第十九話 暗黒を光に染めて(前編)
冥王星近海
『これよりダークゲートへ突入する!各艦編隊維持せよ!』
カルブンクルスの監視塔。強化ガラスの外の宇宙空間を冥王星基地から鹵獲したラディックス級哨戒艇が埋め尽くしている。この哨戒艇の人員10億人を2日という短期間で配置したレガスの手腕は評価されて良い。
相羽優歌は艦内放送について並んで座っていたレンに矢継ぎ早に質問する。
「ダークゲートって何!?それにゲダムってどんなところなの?」
「見てれば分かるよ。ゲダムについてはアタシも殆ど知らない」
交代にやって来た牧野琴音と北条翔もその話題に加わる。
「ゲダムってそんなに恐ろしい惑星なんでしょうか?」
「どうかな。ヘーレムの侵略を受けていない、数少ない惑星だって事では有名だけどね」
「そこにわざわざ行くって事はそのゲダムには水や食料があるってことなのか?」
「そうね。今切迫してるのはその2つだし・・・・1,2度ドンパチは覚悟しなきゃいけないだろうね」
彼らがゲダム往きの理由をあれこれ推測している中突如外が真っ暗になる。今まで外に見えていた星の輝きが一切消えていた。
「え・・・急に何!?星が全く見えなくなっちゃった!?」
「ダークゲートに入ったんだよ。ゲダムまでの3日間、外はずっとこんなだよ」
「そんなに近い位置にゲダムはあるんですか?」
「この星系からざっと150光年くらいかな。ダークゲートは入り口と出口は肉眼では見えない一種のワームホールさ。入り口と出口は決められているんだ。尤も行きはここを使わなかったけどね」
レンの解説に翔は青ざめる。
「さっき編隊を維持しろって言ってたよな?まさか・・・・」
「ご明察。ワームホールの範囲から飛び出したらどこに出るかは誰にも分からない。2度と合流できなくなるね」
「怖っ!?もし戦闘なんて起こったら・・・」
「優歌ちゃん、怖い事言わないで」
「この空間で戦闘なんて聞いた事が無い。条件は向こうも同じだから仕掛けてこないとは思う」
「何もない事を祈るしかないか。っとそろそろ代わるよ。その為に来たんだものな」
「翔、琴音に変な事したら駄目だよ」
「しないよ」
「ま、それもそっか。じゃあ後でね」
「見張り頑張って」
優歌とレンは中央ブロックへ降りて行った。
『日常』が戻って来た。それは長くは続かない。
(だからこそ守る価値があるんだ。父さん、母さん、どうか見守っていてくれ)
暗黒のトンネルでの1日と2日目は滞りなく過ぎて行った。
3日目の地球ならば朝7時頃。けたたましい警報が艦内に鳴り響くと翔達は格納庫へと急いだ。
同時刻。シュトロン星系・ゲダム星近海
「重力レーダーに異常!」
ナールライト坐乗するストラデゴス級機動戦艦のオペレーターが背後に立っていた司令官へ報告する。
「来たか!やはり予測通りの出立だったな。攻撃部隊の装備は整っているな?」
「本当にダークゲートで戦闘を行うつもりで?陛下がこの事を知ったら・・・」
長いヘーレム軍史でも初めての戦場にオペレーターは戸惑いを隠せない。何より雲の上の存在である女帝は自分達の行動を逐一監視する事も出来るのだ。そして過去にその逆鱗に触れた者の末路を思い出してオペレーターは震えあがる。
「もちろん。我々の任務は人類連盟の拠点、それも本拠地を突き止めることだ。ならゲダムのような我々が見捨てた惑星を連中が密かに自分達の基地を造っている可能性は十分考えられる。連中が喉から手が出る程欲しがっているカデシュを見捨てるとは考えられない。よってカデシュを攻撃すれば必定人類連盟共の他の部隊も釣れるだろう」
「もし、違っていたら?」
「ゲダム固有の深海魚人以外の知的有機生命体がいない可能性はある。居ても我々を恐れて救援を出さない時はゲダム全土を攻撃する。要するにお前達は何も心配しなくて良い」
「ハ・・・ハッ!全軍に通達・・・・」
「ゲダムの監視も怠るな!動きがあればすぐに迎撃できるようFO部隊は待機せよ」
後方にオートノミー級2隻が配置につく。
「ストラデゴス、主砲発射!!30秒後に攻撃隊発進!」
ナールライトの号令と共にストラデゴス船首の超大型フォトンブラスターが火を噴き、眼前の空間に吸い込まれていく。そしてきっかり30秒後18連装ホーミングレーザーナパームとその箱の側面に大型レールキャノン2門を備えた対艦装備のタラス(最初期型)とマンジケルト・ダン、そして空間戦闘用に改装されたバノックバーンが次々と艦艇から飛び出していった。
「超高熱源反応あり!?後5分でこちらに到達します!!」
「カデシュは!?」
オペレーターからの報告にルツは格納庫へ通信を飛ばす。
『今起動準備してる。20秒待ってくれ!』
「Type・Dで発進させろ!防御態勢を取らせてな!カルブンクルスのバリアーを前面に集中!哨戒艇とガランを後ろに下げさせろ!!」
矢継ぎ早に指示を飛ばすとルツはカデシュと直通回線を開く。
「コトネ、無理はするんじゃないよ。あれは恐らくストラデゴスの主砲だ。いよいよとなったらビームを後方に受け流すんだ」
『はい』
「良い返事だ。他の3人はコトネをサポートしてやるんだよ」
『『『了解』』』
『カ・・・カデシュ出ます・・・!』
カルブンクルスの中央ハッチからカデシュType・Dが飛び出すと同時に前面に翼が本体から分離・変化した無線誘導式の盾を前方へ配置する。
『いいか?このゲートの幅を超えない様に移動するんだぞ?でないと二度と合流できなくなるからな!?』
ハリオの声と共にカデシュのレーダーマップ4方に赤色の線が走る。それがこの戦場のデッドラインを示していた。
「カルブンクルスの直径より10kmしか違わないのか・・・!」
これでは艦は回避行動を取ることが出来ない。必然的に艦隊付近での戦いになる。
(退避が間に合うのか?)
翔が振り向こうとした時、右側から強烈な光が差し込んだ。
「きた!」
(お願い!!)
琴音は光の恐怖に押しつぶされそうになりながらも艦隊を守らなければならないという思いから機体と盾を前へ前へと押し出していた。
「あまり離れすぎないで!」
「大丈夫です・・・!まだ!」
ブラスターが盾に直撃する。盾越しでも目も眩む強烈な光とコクピットに伝わる熱に俯きながらも翔達の目は各種レーダーから離れない。
「こ・・・これ以上は・・・!」
「牧野さん、機体と盾を!」
「もう少しだけ・・・!もう少しだけ!」
彼女の胆力に3人は内心舌を巻く。だが2枚の盾は半分融解していた。
「すみません!?カルブンクルス!」
琴音は機体を仰向けにして、光の帯を躱す。高熱で翼の盾は溶け崩れ、カデシュ本体も高熱の粒子で装甲が焼かれていく。
「「「「・・・う!」」」」
後退が遅れたラディックス級2隻が瞬時に蒸発するのを目の端で見ながらブラスターをカルブンクルスのバリアーが受け止めるのをカデシュの4人のパイロットは固唾を飲んで見守るしか出来ない。
ビームの圧力で僅かにカルブンクルスが後退した様に思えた一瞬、ブラスターが四散し辺りは再び闇が訪れる。
「切り抜けた・・・?」
目に入った汗を拭いながら琴音は息をつくが敵機の襲来を告げる警告音に心臓が跳ねる。種別は旧式のタラスにマンジケルト・ダンを示している。
「コトネ、交代よ!暫く休んで」
「レンさん、お願いします」
傷を修復したカデシュはType・DからType・Gへと『変身』。前面モニター一杯に広がったスラスターの光点に怯むことなく真っ只中に突っ込んでいく。
「守るなら後退した方が良いんじゃない?」
優歌の言葉をレンは早口で返す。
「艦は回避行動できない。ここで数を分断しないと向こうのバリアが持たな・・・い!」
モニターとレーダーがホーミングレーザーナパームの紅い光で真っ赤に染まる。
カデシュは背中の6連装ホーミングレーザーナパームを後方に打ち込むと同時に両手のフォトンライフルを連射し、ナパーム弾を撃ち落としていく。だが焼け石に水で大半がカルブンクルスへ向かっていく。
「ナパームの射程が長い!?旧式の機体に新型の武装を積んだの!?だけどっ!!」
自分を素通りして借る分クルスへ向かう敵の編隊の後方からカデシュはライフルを浴びせ、次々とタラスを堕としていく。狙う必要が無い程の数だ。迎撃の為に飛行形態のマンジケルト・ダン2機とタラス4機が反転。攻めてくるタラス(最初期型)は機体こそ旧式だが武装は長射程のホーミングレーザーナパームとタラス・ダンのフォトンマシンガンを装備している。四方からマシンガン・レールキャノンと頭上からマンジケルト・ダンの速射型フォトンライフルの網の目のような火線の『穴』にレンはビームを装甲に掠らせながらカデシュを押し込んだ。
そのペダルと操縦桿捌きを翔と優歌は目に焼き付けながらレーダーに目を凝らす。
「レン、後ろだ!!」
翔が叫んだ時には太いビームがカデシュの右脇腹を抉っていた。
「何今の!?」
「艦船からか!?」
レンはコクピット内の混乱を無視して機体の立て直そうとするが、背後からのマシンガンの直撃を受けて機体が傾ぐ。
「グッ・・・!?このっ!」
レンは右手のライフルを背後に投げ捨てる。爆発を盾にすると機体を上昇させ急降下してくるマンジケルト・ダンに膝蹴りを叩き込む。重量差と相対速度の乗算でマンジケルト・ダンは回転しながらダークゲートの壁を破って虚空へと消えていった。
「ビームまた来ます!」
琴音の言葉にレンはナパーム弾を周囲に発射。ナパーム弾とタラスのマシンガンと彼方からのビームが爆発。爆炎の中から飛び出したカデシュは後方に下がろうとするタラスをライフルで撃ち抜いた。
「コトネ、向こうの砲撃の時間、分かる?」
タラス3機の攻撃を紙一重で躱しながらレンは後ろに怒鳴る。
「はい、時間は・・・!」
琴音の算出した時間に短く礼を言うと距離を取って纏わりつくタラスの1機に向かってレンは機体を突撃させる。
(やはり)
機体を左右に振って後方からの射撃を躱しつつ敵とすれ違い様背中を蹴り飛ばして上昇。
1秒後例のビームがタラス2機を貫く。
「凄い・・・」
「足癖悪っ!!」
「うるさいよ、ユーカ」
琴音の素直な賞賛に気を良くしていたレンは優歌の悪態に同じく悪態で返した。
『こちらカルブンクルス!カデシュ戻れるか!?』
「・・・・進行方向にスペースタイプが陣取ってる」
『後退しておびき出す!』
了解、と告げたレンは操縦を翔に代わってもらい、ヘルメットで蒸れた頭を振った。




