21-すぐにやらなければいけないリスト
次の日、会社で朝食を食べながら、僕は部屋のイメージを考えていた。
1枚の紙に部屋の間取りを書き、色鉛筆でベッドカバーの色やラグの色を書き込んでいく。
暫く絵を描いていないせいか、なんとなく色がまとまらない。
そもそも、絵ではなくインテリアデザインなどやったことがない。
難しくて当たり前なのではないだろうか。
まず、タオルから考えることにした。
今使っているタオルは全部商店街や、引越しのご挨拶などでもらったものだ。
「○○商店街」や「××電気」などという名前付き。
収入を得ていても、前のアパートでは高級品を買うこともなく
つつましやかというか、身の回りを考える時間などもなく
過ごしていたのだから当たり前なんだけど……。
給料が入ってきて、更にスーツ代を貰い、高級な仕立てスーツを買った。
僕にとってはそれ自体が人生での大きな変化であって、毎日会社に行っては掃除をしたり、食卓に並べるメニューを考えたりするので手一杯だった。
給料には殆ど手を付けず、光熱費、スマホ代と筆記具、あとは清潔感を保つために2週間に一度、美容院に通った。そういえば、美容院の担当者さんに挨拶するのも忘れていた。
「すぐにやらなければいけないリスト」を僕は先に作ることにした。
1.不動産屋さんへの連絡(引き渡し日の相談)☑
これは、もし今日が可能ならすぐ出来る。
社長からは、今日来客があるとは言われていない。
できれば今日が都合がいいけど、不動産屋さんも今日の今日では不都合だろうから、一度電話することにした。
「亜界不動産でございます」
「すみません、稲田荷荘101号でお世話になっております、岡田です」
「あら、岡田さん!岡田啓祐さんよね?
ブレーカー動いてないから、いなくなったって心配してたのよ?」
「はいそうです。すみませんご心配をお掛けして
……急に引っ越しすることになって。
お引き渡しっていつがいいですか?今日の今日じゃ難しいですよね?」
「もうお荷物運んだの?
ブレーカー落としてあるくらいだから運んでるわね、くすくす。
今日でもいいわよ。何時に来る?」
「じゃあ、1時間ぐらいで行きます」
「わかりました。では1時間後にね」
2.美容院に電話(担当さんに挨拶)☑
今日は担当さんが必ずいる曜日だから電話しよう。
「はい、エルミフェールでございます」
「こんにちは、いつもお世話になってます岡田敬祐です」
「あー!こんにちは~今担当に変わりますね!」
「宜しくお願いします」
電話の保留メロディがピアノ曲だ。
この音楽も今日で最後かもしれない。
「お電話変わりました。重田ですー!敬祐さん?もう予約の時期でしたっけ?」
「それが、僕急に引っ越すことになっちゃって……」
「え――!!すっごい残念ですー。もうお逢いできない感じですか?」
「もしかしたら今日行けるかもしれないので、最後にお顔だけでも見に
行けたらと思ってるんですけど、お忙しいですよね?」
「何時ぐらいですかー?」
「今から2時間後くらいでしょうか、多分それくらいには付けるかと」
「あー!もう本当に敬祐さんラッキーですね。
そこ、全然予約入ってないんですよー」
「じゃあ、2時間後に行かせて頂きますね」
「分かりましたー!!お待ちしてますね~」
さて、そろそろ行かなくちゃ。
社長は脅してくるけど、今日は自分で動く最後の日にしよう。
電車に乗って、歩いて各所を廻るんだ。
最後くらい、スーツで行こう。
それが一番オシャレな気がする。
僕は立ち上がると、一旦部屋に帰って不動産契約書をバッグに入れ、
外に出て駅に向かった。