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Galaxy Trail  作者: 紀之
冥王の住む星

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第十三話 灼熱と閃光(後編)




 カデシュはグログのタラス・ダン1機に翻弄されていた。それは同時に母艦たるカルブンクルスとその

僚艦ラッダイト級攻撃空母ガランがヘーレム軍の集中砲火を浴びる事を意味していた。タラス(現行型)は今回の作戦の為わざわざ最初期型の武装である対艦装備(2連レールキャノン+18連装ホーミングレーザーナパーム)を両腕に抱えて猛烈な火線を360度から浴びせる。その攻撃を縫うようにマンジケルトのフォトンライフルとバルカンの閃光が漆黒の宇宙を彩る。


「各砲座良く狙え!周りは敵しかいないんだぞ!」


ガランの司令室でレガスが怒鳴っても状況は好転しない。人類連盟側からの砲撃はヘーレム側の10分の1にも満たない。そもそもガラン含むラッダイト級攻撃空母はヘーレム軍のオートノミー級を参考にした弊害で上下からの攻撃に弱いのだ。


加えて先程マンジケルトの特攻で主砲を1基潰されている。その報告は先刻受けてなおこういう指示しか出せないのがレガスという人間だった。


「カルブンクルスはどうした!?カデシュはまだ新型を振り切れていないのか!?」


「撃ちまくっています!!向こうはまだ戦っている模様!?」


(無能共め!私はここで終わっていい人間ではないのだぞ!?)


オペレーターの簡潔かつ、こちらの意図を理解していない返答に歯噛みすると手許のモニターを引き寄せる。モニターに映る土星の様子がおかしいのは素人目にも明らかだった。両極から絶えずオーロラが観測され、3重のリングが高速回転を始めているのだ。


『あの土星に取り付けられた装置が分かった。あれはマイクロ加熱装置だ!それも俺達どころか近隣の星さえ焼き尽くす規模のモンだ!』


ハリオからの緊急入電にガラン同様激震に包まれるカルブンクルスのブリッジクルー全員の背筋が凍る。


「止める方法は・・・ないんだろうな?」


『理論上可能だが、その芽は今潰されちまってる。連中がカデシュに新型をぶつけたのはその為だ。しかもあの2機ドンドン星に近づいてってる。磁気障害で通信が取れねえ』


報告を聞いてルツは目を閉じて深呼吸を1つするとブリッジに命令を(とどろ)かせた。


「前に進む。どの道奴らはこっちを蒸発させるために土星へ近づけさせる腹積もりだろう」


ブリッジクルーの不安な眼が一斉に突き刺さるのを跳ね返すように続ける。


「その前にスペースジャンプ妨害装置を破壊し、宙域を脱出する!ガランにも通達!」


「しかし、カデシュは・・・!?」


「勿論助けるさ。アニマ級でカデシュを回収する。決死隊になるけど、ね」


「了解です!!こちらカルブンクルス・・・・」


(生きていてくれよ、カケル、ユーカ、レン)


ルツは久しぶりに神に祈る気持ちになった。



マッハ15とマッハ13


タラス・ダンとカデシュType・Fの限界速度である。振り切れないと悟り、こちらに突進するカデシュをグログはクルリと機体を回転させていなすと無防備な背中にフォトンマシンガンを叩き込む。最初の数発を受けながらも反転宙返りしつつ、両腕のクローと背中のプラズマフェザーブレイド全てつまり羽根を前方に向けて(きり)揉み突撃するカデシュ


「いけー!」


絶叫する優歌。その左右に座る翔とレンはシートから振り落とされないようにするのが手一杯で文句を言う暇もない。


「やるな!動きは完全に素人だが・・カンと思い切りは良い・・・!!」


上方から迫るプラズマのドリルをタラス・ダンは苦もなく躱すと機械の正確さで敵機の背中を蹴り飛ばした。


「きゃあああ!!」


「グッウウゥ・・!」


「うぐ・・・あ、あれは!?」


回転と衝撃による三半規管のダメージでの嘔吐を辛うじて堪えた翔は土星が巨大な赤い塊になっているのに気が付いた。しかも機体は星へ向かって追い込まれている。


「土星の温度が上っている!?優歌、カルブンクルスへ、ゥウッ!」


マシンガンが左腰に直撃しコクピット内が再度揺れる。


「分かってるよ!?でもアイツの方が早いし、攻撃も(かわ)されちゃう!」


「ユーカ、まだType・Fには武器があるでしょ!それを使って最後の攻撃を仕掛けて!」


「レン、何かあるの?」


「ある。全員で集中しないと成功しない。だから」


「それに賭ける!任せたわ!」


「それじゃ・・・」


敵に背を向けていたカデシュは再度両腕のクローと背中のプラズマフェザーブレイド全てを前方に向けて錐揉み突撃する。その行動にグログは軽い失望を覚えざるを得ない。


「こんな低能共に煮え湯を飲まされ続けてきたとは・・・・」


既にドリル戦法のモーメントは解析済みだ。後はやって来る馬鹿の喉元にプラズマソードを突き立てるだけで良い。所詮大した価値の無い星とはいえ大舞台の為の巨大装置は敵を過大評価し過ぎた損失としては大きすぎる。


「死ね!」


タラス・ダンの右の腕部固定式プラズマソードが突き出された瞬間、重い金属音が互いのコクピット内に響いた。


「モーメントが変った!?」


「「「せえええい!!」」」


ソードを折られたタラス・ダンはすんでのところでカデシュの振り上げた大剣プラズマバスターソードの一撃を後退で紙一重で躱した。


「羽が分離するだと!?デタラメが過ぎる!」


渦を巻くように振り下ろされるバスターソードの軌道に沿って機体を滑らせ、グログはタラス・ダンの左肩のホーミングレーザーナパームを至近距離で撃ち込むが、同時に右肩先端を相手のクローに貫かれる。


「浅い!?」


「防御を!」


3人の思惟を受けたカデシュは驚くべき速さで大剣を盾替わりにマシンガンを弾くと全速力で土星へ向かっていく。


「勝てないと見て機体(ごと)自殺するつもりか?そうはさせん!」


頭脳ユニットに稲光を走らせグログも機体を加速させ後を追う。


「翔、本当にこっちでいいの!?」


FOの持つ機体の恒常性を保つ機能を持ってしても巨大な電子レンジと化した土星。優歌はその熱と光をコクピット越しに一番受ける位置にいるのだ。


「ああ。2人共土星の輪の隙間を探してくれ!そこに入るんだ」


「輪が蒸発してなきゃいいけど・・・・それに賭けるしかないね・・!」


翔の意図を察したレンに優香はむくれる


「な・・・なんで2人だけで通じ合ってるのよ!説明しなさいよ翔!」


「土星表面は今高熱でガスが吹き上げてる。ガスの嵐と土星の重力を利用すればType・Fのスピードならアイツを振り切れる。今奴がスピードを落として後ろから射撃に徹しているのは熱で溶かされるのを恐れているからだ。それを利用するしかない」


「難しい事はわかんないけどとにかくアイツから逃げられるのね!」


「そうだ」


優歌の瞳が土星の光を受けて輝く。2人のやり取りを見てやってられない、とレンは首をすくめる。

同時にセンサーが第3者の到来を告げると共に翔の目の前のモニターにその物体が出現する。


「あれはアニマじゃないか!?どうしてここに!」


『北条君!?カルブンクルスは妨害装置を破壊してワープします!戻って来て下さい!』


「琴音!?何で琴音があの中に?」


カデシュは敵の攻撃を防ぐべくアニマ級へ向かう。


「チ・・・ナールライトの送って来た保険か・・・戦いに夢中になって忘れていたぜ!」


グログは例のアニマ級に搭載した自爆コードを起動する。もはや戦いの趨勢に関わりが無くなったものの、ナールライトは一方的にこちら側の視界や思考を読み取ることが出来る以上、キッチリ排除しておく必要があった。


(艦の自爆程度でどうにかなる奴でもあるまい。むしろ乗員の死亡でこちらへ敵愾心を燃やしてくれれば思う唾だ!)


グログの読みは外れた。カデシュが既に新たな搭乗者を件の艦のクルーから選んでいた事に彼は気づくはずも無いのは当然ではあるのだが。カデシュのコンピューターはアニマ級の異常を翔へ知らせた。


「何だ?アニマ級に異常な熱反応?牧野さん!アニマ級の皆、外に出ろ!自爆するぞ⁉」


この行動が琴音を守る為の行動だと気づく者は誰もいなかった。


『ええっ!?皆さん早く!?』


『駄目だ!間に合わん!』


「皆ブリッジに!優歌、グラビティ・リフターを全開にして腕でも足でもブリッジに入れろ!早く!!」


「わ、判った」


幼馴染の剣幕に優歌はただ従うしかない。右腕でブリッジの天井を貫くと同時にアニマ級が爆散した。


「う・・・俺達生きているのか?」


爆光が晴れた後。ブリッジの一角だけが綺麗に切り取られた様に残っていた。そこから後ろは跡形も無く吹き飛んでいるのを見て全員身震いする。最大出力のバリアーは爆発はおろか後方から降り注ぐマシンガンを弾き返していた。


「やった・・・守る事ができた・・・」


「よかった、琴音、良かった・・・ってあれ?」


「どうした?」


「機体が勝手に動いて・・・る?」


「まさか・・・」


レンの予想通りカデシュは琴音を掴むとコクピットハッチを開けて彼女を迎え入れた。


「牧野・・さん?」


「ウソ・・・琴音が4人目・・・なの?」


「そう・・・なんですか?」


「空いた席に座って!ここを切り抜けるわよ!」


突然の事に動揺する琴音。琴音はレンに優歌の右隣の席を指し示されるとおずおずと座った。


「後数秒でバリアーが切れる・・・限界だ。俺達はともかく艦のクルー達は無防備になっちまうぞ」


「北条君、どうすれば・・・良いんですか?」


「牧野さん!『操縦者交代(テイクターン)』だ。操縦を代わってくれ!」


「でも・・・」


「こいつは頭で、心に思った通りに動くんだ。ペダルとかレバーは補助だよ」


「心に思った通りに」


琴音はモニターに映るアニマ級のクルーらを見る。


(誰も死なせない・・・倒すのではなく守る力を!)


操縦者交代(テイクターン)


コクピットシートが回転し、琴音が正面に座る形になる。同時に頭上のヘルメットが彼女の頭に装着され、その意志を読み取ったカデシュの姿に変化が現れる。


クワガタを思わせる顎と頭部の3本の角が頭頂部で重なり合い半円型の飾りとなる。


翼と肩装甲が一体化。


手足の装甲が丸盾状に変わる。


胸部装甲はいかにも頑丈そうな重鎧の見た目に変化する。


カデシュType・D


防御重視の形態である。


「また新しい姿になっただと・・・?だが戦いは守りより攻めの方が強い!」


グログのタラス・ダンはあっという間にカデシュType・Dの背後に回り込むとフォトンマシンガンを連射。


「きゃ!?」


琴音の無意識化の防衛本能に反応し、翼が盾の役割を果たし弾丸のエネルギーを吸収し、本体のエネルギー残量を回復させる。


「カデシュのエネルギーが回復?敵の攻撃を吸収して自分のエネルギーにしているのか?」


翔はアステロイドベルトの戦いでの欠点を補おうとするかの如きカデシュの進化に驚く。


「翔、土星が・・・!?」


優歌の声に彼だけでなくコクピット内の全員が正面モニターを見る。


「輪が無くなって膨れ上がって…る!?」


レンは土星が膨張し温度が際限なく上がっていくのを見て絶句する。


(チッ、潮時か。これ以上は危険だな。予想以上に膨張が早い!?)


グログはFO部隊へ撤退信号を出すと自身も戦闘区域を離脱する。


「逃げる!?土星をこのままにしていくつもり?」


優歌の怒声に応えるように星の反対側からビームの嵐が襲い掛かった。既に土星の反対側に移動していたストラデゴスとオートノミー級の2艦が人類連盟をこの宙域に釘付けにすべく艦砲射撃を始めたのだ。


「なんて弾幕だ・・・土星の温度もどんどん上がってる!?衛星やリングの水蒸気が影響してるのか!?」


「優歌ちゃん、北条君、レンさん、私、やってみます!きっとこの力はこの為の力だから!」


青ざめながらも琴音はカデシュの翼を目一杯に開くと8枚の羽を本体から分離。


アニマ級のブリッジの残骸を両手で包むように保護する分離した羽はバリアーを展開し、周囲の艦砲を防ぎつつ本体と共に土星から後退していく。攻撃を受けた羽は緑に輝くと同時に受けたビームをエネルギーへ変換し離れた本体へエネルギーを供給し続ける。


「カルブンクルスは無事なのか!?」


「いた!レガスって人の船も残ってる!」


後方から艦の各所から火花を散らしてボロボロのカルブンクルスからノイズ交じりの通信が入る


『皆無事か?残念だが土星の膨張が早すぎてスペースジャンプは間に合わない。だが最後の希望がある。あの星はガス惑星だが中枢は岩塊上の核がある。それをゲヘナバスターで撃ち抜くんだ。爆発のエネルギーはカルブンクルスが吸収する』


(星を破壊する・・・・それしか・・・・無い・・・皆が助かる為には・・・)


「分かりました。やってみます。牧野さん、ここからは俺がやるよ」


翔はカデシュのエネルギー残量からゲヘナバスターを撃てることを確認し、パイロットシートを回転し機体をType・Nへ戻す。


「もっと、近づかないと・・・・」


超高温の土星を正面に見据えるカデシュ。バリアー越しでもコクピット内温度は100℃を超えている。

これで無事なのは(ひとえ)に奇跡としか言いようが無い。


カデシュの口が開き、周辺に土星と遜色ない、赤い輝きが収束していく。


「計測データ確認!目標正面、いつでもいいよ!」


レンの声に翔はトリガーを引く。


巨大な赤い閃光が紅い星の核を貫く。


「退避しろ!」


グログは愛機の中からありったけの怒声をブリッジに響かせる。


「無理です!!間に合いません!?」


「やれ!!連中の真上に行け!何としてもだ!」


土星の反対側で安全圏に退避していたヘーレム軍は星の爆発による何重もの凄まじいプラズマの嵐に呑まれ、オートノミー級が瞬時に爆散、ストラデゴス級機動戦艦も砲や電装系が爆発し、艦内部が次々と誘爆しながらも上昇し光と炎の嵐を乗り切った。


「アシミレイションシステム起動!」


「起動!」


カルブンクルスは球体各所のアシミレイションシステムを展開し、その爆発エネルギーの吸収にかかる。プラズマの嵐がまるでブラックホールに吸い込まれるようにカルブンクルスの球体に吸い込まれていく。


『無駄な事はやめて後退しろ!』


「旗艦は残さなくては!それにこの奇跡を起こさなくちゃ、冥王星攻略は無理ですよ!!」


船体各所からカルブンクルス同様に火花を上げるガランは僚艦を盾に宙域から後退をかけていた。ガランの状態ではカルブンクルスが無くなった場合、ガランも逃げ切れずに蒸発する事は明らかだった。レガスの言い分は正しいと理解していたがルツは彼のプライドと安全を考慮する言葉で押し切った。


「カデシュは!?」


「健在です!向こうもアシミレイションシステムを起動しています!」


「エネルギーが満タンになったら離脱しろと言え!こっちは地球のマグマの中に居たから大丈夫だと伝えろ!」


「は・・・はい!‥‥う…嘘だろ?ストラデゴス!?」


「こんな時に・・・!」


ブリッジでの閃光と激震の中でのやり取りが続けられる中、敵の旗艦が艦首主砲、超大型フォトンブラスターの発射体勢を取って真上に現れた事にクルーは絶望する。迎撃など間に合わない。


「あれは・・・ストラデゴス!」


「ウソでしょ!?撃ってくるの!?」


「そんな・・・この体勢じゃ動けないのに・・・!?」


「皆、力を合わせよう・・・なんでカデシュが4人乗りなのか・・・4人の意志を1つにすれば、きっと出来る!応えてくれる!!」


「北条君・・・」


「翔」


「やってみよう、カケル、指示を」


「ああ!意識を集中して!牧野さん、翼を大きく。レンはストラデゴスの弱い所をロックオンしてくれ!」


「「了解!」」


(やってくれよ、カデシュ!)


カデシュは翼を巨大化させると180度回転。土星の爆発を翼に吸収しながら再度口を開く。


「貴様の始末は俺が着けると言ったはずだ!」


部下の制止を振り切りグログのタラス・ダンがストラデゴスから飛び立つと一直線にカデシュへ向かう。


「翔、さっきの奴が!?」


「構わない!」


カデシュがゲヘナバスターを放つ。巨大なビームは途中で幾重にも拡散し四方からストラデゴスを貫く。


「な・・・こんな芸当を!?ウッ!?」


グログは動揺でタラス・ダンの足を止め振り返る。その一瞬の混乱から視線を戻した時カデシュType・Fがプラズマバスターソードを構えて突進してくるのが見えた。


「いっけえェー!!!」


大剣はタラス・ダンの腹部を貫通し、猛スピードでそのまま爆発するストラデゴスの主砲に縫い付ける。間を置かず主砲のエネルギーが逆流し、敵旗艦は指揮官機諸共轟沈し、土星だった火の玉に落ちて行った。


「奇跡だ・・・俺達は奇跡を起こしたぞオオオ!!」


小さくなっていく火球(木星だったもの)を前にハリオが雄叫びを上げる。その叫びはカルブンクルスに伝播し、人類連盟の歓声が宙域に木霊(こだま)した。


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