第八話 生きる為の戦い
「どうだった?」
「駄目。見つからない」
「その、亡くなった方の中にもまだ・・・・」
カルブンクルスの自然地区。この森の一角にある大樹の陰で北条翔と相羽優歌、牧野琴音の3人は一様に疲れた顔で互いの情報を交換すると長いため息をつく。
「もしかしてあの中に乗って無かったのかな・・・」
「まだ分からない。時間ギリギリまで探そう。牧野さん、今度から俺が『死体安置所』に行くよ。一番辛い思いをさせてごめん」
「いいえ。北条君も優歌ちゃんも頑張っているのに私だけ何もしないのはおかしいから・・・」
巨大球体ポッド・カルブンクルスは先の火星近海での戦闘で奪還した地球人難民3億5千万人を受け容れた。実際は受け入れざるを得ないというのが正しい。直径15kmの球体にそれだけの人間を受け容れるだけの部屋数などある訳がなく、救出された難民は廊下や格納庫にまで溢れて寝起きしているのだ。翔達3人はこの生まれも言語もバラバラの大量の難民の中から毎日親兄弟親戚を見つけようと必死だった。ポッドのあらゆる場所にいる彼らは生きているだけまだマシだった。高性能翻訳機から聞こえてくる、彼らの独り言や切々とした訴えから『奴隷船』の中はおよそ人間の想像し得る限りの地獄だったことが容易に想像出来た3人は何度も人知れず涙と嘔吐を繰り返したのだった。
問題は家族が既に亡くなっている事も考慮しなければならない事だった。拉致された後最悪の衛生状態とロクに食事も与えられない環境で餓死や絶望からの自殺を遂げた人々の確認をしなければならない事は想像以上の精神的苦痛を生じさせるはずなのだ。それを率先してやってくれた琴音に翔は頭が下がる思いだった。
(それも、身元が判明が判るくらいのモノだけ収容したって艦長が言ってたっけ・・・)
遺体の搬送や『選別』はルツら異星人の手で行われた。ショックを与えたくないからね、というのがルツの言だった。
そして彼女は地球人3人に5日以内に親族を探し出すか、遺体を見つけるかしろ、ときっぱりと言い切った。最後に感染症の蔓延を防ぐ為に全ての遺体は宇宙葬にするといった。
「出発は残り3日しかない・・・・。そもそも、本当にいるの?人類連盟の艦隊って奴?」
優歌の言葉に翔も懸念を返す。
「その司令官は簡単に撃沈されるような人じゃないらしいが、艦長やレンの反応見る限りあまり信用が置けそうにないんだよな」
件のカデシュ捜索艦隊の司令官レガスなる人物の評価は元エイジア号のクルー全員から極めて辛辣だった。
「実際に会ってもないのにそんな事言うのは悪いですよ」
琴音が2人を咎める。
その時3人の腕につけた携帯アラームが休憩終了の時間を告げる。
「戻ろう。いつまでもここに居たらそれこそ艦長達の気遣いを無駄にしちまう」
火星と木星の間に位置する環状隕石地帯・アステロイドベルト
その中の一際巨大な岩いや惑星や衛星と見まごうサイズの隕石の影で機械帝国ヘーレム艦隊は部隊再編の真っ最中であった。
「・・・ナールライト司令の言葉を深読みし過ぎたな。マンジケルトといって本当にマンジケルトを送って来るとは・・・・」
「「「我々の実力にご不満でも?」」」
艦隊旗艦ストラデゴスの、まばらに漂う隕石の見える指令室で司令官席の前の顔色の悪い赤髪の3人の士官は完璧に声を揃えて司令官グログへ尋ねる。彼らはマンジケルト操縦の為に同一の工場で誕生したグループの中でも優れた特質をもった3人である。
「いや。お前達がマンジケルトのテストを務めた事は知っている。だから機体に愛着があるのも無理からぬ話だ。だが、既に強化タイプが量産されているんだぞ?FOパイロットならそれに乗りたいと思わないか?」
「「「全く。マンジケルトにはダン・タイプにはない強みがありますから」」」
ないよ、と言っても聞く耳は持つまい。機体バランスの悪いマンジケルトは強化改修機にとって代わられ既にヘーレム軍の中でレア機体になっているのだ。グログは建設的な話をすべく立ち上がった。
「その自信があるなら今回の作戦はお前達ルオゾ・グループに一任する。ただし、この地形だ。艦船の援護は当てにするなよ」
3人は全く同じタイミングで敬礼すると後ろ歩きし、指令室から退出した。
彼らが居なくなるとグログは後ろの壁のインターフォンを取るとブリッジへ繋ぐ。
「有機生命体共の艦隊か母艦は見つかったか!?」
地球へ来たあの小型艦が無補給で自分達を追ってくる訳がない。必ず艦隊が存在する。グログはそう睨んでいた。隠れるならこの隕石群のどこか。
(その捜索の為の時間稼ぎの為にわざと死体含めて3億人くれてやったんだ。もう戦いから5日立っている以上、いい加減連中も落し所を見つけて動き出すはずだ。合流される前に何としても叩いておく必要がある)
「いいえ。痕跡はありません。レーダーにも偵察隊からも」
「隕石の大きさは?我々がこっちに来てからもう48日になる。連中とて同じか少し遅いタイミングのはずだ。なら鹵獲したFOの『栄養補給』の為に隕石群から金属を抽出しているはずだ!!今の我々のようにな!!」
「確認してみます」
受話器越しに息を飲む声が聞こえるが次には抑揚の無い声でオペレーターは返答するとグログは通信を切ると手元のコンソールを操作し、艦の整備状況やFOの乗員名簿を次々に頭にインストールしていく。その内容と状況予測に彼の頭脳ユニットの回線は火花を散らした。
「機体も人員も在庫処分のつもりか!?連中め、どんな作戦を考えるか見ものだな」
グログの予想通り、カルブンクルスは動き出していた。大量の遺体を宇宙葬にして。
「ハリオ、あの3人の様子はどうだい?」
『普通そうに振る舞っているが、心中穏やかじゃねえって感じだな。カケルはカデシュのシミュレートに鬼気迫るものがあるし、ユーカもタラスを分解しねえで自分に寄こせなんて言ってくる始末だ』
カルブンクルスの自分の私室でルツはハリオへの個人回線を開いて地球人組の様子を尋ねた。
「もう一人のコトネって子は?」
『あの嬢ちゃんはイフルと一緒に兵糧の管理や衛生兵の真似事をしてるよ。こういっちゃなんだがこっちが1番喉から手が出る程欲しい要員が手に入ったよ。ああいう地味な事は皆やりたがらねえからな』
「すまないが一番年上って事でフォローしてやってくれ。こちらも気には掛けるが」
『ま、お前さん方の仕事はレガスを探すのが仕事だ。こっちの方は何とかするよ』
頼む、と言ってルツは通信を切る。正直気が進まなかった。母の政敵であるレガスに借りを作る事も、受け入れた難民を養いきれないから他へ移れ、という事に対しても。
「そういう事をしているから勝てないって分かってはいるんだが・・・・」
明日が無いかもしれないのに今日という日を必死に生きる。生きている物の業に苦笑いするしかなかった。
「あれ、このデータ?ハリオさん、ちょっと」
カデシュのコクピットで操縦補助用のコントロールパネルを調整していた翔は武装データに先日煮え湯を飲まされたあのショックアンカーがあるのに気が付いた。
「今付けてる栄養剤がタラスを還元したものだからな。一緒にデータが流れてきたんだろ」
カデシュの背中で金属分子カプセルの注入作業をしていたハリオはコクピットに顔だけ出してそう言うと、すぐに作業へと戻ってしまう。
「それって、パイロットのデータも」
機体をのっとられるんじゃ、という言葉を恐怖と共に飲み込む。
「どうだかな。長年この作業をやってるがそう言うのは聞いたことがねえ。だから安心しな」
ハリオは首だけ回して答える。翔の言わんとすることを察する辺り、懸念自体は以前からあったのだろう。
「信じますよ!?」
「おう、信じとけ。丁度いい、休んどけ」
「でも・・・」
「レンに交代しろ。アイツだって自分の『体』を使い込んでおきたいだろうからな」
「そう・・・ですね。そうします」
翔はふわりと格納庫の床に飛び降りる。
「いいか!休憩する奴らは格納庫を出てキチンと休むんだぞ!!いざって時に倒れられたら困るからな!!」
はい!という威勢のいい声が格納庫のそこここに木霊した。
カデシュType・Gは四方からタラス(現用機)からのフォトンライフルの斉射を軽快かつ最小限の動きで躱す。
「やらせない・・・・!」
レンの意志と操縦桿の入力を受け両腕を大きく広げたカデシュがそれぞれの手に握るフォトンライフルの引き金を引く。2つの爆炎が咲く間に機体と腕を微調整し、炎が消えぬ内にレンは新たな2機を捕捉、宇宙を彩る赤い華へと変える。その花弁を破って突撃してきたタラスがショックアンカーを射出。カデシュはアンカーの動きに合わせて後退し、アンカーが伸び切った瞬間、その切っ先にライフルを突きつけると同時に光弾を撃つ。アンカーに沿って爆炎が伸び、アンカーを切り離したタラスの胸に風穴が開いたところでシミュレーション終了の文字がメインモニターに映る。
「・・・・こんなもんかな」
レンはヘルメットを押し上げ、額の汗を拭う。
「お疲れさん。やっぱ色々と違うな。特に」
ハリオの声は艦内に響き渡る警報にかき消される。
「来やがったか!レン、カケルを待ってやれよ!」
「勿論」
レンはシートを回転させ、Type・Nへ戻すと大きく息を吸った。
隕石を縫うように動く6つの光点。ルオゾ・シリーズの搭乗するマンジケルト3機と彼らが厳選したパイロット操るタラス(現用機)3機である
「各機、目標はカデシュのみだ。ポッドとやらには構うな。ナールライト司令の作戦を遂行する事だけを考えろ」
「ルオゾ・イー了解」
「ルオゾ・ド―了解」
タラス各機からの了解、との声を聞くとルオゾ・ム―のマンジケルトを先頭にしたⅤ字編隊がカルブンクルスへ襲い掛かった。




