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Galaxy Trail  作者: 紀之
冥王の住む星

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第十二話 灼熱と閃光(前編)




ラッダイト級攻撃空母3番艦『ガラン』の格納庫に巨大な隕石が運び込まれていた。厳密には隕石に偽装したアニマ級高速戦闘艇で外壁に取り付けられた岩石を整備士達が取り除いている。レンは格納庫に入ると直ぐにキャットウォークを蹴って飛び降りると除去作業に加わる。


「俺達も!」


「うん!」


北条翔と相羽優歌もそれに続いた。


艦の装甲は所々摩耗(まもう)し、焼け焦げている個所もあり、エンジンを1基喪失していたが船体は原型を保っている。


(大丈夫・・・!きっと無事だ!)


船の入り口を塞ぐ岩を除去するとレンは船内に飛び込む。


「ラナ!?シュッツ!?トリル!?返事をしてくれ!!」


無人の廊下。ガンルーム(下士官室)や食堂にも人の気配はない。


「みんな・・・!どこに・・・!?」


不安と苛立ちで廊下の壁を叩くレンに追いついた翔が声を掛ける。その後ろから優歌とガランのクルー2名が続く。


「落ち着け。レン、ブリッジは!?見たのか!?」


「いや・・・そうだね、一刻でも早く友軍を見つけたいなら皆そこに行くかも・・・」


ブリッジ前の扉を前にレンは突然足を止める。


「どうしたの?」


「扉の左右に分かれて伏せて」


その言葉通りにガランクルーは即座に分かれると意味の分かっていない地球人2人を強引に自分達の傍に中腰にさせると銃を抜く。


「2人とももっと伏せて!」


屈みこんだレンが扉を開けると同時に中から赤い光弾が飛び出し、廊下を駆け抜ける。扉越のレンの銃撃を躱した血色の悪い男はガランクルーの銃撃は流石に躱しきれず足を撃ち抜かれ倒れ込む。その状態で銃口を向ける男の顔面に容赦なく2連射を叩き込むレン。


「やったか?」


「一応念を入れておこう」


動かなくなった男にそれぞれ1発ずつ撃ち込み、ようやく人間達は焼けた金属のいやな臭いの充満する味方の艦のブリッジへと入った。


「いくら何でもやり過ぎじゃ・・・・」


「ここまでしないと安心できないのよ。それと気を付けて。1体ってことはあり得ない」


腹這いで進むレンは後ろから同じ姿勢で話しかけてきた優歌に呆れたように返す。


(これが俺達の敵・・・)


翔は敵の吹き飛ばされた皮膚から覗く機械の目や配線に寒気を感じつつも命を狙われたにも関わらずほんの少しだけ憐れみの心を抱いていた。だがその感情もレンの声にかき消された。


「ラナ、ラナ!?しっかりして!?」


ブリッジの奥に倒れていた金髪の少女を抱き抱えて名を叫ぶ。


「まだ生きているようだ。他のクルーもな」


「あ・・・ああ」


ガランクルーの初めて掛ける温かい言葉にレンは床にヘナヘナと座り込む。


「良かったじゃない。友達が無事で」


「うん。ありがと」


差し出された優歌の腕を取り、レンは立ち上がった。その顔は安堵と微笑に彩られていた。



「救助された皆さんは栄養失調だな。かなり弱っているから経口からの栄養摂取は難しい。数日は絶対安静だ」


ガラン内の医務室。その隅で様子を見守っていた翔・優歌・レンに救助者の容態を診ていた船医のマリスがずり落ちた眼鏡を直しながら言った。


「問題はここにも帰還したアニマ級の倉庫にも大した食事はないってことだ・・・」


アニマ級帰還の報に人類連盟の兵士達を活気づいたが、食料その他の補給物資無しの報告は再び彼らの士気が下がるのに十分だった。


「ありますよ。量は十分ではないかも知れませんが、カルブンクルスなら野生動物が居る区画があるんです。少なくとも肉や魚は確保できるはずです」


翔の言葉にマリスは喜色満面の笑みを浮かべる。


「何てありがたい事だ!?あの球体にそんな物があるとは・・・・あれは君達の星の移民船なのか?」


「突然出てきたのでそこまではまだ・・・・」


彼の笑顔の前に翔はあれが星の核だったという事を伝えられなかった。今は全体の士気を落とす要因は極力排除すべきなのだ。


「ではそうなると、安全性や輸送の点から彼らをカルブンクルスとやらに移した方が良かろう。そっちの医療班を寄こしてくれ。ブリッジには連絡しておく」


「ありがとうございます」


「ウチの医療班の人って誰だっけ?」


ガランの長い廊下を歩きながら、優歌は顎に手を添えて必死に思い出そうとしたが出て来ない。彼女の言う事は正しい。カルブンクルス内ではクルーの誰もがいくつもの仕事を掛け持ちしている。よって自分と業務の被っていない人間の仕事内容まで把握できていないのが実情だった。


「ちょうど良かった、君達!」


脇から声を掛けられた優歌はその男性の名前をやはり思い出せない。どこかで一度会っているのだけは覚えているのだが。


「え~と?えっと・・・どなたでしたっけ?」


「イフルさ。兵站(へいたん)管理と整備の手伝いをしている。彼女には良く助けてもらっているよ」


「そうだ、イフルさん。何でここに?」


「勿論食料や医療品の搬入(はんにゅう)について報告にね」


「それはブリッジに?」


「艦長のゴドフ大佐にね。君達は?」


「アニマ級の乗務員達をカルブンクルスへ移送した方が良いと。それで医療班に連絡を」


「なるほど。ならついでにその報告は僕がやっておこう。実は君達をカルブンクルスへ戻せと艦長に言われてきたんだ」


「わかりました。お願いしますイフルさん」


「作戦会議かな?」


「だろうな。敵の基地を攻め落とすんだ。今迄みたいにはいかないだろ。それに・・・」


イフルと別れて格納庫への道すがら優歌の疑問に翔は緊張しつつ言葉を返す。


「残された地球の人もいるかもしれない?」


レンの言葉に翔も優歌も頷く。カデシュの周りには人だかりが出来ていた。3人が乗り込み発進準備にかかると蜘蛛の子を散らすように去って行く。


「どこにいたんだ?」


「多分、4人目になりたがっていたんだよ。駄目だったみたいだけどね」


「選ぶ基準と選ばれる意味か・・・」


コクピット内で翔は呟く。


遠く冥王星にカデシュと同等のマシンがある。そいつは同じ機械をパイロットに選んだ。その理由は『彼ら』にしか分からないのだ。



ガランと接舷したカルブンクルスに戻って早々、多くのクルーがカデシュを取り囲む。一部は整備班だが、大半は難民や仕事の合間を縫ってきた他のクルーだ。


格納庫の床に降り立った3人は気密服を着た牧野琴音にバッタリ会った。彼女は少しやつれているように見えたが、少し逞しくなったように翔には見えた


「牧野さん!」


「琴音!もしかしてこれから向こうに行くの?」


「北条君、優歌ちゃんもお疲れ様。そうだよ。それが終わったら出発するって」


「そうか・・・牧野さんも体に気を付けてな。頑張りすぎて倒れちまったら何にもならないから」


「アンタ達、医療班を引き留めないの。任務中だよ。それじゃコトネまた会いましょう」


名残惜しそうにする翔と優歌を引き離すレンは内心損な役回りだと思いながらも必要な事だと割り切ってもいた。それを見送る琴音もレンの心情を知ってか、柔らかかった。


(本当は皆に相談したい・・・皆どんどん戦いに呑まれていっているみたいで怖いって・・・でも皆を守る事はしたいって思うのはおかしいのかな?)


琴音はふと視線を感じて上を見上げる。視線の先にはカデシュが居た。自分の心に湧き上がって来た何かを振り切るように彼女は踵を返してガランへ向かった。


「・・・・以上の様にカデシュType・Fで引っ掻き回している間に潜入班が基地に侵入し、捕虜を解放する。ユーカの負担が大きいけど大丈夫そうかい?」


カルブンクルスのブリッジでの作戦会議。レガスのプレッシャーから解放されたせいか心なしかルツの声は明るい。


「平気平気!どっちかっていうと翔の方が危険じゃない?潜入班なんて」


「良いんだ。どうしてもあそこに両親や相羽のおじさんやおばさんがいるような気がしてならないんだ。すみません、艦長。無理を言ってしまって」


「いいさ。基地攻撃じゃなく捕虜奪還にする方が現実的だからね。だがグズグズしない事だ。分かっているね?」


「カルバラー、か。どんな奴なんだろう?」


全員の視線が宇宙図の冥王星に集まる。そこに敵の最大戦力が居る


「悪魔だよ。あれ1機で人類連盟の戦力は壊滅に追い込まれた。そこから立て直すのに今日までかかった訳だけど、その恐ろしさをレガスも知っているはずなんだが」


「そんな奴でも徒党を組むんですね」


翔の言葉にルツは(うなづ)く。


「勿論。補給やらがあるからね。1人で支配するには宇宙は広すぎるのさ。じゃ、アニマ級が運び込まれたら翔は中で待機。ユーカとレンはカデシュへ」


「「「了解!」」」



数時間後・土星近海


「スペースジャンプ反応確認!」


「誘導装置は作動しているな?」


「稼働状態良好!敵艦2!」


タラス・ダンのコクピット内でグログの頭脳ユニットは報告に一瞬だけ驚いた表情を見せた。だがそれが取り逃した魚の1つである事に気が付くと残忍な笑いを抑えられなかった。


「敵艦の熱源反応に気を付けろ!司令官殿のダメ押しの一手を無駄にするなよ!FO各機発進!」


オートノミー級とストラデゴス級から発進したタラスとマンジケルトは明らかに動揺している人類連盟軍2艦に殺到する。


「ここはミラ=ゴ星だぞ!!座標を間違えたのか⁉」


ガランのブリッジに司令室からレガスの怒声が響く。


「航路を誘導されました!ミラ=ゴ星に巨大人工物あり!画像送ります!」


「そんなのはここからでも分かる!カデシュを迎撃に向かわせろ!タラス各機は艦を守れ!」


混乱しているガランと違いカルブンクルスでは粛々と迎撃準備が進められていた。


『カケル、冥王星に行く前に一仕事だ』


「もう乗っています。数は?」


『40機近く。それより君達の言う土星に何か取り付けられている。そっちに注意するんだ』


「了解です!カデシュ発進します!」


翔とルツの通信にハリオが割り込む。


『お前ら!マンジケルトの残骸を還元して養分にしたから奴らの行動パターンをカデシュが学習してるはずだ!少しは楽に戦えるぞ!』


「ハリオさん、仕事早いねえ!」


モニター越しのハリオに優歌はサムズアップする。ハリオもつられて笑顔でサムズアップを返すと通信を切った。


「カケル、外に出たらアタシが代わる!」


「わかった!」


宇宙に出たカデシュの目の前の土星が両極にリング状の機械を付けていた。それより前面の光点が自分達へ向かって落ちてくる。


(あれは何だ?)


嫌な予感と共に翔はカデシュの操縦権をレンに渡す。カデシュはType・Gへ『変身』すると四方八方から殺到するタラスとマンジケルトをロックオン。ハリオの言った通り、カデシュのコンピューターはマンジケルトの機動を計算し、予測データをレンの脳内に流し込む。


「っ!」


痛みをこらえつつ、トリガーを引く。両腕のフォトンライフルと背部の6連ホーミングレーザーナパームを放つと瞬時に爆光が8つ生み出された。


「大丈夫か?」


「平気。カデシュの予測スピードに戸惑っただけ。じき慣れる」


「本命は冥王星なんだ。あまり無理するなよ」


「ありがとう。でも、ね!」


(翔の声で少しだけ頭痛が収まった気がする・・・)


レンは不思議な現象をそれ以上追及することなく目の端から去って行くマンジケルトを捉えライフルを放つ。半身を吹き飛ばされながらマンジケルトはガランへ特攻し、艦前部の砲塔を巻き込んで爆散した。


「しまった!アイツら・・!?」


「大きな反応、後ろ!?」


その反応はガランとカルブンクルスも感知していた。


「ストラデゴス級に後方を取られ、ッつ!?」


激震に両艦のブリッジが揺れる。


「バリアーの強度を上げろ!カデシュを呼び戻せ!」


猛烈な火線が襲い掛かる。ストラデゴス単艦の火力はこの宙域に居る他の艦の全てを合わせた数の数倍はあるのだ。無数とも思えるホーミングレーザーナパームが直掩のタラスをあっけなく全滅させる。


「良いぞ、そのまま撃ち続けろ!FOはカデシュを艦へ行かせなければ良い!例の新形態が出たら知らせろ!俺が相手をする!」


『自爆コードは?』


「まだだ。奴らが粘るようならスイッチを入れろ。それまでは触るんじゃねえ!」


『了解しました』



「クっ!?」


母艦の強襲と(まと)わりつく敵の多さによる情報量の負担がレンの集中力を奪い、カデシュの動きは目に見えてキレが無くなっていた。


「カルブンクルスの援護に行こう!あれじゃ持たない!」


「でも・・・!?」


「連中も旗艦を落とされるのは避けるはずだ。必ず陣形に穴が開くはず!」


「分かった」


「優歌頼む!」


「OK!」


レンは優歌に操縦権を渡す。Type・GからType・Fへ『変身』したカデシュは周囲の敵を振り切り母艦へ一直線に向かう。


「え!?」


優歌も他の2人も絶句する。


何かが真っ直ぐ向かってくる。それもこちらを超える異常な速度で


「ひっ?」


動物的本能で機体を左に振り、いくつもの緑色の光弾を避ける


「この数、マシンガンか!?」


「分からないよ!?てか消えた!?」


「下からっああっ!」


一瞬の交錯(こうさく)。カデシュの右足を切り飛ばし、上へ飛び去る一つ目の機体を翔は目にした。


「違う!?タラスじゃないのか!」


「貴様はここで葬ってやる!」


グログがタラス・ダンの中で吠えた。


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