球と同じとは限らないってことか・・・」
「まさか・・・・恐竜とかいるってコト!?」
「それを確かめに行くんだよ」
優歌の引きつった顔を横目にレンは自分の担当の機動シークエンスを終える。
「準備完了!カデシュ出ます!」
左右後ろの少女達の会話を遮るように翔はカデシュType・Nを飛翔させる。
飛翔してすぐに機体の解析装置はゲダムが生物が生存可能な大気である事をモニターの隅に長々とデータとして表示する。
「う・・・!?」
その情報に気を取られる間に眼下の森林の木々が、緑の大地を貫通するように流れる河の水が逆巻きながら自分目掛けて突っ込んでくる。後ろから琴音と優歌の悲鳴が翔の耳を打つ。
「グラビティ・リフターを最小に!」
「そ、そうか!?」
レンの言葉に1G環境で機体を浮遊させるグラビティ・リフターの出力と範囲を最小にする。
無重力の影響が無くなった事で舞い上がった樹木と積木細工の様に地上に落下。その上に雨のような河の水が降り注ぐ。
(あの下に何もいませんように・・・)
瞬間的に心に浮かんだ自分の言葉に翔は絶句する。地球が崩壊したあの時自分が受けた事、感じた事をこの星の生物にしてしまった事に対する感情に自己嫌悪する。
(傲慢になれる程のエースでも偉くなったわけでもないんだぞ!北条翔!!)
悔恨の情が地上の様子をつぶさに観察する事をFOパイロットの義務であると意識させる。
「居た!!」
正面モニターの右隅に動く物を発見し拡大。
「ウソ・・・・!?ホントに恐竜!?あれ肉食の奴だよね?」
優歌の言う通り、その生物の全体的な外観はティラノサウルスに似ている。ただ違うのは鼻の上から顎下にかけての形状がまるで大工道具のトンカチみたいな形状をしているのだ。
そいつは顎下のハンマー部分をしきりに打ちつけている。鼻の上の釘抜き状の角にパッパッと発火した。
「だれかと戦っているのか!?」
「この高度では確認できません・・・もしかしたら人が・・・」
琴音の言葉に翔は機体をフォトンライフルの射程ギリギリまで降下させると出力を絞り1発だけ放つ。光弾は恐竜の後ろ半分を蒸発させ残った上半身がドウと倒れた。
「降りてみよう」
出来るだけ地上に影響を与えない様に細心の注意を払い、機体を四つん這いにさせると4人はコクピットからゲダムの大地に降り立った。
恐竜の死体の周りにいた5人の地球人と似たような男が銃を翔達に向けたままじりじりと後退する。両手を挙げた翔はヘルメットを取る。
「落ち着いて下さい。俺達は・・・」
「ふざけるな!」
背の高い男が銃の引き金を引こうとするのを黄色い髪の背は低いが体格の良い男が押し止める。翔も後ろで銃を抜いたレンを止める。
「待て!」
「しかし・・・」
「どうやら彼らは違うようだ。責任は俺が取る。後ろに下がっていろ」
「・・・・分かった。だがスオウ、気を付けろ」
背の高い男にスオウと呼ばれた男は頷くと翔達に向かって両手を挙げたまま近づいた。
「さっきはすまなかった。我々は入り組んだ事情があってね。私はスオウ。この近くにある村のリーダーをさせてもらっている。この場合、友好の証を見せる方法は何かな?」
「あ・・握手を」
右手を出した翔の手を取るスオウ
「会って早々すまないが・・・出来ればそっとしておいてくれると嬉しい」
「はあ・・・それは良い」
翔の言葉を遮ってレンが割って入る
「ちょっと待って。その銃と階級章は人類連盟の物よね?」
「逃げろ!!」
スオウの叫びに後ろの4人は散り散りに森の中に逃げ込んだ。後を追おうとするレンの前に仲間を守るようにスオウが立ちはだかった。
「私だ。私が提案したんだ。彼らは皆ついてきただけだ。罰するならそれとも奴隷にするなら私だけにしてくれ。頼む」
レンとスオウの両方を見て戸惑う翔。優歌と琴音に関しては呆然と事の成り行きを見守っているだけだ。
「どういう事なんだ?」
「やっぱり・・・脱走兵がこんな星に居るなんてね。いやここだからか」
「脱走兵・・!」
フィクションでしか聞いた事のない単語に眩暈を覚える。
「そうだ。私達は果ての無い争いに嫌気がさして緩衝地帯の半ば見捨てられたこの星に来た」
「なら軍人になんかならなければ良かったじゃん」
優歌の無神経な発言に翔と琴音は内心ヒヤリとしたが、スオウはその疑問を当然の物だと割り切っているのか、眉一つ動かさない。
「そうだな。だが私達の多くの星は、君達も恐らく同じだと思うがヘーレムと人類連盟の戦いに突然巻き込まれた。脱出するにも連盟の協力が無ければ不可能だったし、その後星に戻れた者は1人もいない。星と共に運命を共にする選択肢を選ばない以上、高位の者でない限りは連盟に参加する事、すなわち軍人として生きるしかないわけだ」
「同情はするけどね・・・とりあえずこちらの指揮官に話をしなきゃならない。こっちも事情があるんだ」
「ならば人質として彼女を置いていってもらおう。FOで空襲されない保証がないからな」
スオウが指さしたのは琴音。
「アタシが代わりに」
レンを制してスオウはが言う。
「駄目だ。君ははしっこいからな。あのFOはまさか1人欠けただけで動かない訳ではあるまい?」
「私は平気だから・・・」
気丈に振る舞う琴音に優歌は手を握る。
「琴音!すぐに戻ってくるからね!」
レンに村の位置といくつかの情報を入力したカードを渡し、二言三言話すとスオウは琴音と一緒に森の奥へと消えていった。




