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Galaxy Trail  作者: 紀之
新天地を求めて

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第十八話 戦う意味




何もない空間に突如ヘーレム軍のストラデゴス級機動戦艦が現れた。この巨大戦艦の出現を皮切りに宙域周辺はペイガン級輸送艦やオートノミー級空母で埋め尽くされていく。


彼らはナールライト麾下(きか)の太陽系侵攻艦隊の残存艦隊である。地球時間で20日前、冥王星基地壊滅後に太陽系から最も近いこのシュトロン星系へと集結した彼らは指揮官からの新たな命令を待っていた。


『任務ご苦労だった』


ストラデゴスの最奥部に位置する司令室にAT01、ヘーレム女帝の声が響く。


「全ての責任は全て私にあります。部下達には寛大な処置を」


自身の『城』というべき自室で平伏するナールライト。


『私の言葉に裏などない。今回の任務は想定外の事態が多かった、と判断したまで。それ故貴重なデータも収集出来た。何より、お前とカルバラーを失わずに済んだのは幸いという他ない・・・』


慈母の如き慈しみを(たた)えた女帝の言葉にナールライトは七重の腰を八重に折る。


「もったいなきお言葉・・・!!」


『ですが、失敗は失敗。サークレイスの第2艦隊と任務を交代せよ。お前には人類連盟の本拠地の特定を命じる』


『そういう事だ。だが、そちらに到着するまで5日程かかる。それまではカデシュ破壊任務は貴公の担当だ』


女帝の言葉と同時にモニターに映し出されたサークレイスの言葉に驚きと喜びが混じっている事にナールライトは内心歯噛みする。引継ぎまでに汚辱を(そそ)げという言外の気遣いは(かえ)って彼のプライドを傷つける。


(カンナエの力ならば5日もいらぬ・・・!余裕か?それとも私を憐れんでいるのか?)


『サークレイスよ』


『ハ』


『連中がゲダムの地を離れるまではカンナエのフォトンスマッシャーを使う事を禁ずる。妾は今後の事態の見据えてDrファゼルのメカニオーム計画を認可した・・・・その成果を確かめるまで待て』


「確かに連中の規模と状況を考えればゲダムへ行かざるを得ないでしょう。しかし何度も白紙にされたあの計画を・・・?Drは今ゲダムに居るのですか?」


『ええ・・・ナールライト、ファゼルは貴公の造ったサンバルテルミとバイオブレインをいたく気に入っている様子』


ナールライトは褒められた気がしない。


Drファゼルは天才である。しかし天才の前に変人が付くと話は大きく変わる。今日の量産型FOはこの人物が5柱を解析したデータで生み出されたのは確かなのだが、その後は突拍子もない理論と研究ばかりしている。それは彼の頭脳回路に致命的なバグがあるせいだとの噂が高じてDrファゼルは左遷に近い形で姿を消した。メカニオーム計画はDrファゼル独自の構想による次期主力兵器開発計画なのだが、その費用対効果の無さから否決された案件だった。


『Drファゼルは常々我々の計画に大きな狂いを生じさせる人類種が出てくると予想し、警告していた。地球人がそれに該当するかはともかく、今回ナールライトが送ってきたデータは由々しき事態を生み出しかねない・・・・そう判断したのだ』


『ご賢察』


『痛み入ります』


『ではな。ナールライト、貴公も引き継ぎ前に余計な手出しをせぬ様に。貴公を失うと妾は困る』


その言葉を最後に司令室から声も映像も消えるとナールライトは立ち上がり、ブリッジで指揮を執る副官のアームレイを呼び出した。


「アームレイ、攻撃準備はできたか?」


『陛下からお許しは頂いたので?前代未聞の作戦ですよ?』


「そうだ。汚辱を雪ぐ機会を頂いた。5日の内に決着を着ける」



冥王星近海


冥王星基地を破壊した人類連盟のレガス艦隊は基地に収容されていた捕虜の地球人達を受け容れた。正確には受け入れざるを得なかったのだが。


問題はこの捕虜達は火星近海で助けた人々と違い非常に我の強い連中が集まっていたことだった。

彼らは冥王星基地破壊の功績は自分達だけのものだと言わんばかりに難民の配置や艦隊の編成にも口を出してきた。


「くどい!!君達地球人は宇宙植民もした事が無いだろう!ならば黙ってこちらの意見を聞け!!」


基地破壊の日から何度も繰り返した言葉を怒鳴るとレガスは坐乗艦(ざじょうかん)であるガランの司令室の椅子にドッカと腰を下ろす。


「そちらの様子はどうだ?カケルは使えそうか?」


卓上の通信機でカルブンクルスのブリッジを呼び出す。


『本人はやる気だけど、どう見ても神経症の兆候があるんでね。とても無理だよ』


カルブンクルスの艦長、ルツの声は苛立っていた。


「彼の存在はカデシュに必要だと聞いた。どうするつもりだ?」


『精神的に落ち込んではいるが他の3名はまだ大丈夫だからな・・・』


「どうにかさせろ。パイロット3名は女なのだろう?なら」


『それ以上はアタシが許さないよ・・・じゃ、こっちも忙しいのでね』


通信機の奥で緊急の呼び出し音を聞いたレガスは舌打ちして通信機を切ると銀河の地図を見るとガランのブリッジを呼び出す。


「シュトロン星系ゲダムへ進路を取れ!!そこが食料と水の補給に一番近い」


『難民共はどうするんです?全部連れて行くんですか?』


「まさか。連中もあそこで降りたがるヤツらが出るだろう。それを1人でも多くするのがゲダムまでの任務だ。この意味が分かるな?」


オペレーターの声色からそんな事はごめんだという意志を感じ取ったレガスは彼に同意し厄介払いの為の策を授ける。実際の所オペレーターの意見は地球人以外の人類連盟側の人間の大多数を占めている。それを知らない程レガスも空気を読めない男ではない。


軍隊が組織である以上、一体とならなければ機能しない。その空気を一時的にせよ作り出すことは必要だった。たとえそれが偏見だったしても、である。



「一体今度は何だ!?」


カルブンクルスのブリッジの艦長席の通信機を取ったルツは呆れ声で話しかける。


『とんでもない事態になった!!あいつら、おいやめろ!そんなモンが通じる相手じゃねえ!』


「格納庫で何があった!?応答しろ爺さん!?」


「またアイツらですか!?なんで今回拾った連中は狂暴なのばっかりなんですかね?」


「だからヘーレムに生身で反乱しようなんて考えるのさ・・・とにかく行ってくる。これ以上は危険だ」


オペレーターにそう言ってルツは艦長席を立つと足早に出て行く。通信機越しで銃声を聞いた事はまだ黙っていた方が良いだろう。


格納庫前でルツはカデシュのパイロット4名に出くわした。


「何でいるんだ?それも4人揃って?」


「爺さんに呼ばれてね・・・・それより何が?」


パイロットを代表してレンが答える。他の3人も心配そうだがどこか上の空という表情、特に翔の生気の無い顔をルツは見逃さなかったがあえて何も言わず格納庫の扉を開ける。


格納庫に入ってすぐ、血の匂いがした。北条翔はカデシュの右手とその下の床の物体が何であるかを悟ると相羽優歌と牧野琴音の眼を反射的に塞ぐ。


「見るな!!見るんじゃない・・・・」


「ちょ、ちょっと?」


「あの・・・?」


だがレンは翔の手を強引に退けると顎をしゃくって2人の少女にそれを示す。


「おい、レン!?」


「すぐにわかる事を先延ばしする必要がどこにあるの?行くよ」


優歌と琴音の悲鳴を尻目にレンとルツは奥へと進む。翔は2人に外で待つように言うがレンによって強引に引っ張られる形で3人を格納庫に追い立てた。


「何が起こったか最初から説明してもらおうか」


銃を(たずさ)え殺気だった男に気圧されず、ルツが周りを見渡す。


「握り潰しやがったんだよ!!デクスター曹長があのマシンに乗り込もうとしたらヤツが曹長を・・・・俺らも潰されると思ってぶっ放したんだ!!なんなんだ、あれは!?」


「フィジオームだよ。俺らの人知を超えた人型マシンだ」


ハリオの呆れにルツは息を大きく吐くと振り返って言った。


「なるほどね・・・・どうも3人はここで決着を着ける必要があるみたいだね」


「決着って?」


「カケルもユーカもコトネも、戦う理由がもうないだろ?これからどうするかカデシュと対話するんだね」


「う・・・」


青い顔をした優歌と琴音は視線を床に落とす。翔は両拳を握るとカデシュの前に立つ。カデシュの血まみれの右手が動き翔を握ると目の前へ持っていった。


「カデシュ、俺は・・・・父さんと母さんをあんな形にしたヘーレムが憎い。でも同時にあのカルバラーと戦って初めて死の恐怖を感じた・・・その板挟みにあって俺は・・・戦えないんだ。カデシュ!!俺を殺せ!殺して新しいパイロットを見つけるんだ!それが一番良い選択のハズだ!」


「翔何言ってるの!?」


「北条君!?カデシュやめて下さい!」


琴音はカデシュの右拳がグッと握られたのを見て悲鳴を上げる。


「良いんだ!俺が死ねばきっと繋がりのある優歌と牧野さんは解放される!レンは分からないけど、また選ばれるさ!だから・・・戦う必要の無い人達を無理に戦わせるのだけはやめてくれ!」


『オモシロイ奴ダ・・・ホウジョウカケル、貴様ハ、今戦ウ意味ヲミイダシタノダゾ?我ヲ恐レヌノナラバ、カルバラーヘノ恐レモイズレ克服デキルハズ。戦ハツヅク。ヘーレムガ、創造主を滅ボシタ連中ガ存在スル限リ。ソレヲ忘レルナ。我ガ選ビシ地球人タチヨ』


「喋った!?機械がしゃべりやがった!?」


恐怖の念に歯をガチガチ鳴らす元捕虜達を尻目にハリオは嬉しそうにカデシュに呼びかける。


「今まで俺ら部外者にはダンマリだったのに急にどうした?パイロットをよろしくお願いしますってか!?」


カデシュは答えない。もう話す事は無いと言いたげに翔を降ろすといつも通りのやや猫背気味の姿勢に戻った。


「もしかして照れてる?」


優歌の推論を否定したいレンは話を変える


「まさか。それよりあんた達2人はどうするのさ?」


「もちろん、翔と一緒に行く!それが私の願いだもの」


「私も・・・誰にも傷ついて欲しくないから。怖いけど戦います」


「だってさ。カケル、後はあなた次第よ」


「わかってるさ。覚悟とかそんな大層な物じゃないけど、父さんや母さんみたいに、死ななくていい人が、戦わなくていい人達が巻き込まれるのは間違ってる」


翔は兵士達に向き直ると

「だから戦います。皆さんと一緒に、皆さんの隊長さんの思いも一緒に」


「俺達はまだ納得した訳じゃねえ。下手な戦いしやがったら、アレに頼み込んで降ろさせてもらうからな」


苦虫を嚙み潰したように彼らは格納庫から上官の遺体を丁重に運びながら去って行った。


「よし、皆持ち場に戻れ。私達はダークゲートを通ってシュトロン星系惑星ゲダムに向かう!」


ルツの声に一瞬どよめきが起きるが彼女の有無を言わせない威厳が、彼らを目的地へと向かわせる無言の圧力となった。


ゲダムの実態を知らぬ3人の地球人の少年少女はただ顔を見合わせるばかりだった。


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