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Galaxy Trail  作者: 紀之
冥王の住む星

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第十六話 非情なる刺客

今回グロ描写があります。苦手な方はご注意下さい。




白一色の死の山に隕石が1つ落ちた。落下の衝撃で破片を飛び散らせながら斜面を滑り落ちる岩の塊の1つから宇宙服を着た5つの人影が飛び出す。北条翔達決死隊の面々である。


「予定ポイントに到着・・・この斜面を進んでいった先に侵入口がある・・・はず」


冥王星基地とは巨大な氷の山と谷を利用して造られた天然の要塞なのだ。その山の中腹に彼らは潜入したのである。


「急ぎましょう!」


ラナを先頭に5人は匍匐前進(ほふくぜんしん)で注意深く氷の斜面を下っていく。風の唸りや氷の転がる音に時折、一行は体を強張(こわば)らせて耳を澄まして周囲の様子を窺う。送られてきた地図が罠である場合、記されていない秘密のハッチや巡回ルートがあるかも知れないのだ。


「う!?」


基地全体を圧する轟音と共にオートノミー級機動空母3隻とペイガン級輸送艦5隻が彼らの目の前から飛び立っていく。


「あれは!?」


「多分採取した真水を輸送する船団だろうが・・・そんな情報は書いてなかったな。とにかく急ごう。もしかすると捕虜も一緒に移送するつもりかもしれん」


隊長の何気なく発した言葉に翔の手足の動きは早くなる。


「隊列を乱すな」


「すみません」


「気持ちはわかるがな」


振り向いた隊長はそれだけ言うと無言で匍匐前進を続ける。


「ここだ」


山肌に偽装された秘密の入り口から5人は基地内に潜入する。


「静かすぎるな。いかに特別区画だとしてもこうも兵がいないとは?」


「まさか既に反乱を起こしているのでは?」


地図を送って来た謎の人物の情報には暗号文が添付してあった。それが基地内の捕虜が一斉蜂起するというものだった。その予定時間には30分近く早い。


「何らかの事情で前倒しになったと?ラナ、連中の巡回ルートと時間は?」


「後15分でこの先の通路を通ります。私達の目的地とは逆の方向へ行く予定ですが」


「よし、10分で捕虜を救出する。その後カケルとラナはこのルートで格納庫へ行きラディックス級を奪って宇宙へ脱出する。残りの3名は反乱軍と合流する。いいな?」


隊長の言葉に隊員達は頷くと慎重に狭い通路を進んでいった。



マンジケルト・ダンが両腕のダブルフォトンライフルを連射しながら飛行形態の機首のプラズマエッジを煌めかせてカデシュType・Fへ上から突っ込む。カデシュは左右と上下からの光弾を掻い潜ってマンジケルト目掛けて右腕を突き出した。


瞬間、マンジケルトが変形し慣性モーメントを利用してその突きを躱すと両腕を上に向ける。だがその間にカデシュは急停止後、急降下していた。


パイロットの驚愕を表すようにマンジケルトの単眼のカメラが伸び縮みする。1秒後頭部を潰されたマンジケルト・ダンはラディックス級にそのまま叩きつけられ、母艦と共に運命を共にした。


「マンジケルト・ダンがこうも簡単に・・・・!?」


冥王星基地指揮所でオペレーターは大型モニターに映るその映像に呆然となる。


狼狽(うろた)えるな。それより侵入者はいないな?」


同じくモニターを見つめるナールライトに問われ、オペレーターは手元のコンソールを操作する。


「いえ・・・・侵入といっても隕石が一つ落下しただけです。それよりも捕虜共が一斉蜂起するという情報、本当なんでしょうか?」


数はともかく、人間と機械人では装備も個々の能力も圧倒的なのだ。非合理極まる人間の考え方にオペレーターは侮蔑よりも憐みが勝る。


「それもカデシュ共の動きに呼応して、という事だろう。物資の移送は進んでいるか?」


「1時間以内には完了します。ただそうなると基地内の守備は最低限しか残りませんが・・・!?」


「連中を基地内に近づけさせるな。そして例の機体とカルバラーをいつでも発進できるよう急がせろ!」


「ハ!・・・・カデシュ、形態変化!母艦を守りながら降下してきます!!」


モニター画面のカデシュはType・Dへと変化するとガランを無線誘導する盾で守りながら地表へ降下していく。


「撃ち落とせ!ペイガン級は直ちにスペースジャンプにかかれ!水を届けるのが優先だ」


ナールライトの声に重なるように警報が響く。


「来たか!」


『第1鉱山地区で工員共が一斉に蜂起!』


『第3収容所で捕虜どもが暴動を!?』


「案ずるな。各自マニュアルに従って行動せよ」


(そろそろか)


「アームレイ、私はカルバラ―に搭乗する。指揮を頼む」


『承知しました』


垂れ目で茶髪の優男風の『皮』を被ったアームレイと呼ばれた士官は上官の傍に素早く移動すると指揮の権限プログラムを網膜越しに受け取ると敬礼、後ろ姿を見送った。



「居た!父さん!!母さん!!」


「翔君!?」


「本当に翔君なの!?真奈さん、道雄さん、翔君が!」


特別区画にある独房の中に翔は探し求めていた、耐圧服を着て苦しそうに横たわる自分の父母と遂に再会を果たした。同じ部屋には同じ耐圧服を着た優歌の両親と見慣れない2人の人物もいた。ヘルメットで顔は分からないがその2人に翔は心当たりがあった。


「失礼ですが、牧野琴音さんのご両親ですか?」


「そうです!?琴音は、娘は無事でしょうか!?」


「お元気ですよ。申し遅れました。俺、いや僕は牧野さんの友人の北条翔です」


「カケル、話は後にしましょう。今は脱出を」


「そうですね。さ、母さん俺に掴まって。父さんも」


「ラナ、後は頼む。俺達は蜂起に加わる」


「はい、ありがとうございました。皆さんお気をつけて」


翔は敬礼すると母を背負い父親の手を引いて通路をラナと共に外に向かって走り出した。


「緊急事態です!特別区画の独房から捕虜が脱走しました!」


「捨て置け。それより暴動の鎮圧状況は!?」


「ハ!?鉱山区はバノックバーン3体によって鎮圧完了しました。ただ収容所の方は施設が狭いので鎮圧に手古摺(てこず)っております」


アームレイはモニターに映った鉱山地区に佇む、背中のキャノン砲と段ボールを積み上げたような外観を持つFOバノックバーン隊の戦果を見て満足そうに頷く。3機の『鎮圧』行動によって生体反応は1つも存在していない。


「鉱山区のバノックバーンを1機向かわせろ。残り2機は防空任務だ」


「よろしいので?あまり殺してしまうと流石にまずいのでは?」


「多少の損害は必要経費だ。それはナールライト様もご承知だよ。それよりもカデシュはどこにいる?」


「基地の西南で守備隊と交戦中!」


「ある程度したらこちらに守備隊を回せ」


釈然としない顔でオペレーターが自分の指示を飛ばすのを横目で見ながらアームレイ。副官と自身の送り込んだ2名の刺客、3者の視点をナールライトはカルバラーのコクピット内で確認しほくそ笑んだ。


(やれ)


作戦開始の思念が飛んだ。


脱出先の格納庫は山の峰の1つをくり抜いて作られたものだった。ポッカリ空いた穴の真下にゴボウか竹のような貧弱なラディックス級が数隻鎮座していた。


「見えたぞ。皆アレに乗っ・・・!?」


翔は急に呼吸が出来なくなった。万力のような力で後ろから首を絞められているのだ。


自分の母の細腕によって


「ぐ・・・ググっ!?か・・・あ・・・・・さ?」


先程まで座っている事もできなかった人間の力ではない。突然の出来事に翔は立ち尽くす事しか出来ない。


「カケル!?」


「真奈さん!?何をしているの!?手を放して!!」


優歌の母、美香の言葉は真奈には全く届いていない。


「ウグッうう!!く・・ククっ!?」


母の細腕を振りほどこうとする翔の腕を父の道雄が締め上げる。血のような赤い眼光が爛々と輝いている。


「どうしちまったんだ・・・!?母さんも父さん・・・・も!?」


「真奈さんも道雄さんもどうしちまったんだ!?我が子を手に掛けるなんて!」


酸欠になると悪夢を見るのだろうか。翔は『ごめん』という謝罪の言葉を聞いた。同時に彼の目は道雄の頭が光線銃で撃ち抜かれ緑色の液体をばら撒きながら一回転して格納庫の床に倒れる様をストップモーションで見ていたのだった。


銃を構えたラナの腕が上がるのと首の圧迫感が無くなる。荒い呼吸が酸素と恐るべき現実を翔の脳髄(のうずい)に叩き込む。


「後ろ!!!」


何かが穴から飛び込んで来た。地面にへたり込んだ翔をラナと優香の父が引きずっていなければ着地の衝撃で舞い上がった破片で彼は大ケガを負っていただろう。


「カマキリ・・・!?」


2体の巨大なカマキリに似たFO。1体はその鎌を翔の母の頭に刺すと自分の喉元へと放り込む。


『ここで死んでおけば良かったものを・・・!!更なる苦しみに進んで飛び込むとはな!』


「だれだ!?父さんじゃないな!!」


『私はナールライト。カデシュ抹殺用FOサンバルテルミを開発し、君の両親の頭脳をバイオブレインに改造したヘーレムの司令官だ』


額から流れ続ける緑の液体の中で道雄が、自分の父が知らない声で息子に語り掛ける。


「あ・・・・・アアアアァ!?」


ニヤリと笑う父の首がロケット噴射で飛んでいき、もう1機のサンバルテルミの首に入っていく様に対する恐怖と一瞬で両親を奪われた悲しみで翔は絶叫していた。



地上と空中から際限なく浴びせられるビーム。8つの遠隔誘導式シールドが忙しなく動き熱線を防ぐ。牧野琴音の操るカデシュType・Dは自機とガランの両方を防ぎつつ両手に構えたフォトンボウで確実にタラスを1機づつ落としていく。


「数が・・・」


琴音は頭痛に耐えながら次の敵の動きを予想し、照準を合わせる。


狙撃には集中力を要求される。ましてや戦闘の初心者かつシールドを動かしつつとなるとなおさらである。


(幻聴まで聞こえてくるなんて・・・)


頭に響いてくるすすり泣きの主に琴音は思い当たる節があったの事が混乱に拍車をかける。


「え・・・泣いてる・・・この声って翔!?」


「え・・・・でもこれ・・間違いなく北条君の声です・・・!?」


「カケルの身に何かあったん・・・だ!?」


突如シートが回転し、優歌が正面モニター前に移動、カデシュはType・Fへと勝手に『変身』し、あらぬ方へ飛んでいく。


「いた!」


モニターが米粒のような翔を拡大する。


「新型のFO?しかも2機!?」


「後ろからなら余裕!」


カデシュの右ストレートをカマキリに似た逆関節型の脚部を持ったFOは振り返りもせず跳躍して攻撃を避けた。


「ウソ!?」


格納庫の床に激突したカデシュに4本の鎌が振り下ろされる。翼を広げて鎌を受け止めながらカデシュは3人の少女らの体勢などお構いなしに翔を収容し、メインパイロットへと据える。カデシュはType・FからType・Nへと変身し、再度振り下ろされた2本の鎌を両腕で受け止めると口部を開く。

「やめろ!撃つな!?あれには‥‥っ」


翔の叫びに呼応するかの様にカデシュの全身から白煙が上がり、コクピットのモニター全てにザザ・・ザと走査線が走る。


「ど・・・どうしたんだ!?」


通常であれば絶対に聞かない悲鳴のような関節の(きし)み。嫌な予感に追い立てられるようにレンは切れ切れに映るモニター越しに焼けただれた翼を見てあっと声を上げた


「機体が修復されていない!?」


「そんな!?どうして?」


『教えてやろう。このサンバルテルミはカデシュの装甲を溶かし、内部構造の動きを阻害する毒を持っているのだ。君の専属の抹殺者が両親である事に感謝して欲しいものだ』


外部スピーカーから響くナールライトの声に2機のサンバルテルミは威嚇(いかく)するように鎌を振り上げた。

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