第二話 機械帝国ヘーレム
地球上空。そこには二等辺三角形を横倒しにした物体が1つ、その左右にカジキマグロのような姿が2つとこれらの後ろに卵型の物体が5つ。
銀河の中心部からやって来た機械帝国ヘーレム
その辺境派遣艦隊の1部隊である。
「まだ見つからないのか?」
「反応はあるのですが・・・・どうやらかなり地下にあるようです」
三角形中央部から突き出たブリッジ内にいる土気色の肌と髪をした男にそれより暗い色合いの肌と髪の部下と思しき男が報告する。
「知的生命体が居るのはこの惑星だけだったな?」
指揮官の男の双眸はその病的な肌に似合わぬ狂暴な光を放っている。部下も機嫌を損ねぬ様、言葉を選んで報告する。
「ハッ、6年前の調査で連中の物と思しき衛星から得られたデータ通り、科学水準は我々の中世時代並かと・・・・・こんな連中が我々の工業奴隷として役に立つとはとても思えませんが」
「むしろその方が都合がいい。圧倒的な力を見せてやればすぐに大人しくならあな。ペイガン級を各大陸と大型の島の上空へ向かわせろ!トラクタービームで原住民共を吸い上げろ!」
『ストラデゴスからペイガン級各艦へ。直ちに惑星の知的生命体が居住している各大陸と大型の島の上空へ移動せよ。移動後直ちにトラクタービーム発射体勢を取れ!』
三角形の戦艦『ストラデゴス』の指令を受けた卵型の輸送艦『ペイガン』5隻が移動を開始する。
「後方から熱源反応あり!照会番号から反乱軍に奪われたタラスです!」
「この瞬間を狙っていたか?ペイガン級の移動とビーム発射を急がせろ!オートノミーとこの艦で撃ち落とせ!!」
言葉と裏腹に指揮官の声は嬉しそうだ。艦隊を任されているこの男、指揮官グロクは退屈な辺境銀河でようやくまともな軍隊としての仕事が出来る事に喜んでいた。
「タラスを呼び戻しますか?」
指揮官は部下の言葉に鼻を鳴らすと
「連中の母艦を探せ!そう遠くない所にいるはずだ。見つけ次第撃て!それで慌てふためくだろうよ」
「予備のタラス3機を出します」
「チッ、命令を先回りするんじゃねえ!だがそれでいい」
部下は調子に乗った事を後悔したがそれを不問にするくらいには今日のグロクは機嫌がよかった。
「よーし、ペイガン各艦トラクタービーム照射!最大出力だぞ!!」
「展開が早い!」
カジキマグロのような外観の『オートノミー』2隻が回頭するのと同時にストラデゴスから3機のタラスが発艦、同時に猛烈な火線が襲い掛かる中で緑色に塗られたタラスを駆る少女は敵部隊の下に潜り込ませると右手のフォトンライフルを1隻のオートノミー級のカタパルト目掛けて発射。だがその間に赤い正規軍のタラスが割り込みフォトンライフルを放つ。2つの光弾がぶつかり、凄まじい光と熱が暗黒の宙域を照らす。レンは目を細めながらフットペダルを押して機体を加速させ、後ろからフォローに入るべく飛び出して来た別のタラスを体当たりで突き飛ばそうとするが寸前で躱され、逆に蹴り飛ばされた。
『レン、艦やフィジオームには構うな!私達がここに来たのは・・・』
「わかってる!」
(コイツらが・・・こんな物さえなければ!!)
母艦からの通信に怒鳴るとトラクタービームを惑星へ向けて照射する、前方のペイガン級を憎悪の眼差しを向け照準を合わせるがレンは発砲をすんでのところで思い止まり足元の惑星へ降下する。追いついてきた3機のタラスが背後からライフルを浴びせかける。
大気を感知した事で自動的に起動したグラビティ・リフターの生み出す重力フィールドが低出力のバリアーとなって機体を守る。
「エイジアは・・・!?」
楕円形の母艦はオートノミー級のカジキの槍に似た艦首のフォトンブラスターを回避して敵のタラスの真後ろにいる事に安堵のため息をつく。この感情の移り変わりが自分達が劣勢に追い込まれる原因でもあるのだ。事実目の前の敵は後ろを取られた事による動揺を一切見せず、最後尾の1機は180度方向転換と同時に背部に18連装ホーミングレーザーナパームとその箱の側面に大型レールキャノン2門を備えた対艦装備を出現させると同時に全弾を放つ。同時に残り2機が左右からレンに襲い掛かった。
「父さん!母さん!返事をしてくれ!」
「お父さん!お母さーん!」
北条翔と相羽優歌の実家のある住宅街は駅前同様の廃墟となっていた。まともな状態の家など1つもない。翔の家は自動車が2階に串刺しになっている最も状態の良い家だった。
「2人ともご両親は・・・・この地区の避難所に行かれたんでしょうか?」
「かもしれない。琴音は?千葉の実家は大丈夫?」
「それが・・・・全く繋がらないの・・・・・メールも電話も」
「すまない、牧野さん。自分の事で一杯だろうに手伝ってくれて」
「いいんです。こうしている方が気が・・・まぎれるから」
「あ・・・いや」
優歌が翔を小突く。
「避難場所の公園に行ってみるか・・・・」
もうここには誰もいなさそうだ、という言葉を喉へ押し込み翔は頭をかきながら努めて明るく言った。
「そうだね。急ごう?またあれが来るかも・・・」
「・・・・ここから10分ほど南でしたっけ?」
優歌の言葉に身をすくめると琴音は小走りに歩き出す。
「お前な・・・」
「う・・・あ、待って琴音!」
じろりと睨まれた優歌は琴音の後を追う。翔も辺りを見回すと2人を追って駆けだした。
「よかった!避難している人達がいる!!」
優歌が歓声を上げて足を速める。
「翔!」
「無事だったか!?」
「父さん、母さん。良かった!!気を付けろよ。あちこち崩れているから・・・な!?」
翔の両親である真奈と道雄、その後ろから優歌の両親が駆け寄ってくる。
普段なら翔達の居る住宅街の小道からは公園の様子を見る事などできない。だが一連の『災害』でフェンスも木々も横倒しになるか、どこかへ行ってしまったせいで見通しの良くなった公園に翔はこの時だけは感謝した。
その瞬間
空からあの轟音が聞こえてきた。琴音は既にトラウマになっているのか完全に足が止まり小刻みに震え出した。悲鳴が公園内のあちこちから上がる。
「皆!!木や柱に掴まって伏せろ!!掴まって伏せろ!!!」
翔は公園の奥にいる人々にまで届くように声を張り上げると近くの電柱にしがみ付く。
「う・・!?」
妙な光景だった。緑色のフィジオ―ム、タラス(地球人はその名をまだ知らないが)と楕円形の円盤が3体の赤いタラスに襲われていた。
追う側の放ったビーム弾を追われている側が躱した事で住宅街に着弾し、熱風と塵が翔達を襲う。
「うわっ!」
翔達の体が浮き上がり、4つの機影が彼ら3人の傍を掠めて飛んでいく。同時に町のあらゆる物が空へ浮き上がっていく。
「仲間割れはよそでやんなさいよ!!」
優歌は翔と同じ電柱にしがみ付いたまま去って行く機影に文句を言ったが状況は変わらない。
「あの・・・・落ちるどころかどんどん上に上って行っていませんか?」
琴音の言葉で翔は更におかしな事態になっている事に気づく。
「本当だ・・・・さっきは奴らがいなくなったら全部落ちていたのに・・・?」
上を見上げると両親らがこちらに向かおうと手足をばたつかせていた。
「危ないからジッとしててくれ!」
果たしてそれで助かる見込みは全然ないのだが、翔の思春期の男子特有の身内に対する気恥ずかしさがそれを言わせた。
「来た・・・・・戻って来たよあいつら!?」
追われているタラスは火を噴く円盤を守る為に追手3機の前に出ると左右にジグザグに動きつつ、手持ちのビーム銃を発射。敵の放つ光弾の雨を躱し、急降下するとⅤの字を描くように急上昇をかける。
だが追手はその動きを読んでライフルを発砲。光弾が翔達の目と鼻の先に上昇したタラスに直撃する。右足と左手を吹き飛ばされ、関節部から銀色の液体を滴らせながら緑のタラスは翔・優歌・琴音を右手に掴み、落下していく。
「うわあアアッ!?」
「「キャアアアツ!?」」
熱風と衝撃が自分達を呼ぶ両親の声が遠ざけていく。
「父さん!母さん!相羽のおじさん、おばさん!?」
翔はロボの右手の掴まれたまま両親らが空へ吸い込まれていくのを見ているしかなかった。ロボの墜落の衝撃と共に彼は意識を失った。




