第二十話 暗黒を光に染めて(後編)
暗黒の闇の中で無数の白いスラスター光と赤い爆炎が忙しなく瞬いている。それらは全て敵味方のFOとカルブンクルスを含む人類連盟の艦艇が戦っている事を示すものだ。
だがカデシュType・Nのメインパイロット・北条翔の目にはダークゲートの暗闇を映しだす正面モニターからその各々のシルエットを判別する事は出来ない。レーダーには光点として敵味方の識別信号とゲート幅を示すデッドラインが示されているだけで実際の戦闘になれば自分の目と勘を信じて動くしかないのだ。
だから彼は神経を集中して目を凝らす。
(牧野さんもレンも同じことをやったんだ・・俺だって出来るはずだ・・・生き残るには出来なきゃいけないんだ!)
時折後ろにいる『らしい』バノックバーン・スペースタイプの位置を確認しつつ、渦を巻くように機体を前進させる。
唯一の慰めは敵の数が多すぎる為多少は適当にライフルを撃っても敵に当たるという点だった。
「味方の識別が多いな?鹵獲したタラスを出しているのか?」
レーダーには艦隊旗艦ガラン周囲に3つの味方光点、冥王星基地で鹵獲した、恐らくタラス(最初期型)の反応がある。
「カケル!」
「わかってる!!やらせるか!」
レンの警告に合わせて機体を横に振る。カデシュが今しがた居た位置をフォトンランチャーの光の帯が駆け抜けて、カルブンクルスのバリアーに爆ぜる。光に照らし出された敵のタラスの編隊の懐に潜りこみ、下方からフォトンライフルを連射。散開が遅れた1機が火球に包み込まれ、その後ろに居たもう1機の脚を吹き飛ばした。
「目標を変える気がない?北条君!?」
タラス部隊は一部を除いてあくまでもカルブンクルスを攻撃する事だけを命令されているらしい。邪魔者の相手はマンジケルト・ダンとバノックバーンという事らしい。
敵の動きからそう呼んだ牧野琴音は上下からマンジケルト・ダンが両腕のフォトンライフルを連射しながら迫っている事を告げる。
「掴まっていてくれ!」
翔はカデシュを上昇させる。グラビティ・リフターの生み出すバリアーで減衰した敵戦闘機のライフルなどはかすり傷にしかならない。逆に2機のマンジケルト・ダンは激突を避ける為軌道を変えざるを得ない。
(今だ!)
瞬間的にカデシュが急降下とライフルの発射を同時にやってのけ、下のマンジケルト・ダンを撃破。思念操作の利点である。
降下と同時にカルブンクルスの艦砲が唸り、正面から来たバノックバーンのフォトンランチャーを飲み込みながら砲撃機を吹き飛ばす。
「もう1機は!?」
翔は艦下方に吹き飛ばされたマンジケルト・ダンの行方を捜す。マンジケルト・ダンは艦底に陣取っていた人類連盟側のタラス3機のフォトンライフルの斉射を全身に受けて爆散する。
『カケル、誘導ありがと!』
「ラナ!タラスに乗ってるのか!?」
ノイズ交じりの通信に翔は驚くと同時にレンの方を見る。
「ラナはアタシと同じ操縦能力があるからね。当てにしていいよ」
『先に撃墜されたけどね』
「そ・・・そうか」
あっけらかんとした会話にこの2人の仲が良いんだな、と地球人3人組は思う。そこにカルブンクルスからの通信が入る。
『全機もう一踏ん張りしてもらおうか!艦の砲撃でFOがタラス共を撃ち落としやすい位置に誘導する!代わりにバノックバーンの位置を誘導してくれ!あれはこっちの砲でないと届かないだろうから。奴のデータを送るからモニターとレーダーで位置に気を付けて』
「下半身がホバークラフトになっているのか・・・機動力は高いし、近づいてはこないだろうな」
両腕にガトリング砲、ジェット機のような流線型の脚部の機体が表示されたデータから翔はそう判断すると敵部隊の真っ只中に機体を躍らせる。
「索敵は私達が受け持ちます。北条君は攻撃と移動に集中を」
「頼んだ!」
艦砲を避けたタラスの胴体にプラズマソードで両断、レーザーナパームを背部に展開した背後の1体にライフルを撃ち込む。コンテナから放たれた直後の高熱焼夷弾が光子に誘爆し周囲の敵機を巻き込んで巨大な火球が闇を彩る。
「いける!いけるよ!?でも艦長は何であともう少しって言ったのかな?」
「武器が旧式のタラスに負担なんだよ。本来は別の機体の物を使っての短期決戦を仕掛けているんだ。だからこいつらは見た目はともかく中身はスカスカの栄養不良児ってわけさ」
レンの解説に感心する優歌。だが翔はそれを限定空間で行ってくるナールライトの執念に背筋が凍る。レンの指摘をあの男が考えていないとは思えないと気付いた彼は母艦に通信を入れる。ある考えが頭をよぎったのだ。
「艦長、前方のエネルギー反応に異常は?」
『まだない。敵が後退をかけたタイミングでType・Fに変身してくれ』
ルツは翔の言わんとしている事を完全に理解して返答を返す。
「り!?了解!」
返事を返す間もなく編隊が散開した瞬間タラスのマシンガンとは違うフォトンの火線を避ける。バノックバーン・スペースタイプだと知覚しつつ翔は敵機を誘導するように機体を上昇させる。機体の脚部下面に集中しているスラスター類が弱点だと看破したからだ。
デッドラインを告げる警告音と同時に機体を前方に突っ込ませる。腕と両肩のランチャーを上げた瞬間下面から突き上げるようなカルブンクルスの一撃でバノックバーンが消し飛ぶ。
それが合図だったように敵が次々と撤退していく。
「優歌、ゲートを抜けてストラデゴスに接近してくれ。そしたら・・・・」
「・・・!わかった!!」
翔は優歌に操縦を交代、カデシュType・NからType・Fへ変身。
背部の翼状のブレードを広げ、猛スピードで加速するとタラスやマンジケルト・ダンを追い抜きながら進路上の敵機の胴や手足を斬り捨てていく。
「ユーカ、そろそろ抜けるよ・・・!気を付けて」
レンの言葉に優歌は小さく頷く。緊張で声が出ないのだ。
敵はもう一度ストラデゴスの主砲を撃つ。それを受けることはカデシュもカルブンクルスもできない。
ならば艦に高速で近づき、艦の推進器をType・Dで狙撃して砲の軌道を変えるしかないと言われれば、いくら能天気な優歌でも体が強張る。
前方のモニターが漆黒の闇から強烈な光に照らされる。目が慣れると艦首にカルバラーの影が浮かび上がるのが見えた。
「あいつだ・・・・!」
翔の声は硬い。
「今は構っていられない・・・よ!」
「ああ・・・」
ストラデゴスの脇へ滑り込もうとするカデシュの前にカルバラーが立ちはだかる。
「バレてる・・・!?」
だが軌道は変えられない。優歌は機体を回転させ、錐揉み状態でカルバラーへ突っ込む。
「無駄だ」
ナールライトはカルバラーの両腕を伸ばしてクローを展開し、敵機の翼を抑え込む。
ガッキと衝撃が双方のコクピットに伝わり、回転が止まったカデシュの翼へカルバラーのアシミレイションシステムが接触する鈍い音が優歌を押し包む。
「今!」
琴音の合図に優歌はレバーとペダルを一杯に押し込む。
「うりゃあああ!!」
「何!?」
翼を切り離してバーニアを吹かす。
カルバラーの拘束と吸収を振りほどいたカデシュType・Fはストラデゴスへと突っ込んでいく。頭突きをまともに受けて回転したカルバラーは次の行動が遅れざるを得ない。
伸ばした腕を振り上げた時には敵機の翼は再生済み。だが一撃を加えれば相手の目論見は防げるのだ、そう判断したナールライトは気づかぬ内に余裕を失い、相手が既にType・Dへと『変身』している事に気が付かない。
「獲った・・・!?」
再度腕を翼に叩きつけた時、既にType・Dは翼のシールドを本体から分離させていた。
「コトネ!」
「はい!!」
Type・Dのフォトンボウを引き絞り光の矢を放つ。
光は艦の右メインエンジンに突き刺さり爆発。衝撃で船体が揺れ、主砲から放たれたエネルギーは狙いを大きく逸れて星々の海へと吸い込まれていった。
「やった・・・!?」
大きく息をつく琴音に目をカルバラーに向けたまま3人は労いの言葉を掛ける。
「何だ!?」
こちらに向かってくるものと思っていたカルバラーが上方に飛び去るのを見て翔は向かった先を見る。
「青い星・・・地球みたいだ」
母星に似ている事がこんなにも安心する事だとは。
「あれがゲダムだよ」
「わあ・・!?」
「綺麗・・・」
優歌と琴音は息を飲んで星の暖かな美しさに息を飲む。
だがレンは星ではなく敵を観察していた。彼女にはヘーレム軍が慌ててゲダムへ向かっているように見えた。
(たかが撤退でここまで戸惑う事は今まで無かった・・・)
彼女は目を凝らし。レーダー感度を上げる。
レーダーがゲダム上空に何かを捉えた。
惑星ゲダムの大気を突き抜けて妙なモノが現れたという報告にナールライトはカルバラーをゲダムへ向けた。
(これ以上の継戦能力はあるまい)
これまでの戦いでカデシュも疲れ果てているはず。ならば当面の相手はゲダムに隠れていた、人類連盟の戦力である。
ところが後方を抑えていたはずのオートノミー級からは要領を得ない通信しか返ってこなかった。
「未確認物体だと?新兵器か」
モニターの一部を拡大した映像には確かに回転する楕円状の物体を重ねたものがこちらに迫ってくる。
その回転も上は右回転、下は左回転しており、物体の周囲に推進機の様な物はない。これでどうやって推進しているのかナールライトには分からないがとにかくこの物体は左右に複雑な軌道を取りながら機体周囲に32門あるフォトンランチャーを斉射した。
「Drファゼルか!?こんな物がメカニオームというのか!!」
艦隊に、自分とカデシュに、容赦なくビームを浴びせる『こんな物』ことメカニオーム・アタノールは動く物全てを敵と認識しているかのように本来味方であるはずのカルバラーとヘーレム艦隊にも砲の照準を合わせていた。
「あの回転ハンバーガーって、味方?」
乱入者のふざけた姿に優歌も開いた口が塞がらない。
「アタシ達もしっかり狙われているよ!」
琴音に代わってレンがメインパイロットを交代し、Type・Gはビームとビームの合間に滑り込みフォトンライフルを連射する。
「弾かれた・・!もう残りエネルギーが少ない・・・」
無傷のアタノールの装甲に歯噛みするが、カデシュのエネルギーは戦闘機動をやれるかも怪しい。動きの鈍ったカデシュの目前にビームが迫る。
「なるほど・・・いい度胸だ・・!」
カルバラーがカデシュを下に押しのける。反動でビームの上を滑るように飛んだカルバラーはプラズマトライデントを楕円の接合部にねじ込むと内部をこじ開ける。
「所詮は!!」
機体の造り主への侮蔑と共に頭部のフォトンライフルを連射。
内部メカを破壊され爆発するアタノールを振り返る事無くストラデゴスに着艦したナールライトは全軍に撤退命令を下す。艦隊は次々とゲダムの彼方の宙域へと飛び去って行った。
カルブンクルスがダークゲートを抜けた時、そこにはカデシュがただ1機孤独に宇宙を漂っていた。




